表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

スイカ割り

作者: ぶんしん

 その村は少し変わっていた。目の前は海、背後は山に挟まれたその小さな村では、スイカ割りは禁忌とされてきたのだ。

 そもそも何故、そのように戒められるようになったのか。その原因となったのが、村で起きた一つのイジメ事件だ。


 いつの時代もイジメが絶える事はない。その頃の村も例外ではなかった。

 小さな村には小さな学校があった。下は小学一年から上は中学二年までと、バラバラな学年と少ない人数から、クラスは一つしかなかった。

 そんな運命共同体とも呼ぶべき集団の中ででも、それはあった。

 標的となったのは、小学校低学年の男女二人。

 クラス一番の年上である中学二年の男子が、その二人をからかったのが全ての始まりだった。日に日にイジメは悪質なものになり、男の子は左のこめかみに消えない傷を負った。また、イジメっ子側に加わってくる生徒もいた。

 それでも二人は、決してイジメに屈しようとはしなかった。イジメられていることを、口外しようともしなかった。それは子供なりの意地だったのかもしれない。

 ある日、二人はイジメっ子達に連れられ、海へやって来た。風呂敷に包まれたスイカと縄を、一メートルくらいの長い棒に引っ掛けて。

 皆、水着に着替え、海に入って行く。去り際にイジメっ子達のリーダーらしき一人が、取り残されたように棒立ちしていた二人に、「遊んでいいぞ」と声をかけた。

 二人はその言葉の意味を理解しかねた。「今まで彼らに散々イジメられ続けたのに……」という想いが、二人の胸中では渦巻く。

 しかしそんな疑念は、まだ幼い二人の好奇心に塗り潰されてしまった。二人は手を取り合い、陽が暮れ始めるまで砂浜で砂まみれになった。

 そして陽が暮れ始めた頃、あのリーダーが、「スイカ割りするぞー!」と声を張り上げた。イジメっ子達はわらわらと集まり、一応二人もそれに合わせる事にした。

 全員が集まった事を確認したリーダーは、続けて二人を指差し、「お前らの協力が必要だ」と言った。

 質問する暇もなく、二人は羽交い締めにされ、引き離された。男の子の方は目隠しをさせられ、何やら重たい、棒のような物を持たされた。

 リーダーの声が聞こえる。男の子はこれからスイカ割りの割る役をやれるらしい。

 当然、男の子は喜んだ。喜ぶ男の子は、昨日まで彼らにイジメられていた事など微塵も考えなかった。それ以上に嬉しかったから。

「準備が出来た」との合図を聞き、棒を握り直す男の子の横顔を汗が走る。

「右、右」、「左ぃ」、「あー、行きすぎ!」とイジメっ子だった彼らの声援を頼りによたよたと歩を進め、その声援がピークに達した所で棒を思い切り振り下ろす。


 ――グシャァッ。


 彼らの歓声が聞こえる。それに導かれるように、男の子は目隠しを外そうと頭の後ろに手を回し、気が付いた。

『アノ子ハドコ行ッタノ?』

 慌てて目隠しを取り、男の子の目に写ったのは――。


 ――紅。


 辺り一面、紅、紅、紅。

 夕日に照らされてもわかるその生々しい紅に、女の子だった物は染まっていた。口には猿ぐつわ。首から下は砂に隠れて見えない。おそらく身体を拘束され、埋められたのだろう。

 男の子の意識は遠のいていく。失いかけた意識の中、女の子と目が合い、声を聞いた気がした。


『許サナイ……』


 それから間もなく、男の子は村の外へ引っ越した。あの女の子から逃げるように。


 時が経ち、男の子は一人暮らしを始めた。両親と住んでいた家にあの子が来たからだ。

 あの子はもうすでに、過去に自分をイジメたヤツらを全員殺していた。自殺に見せかけて。だが男の子は知っていた。それが全てあの子の仕業だと。

 そして残るは、あの子を殺した張本人である男の子、一人だけ。しかし、その居場所があの子にバレてしまったようだ。じきにあの子は男の子のもとへやって来て、男の子は殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。…………。



「警部、ホトケの自室から遺書らしき物が……」

 とあるマンションのエントランス前、ブルーシートで囲われた空間。

 その中心でしゃがみ込む彼に、私は声をかけた。

「遺書? 内容は?」

「それが、なんと言いますか……」

「ふむ。どれ、貸してみ」

 彼は遺書のようなそれが書かれた大学ノートを受け取り、読み始めて数秒としない内にうんうんと唸り出した。

「なんだこりゃ? 村の話で始まったかと思えば、終いにゃ『殺される』の連呼……ホトケはヤクでもやってたのか?」

 そうボヤきながら、彼はノートをパラパラとめくって行き、最後のページに差し掛かった。

「ん?」

「おや? これは……」

 そこには短く、一言だけ記されていた。私はそれを読み上げようと、口を開け――


「許サナイ……」


 この世のものとは思えない声が囁いた。当然、彼の声でもなければ、私の声でもない。

「誰だ!?」

 彼は立ち上がり、辺りを見回す。私もそれに続き、首を傾げる。

「おかしい……」

 今この場にいるのは、刑事の私と、警部の彼と、このノートの持ち主であろう、左のこめかみに古傷のある男性――だった物だけだと言うのに。



 夜なかなか寝付けずに、思わず書いてしまった作品です。後悔はしていません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ