ビックリする事ばっかりなんですけど?
いつの間にか寝落ちしていて気が付いたら朝。
ペンを握ったまま寝ちゃうなんて何時ぶりだろうなんてボーっとした頭で考えていたら携帯の着信ランプが点滅しているのに気が付いて慌てて開いてみると、店長からは「相談があるから店の方に顔出して欲しい。」という内容でメールが入っていて、相変わらず岡崎 樹からは何の返答もなかった。
それはそれで困るんだよね。どうか家に帰るまで連絡が付きますようにと、こんな時だけ神頼みしてみるけどやっぱり初詣にも行かないような不心得者には通じないかも知れないし、でも、もしかしたら気まぐれで何とかしてくれるかもしれない。もちろん後者であれば何も言う事ないんだけど。
そんなこんなでデセールの開店前に裏口から声を掛けると
「はい。今開ける。」
と言う声と共に、ちょっとこの人雰囲気が店長と似てはいるけどなんか髪の色が茶髪って言うか栗色?染めてる感じじゃないような気がする。それにこの人って外国の人じゃない?って感じのコック服を着た人が顔を出してビックリして咄嗟に出た言葉が
「あんた誰?」
だった。すぐに店長が顔を見せて
「なんだ祥子じゃん。久しぶり。」
なんて言うものだから
「えっちょっと待って話が違うじゃない?どうゆう事?」
と言った私は悪くないと思う。全然元気そうなんだけど、どこが病気?相変わらず殺しても死ななそうな飄々とした態度に目を白黒させていると
「ちょっと表回って。今開けるから。」
というお言葉に甘えてさっさと店のイートインスペースに陣取ってお茶と新作だというケーキを前に話を切り出した。
「最近全然顔出してなくてゴメンね。ちょっと色々と面倒な事になってたんだよね。でも、ちゃんと従業員の人いるから安心した。やっと本腰据えてやる気になってくれて良かった。おじいちゃん先生も安心したんじゃない?でさ、昨日の夕方、ある人から電話貰ってこの店引き継いで貰いたい。って言われたんだけど、店長元気そうだしどうしたのかなって思って。」
「引き継いで欲しいってのはホントの事。ちなみに誰からの電話だった?」
「薫先輩って大学の先輩。あと、途中から女の人が入って来たんだよね。よく考えると、あの声どっかで聞いたことある気がするけど思い出せないんだよね。」
「あー。薫の方だったか。俺の甥っ子で、女の方は美里だな。ほら、今何とかっていうドラマに出てる相崎美里。一応女優らしいな。」
「なんで相崎美里が薫先輩の携帯で一緒に喋ってるわけ?どういう事?」
「そりゃあいつら夫婦だし。」
「はぁー?マジでか。」
「まだ公表してないんだっけ?まぁいい。ここだけの話にしとけ。面倒だしな。」
それだけで済ませられる店長ってさすが自称世界をまたにかけた男。スケールが違う。
「話を元に戻すぞ。デセールの事だが、この辺道路拡張が掛かったらしくて立ち退きしなきゃならん。そして俺の方も爺が引退するから会社に戻らなくっちゃならなくなった。そして俺の息子がこっちに就職する事が決定した。ジロー、ヴィアン イスィ。」
「はい。父さん。日本語で大丈夫よ。」
驚くばかりでポカーンとしてる私の前にさっきの店長似だけど外国の人じゃね?と思った人が顔を出した。
「こいつはジロー。長男だけどな。母親がやっと結婚するって決めたから父親に会ってみたいって言って、ここひと月ばかり居座ってる。元々コック志望でレストランで修行してたらしい。今度オープンするフランス料理のレストランで働くことになった。だからこいつにデセールは任せられない。だから、デセール引き継いで貰えないだろうか。この通りだ。頼む。」
「結婚?店長が?まぁいい年だしそれは分かったけど、急ぐ理由って何かあるの?おじいちゃん先生って仕事の引退を急ぐようなそんな年だっけ?またこっちに復帰させてあげられたらいいのに。」
「随分と本音が駄々洩れだなー。そりゃもちろん。本人望めばこっちにはいつでも復帰してもらうさ。それも含めての引き継ぎなんだからな。なんてったって一番弟子で元ジュニアチャンピオンのお前をどこぞに引っさらわれて堪るもんかって本人が一番息巻いてるんだからな。」
なんだかよくわからないけど、どこかで面倒くさい事が起きてることは間違いなさそうだねぇ。