別に言い訳なんて要りませんよ?
だんだん岡崎の本性が見えて来る?
「岡崎 樹」から連絡が入ったのは結局その週の金曜日になってからで、その連絡もメールで「少しお話したい事があります。」なんてそっけない内容だった。
どうやら場所や時間に拒否権はないらしい。指定された場所は割と大きなホテルの一室で、フロントで部屋番号を尋ねると、ちょっとだけ怪訝な表情を浮かべて場所を教えられた。
なるほどその訳はホテルの中でも一番小さいシングルサイズの部屋だからなんだろう。そこに尋ねて来る人が居るって事はあまり歓迎されないって事らしい。べつに泊まる訳じゃないし、めったにこれない場所だからいいかと勝手に解釈。
だって私は来るように呼ばれただけだもんね。さすがに知らない所のドアをノックするのは慣れてないから、大きく一呼吸して部屋のドアをノックして部屋のドアを開けて貰った。
中に入ると怪我の痕が大分良くなった「岡崎 樹」がいて、相変わらず無表情を張り付けた顔に幾分ホッとした。怪我した痛々しい顔じゃいくらなんでも気の毒だったから。
安心した私は、有名なホテルでもシングルっていうと随分と狭いものだねぇと珍しげにキョロキョロ見回していた。
「誰の邪魔も入らず話をするだけならここで充分でしょう。立ったままではなんですから、そちらに掛けてください」
と愛想の無い言葉が降ってきて、言われたとおりに座った先には缶コーヒーが置かれ「岡崎 樹」が向かい合わせに腰を下ろした。一瞬の沈黙の後
「単刀直入に言わせていただきますが、お互いに興味を持たない事、お互いに干渉しない事が条件だという事を覚えてますか?」
確認するように聞かれて
「えぇ。覚えてますよ」
あんなふざけた条件出されたのを覚えてないはずないじゃない。だからそれがどうしたの?と聞きたいぐらい。というか、そこのところハッキリさせてほしい。考えてみたらその辺の取り決めはしなかったような気がする。
「とんだアクシデントがありましたが、私はこの婚姻を止めるつもりはありません。契約にも取り決めの内容に抵触したとは思っていません。だからあなたにとやかく言われる筋合いは無いと思います。」
なんだとォー?相手は婚約者に愛想尽かしたアンタが婚約を止めたいって言ったと言ってるんだぞ?何でそうなるッ。憤慨したまま
「私が今日来たのは、婚約を白紙に戻して頂くためです。噂によると、私がイマイチだからと坂さんを口説き落として婚約も白紙に戻したいと言う事だそうじゃないですか。どうかお飾りの婚約者など止めてご自分が選ばれた魅力的な坂さんと結婚して下さい。まだ知りあって日も浅い事ですから違約金とか慰謝料なんて請求したりしませんよ?」
捲し立てるように一気に喋ると息が上がってしまったけど構うもんか。
いっそ私が息巻いてる様子を溜息を吐きながら見て、余裕かましているコヤツの鼻を挫いてやりたい。
「それは直接本人からお聞きしましたか?」
そんなの聞く訳ないだろうが。何が嬉しくて、私がイマイチな婚約者だと名乗りを上げなくっちゃいけないんだ。
「少なくとも、坂さんとの接触があったからこそ、そういう噂が流れた訳ですし改めて検証する必要性を感じませんでしたから、直接本人から聞いた訳じゃありませんが?」
ムッとした私を余所に「岡崎 樹」はニャリと人の悪そうな笑みを浮かべ
「そうですよね。確かに坂さんと一夜を共にしたのは認めますが、あなたを貶めるような事は一言も言ってません。きっとどこかで歪曲されたんでしょうね。まぁ噂なんて所詮そんなモノです。それを真に受けて婚約破棄を申し出るあなたもどうかしてると思いますけどね。」
って、坂さんと何かあった事は認めるんだ。ふーん。そうなんだ。
「坂さんと一夜を共にしたってところは認めるんですね?それでは改めてこの婚約は無かった事にしていただきます。」
ピシャリと言った私に驚いたように
「どうして?」
と間抜けな声を上げる「岡崎 樹」に
「他の女の人と一夜を共にしたなんてよく抜け抜けと言えるものですね、いくら契約でも婚約しているんですよ?それを認めるなんて私を馬鹿にしているんですか?明らかな契約違反なのに慰謝料の請求をしないだけ良かったと思って下さい。」
何なのこの人。まさか自分は何しても許されるとでも思ってるのかしら?
「生憎、君が思っているような事は無かった。さすがに午前様まで飲んでて泥酔してる女を抱く趣味はないんでね。据え膳は誰もが食うものじゃないし、男の恥ではないと俺は思っている。」
って、えぇーッ。どう対応したらいいか分からなくなって頭を抱えた。もしかして和合さんが、あれ以来「岡崎 樹」の件に触れないのはそのせい?
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