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はじまりのさよなら
無重力の空間に、私は居る
今、確かにこの場所であの音楽を聴いている。それはまるで清流のようでもあるし、嘆きですらあったのだ。
簡素でありながら、どこかヨーロッパ建築のような煉瓦造りの大学のキャンパスを遠くからみつめながら、私は感動のあまり立ち止まっていた。周りは皆大学生であろう、賑やかなその雰囲気に気後れしていたのを今でも覚えている。
だけれど、『彼』と出会った場所や時間やきっかけが、思い出せない。ぼんやり頭の奥底に置いてきてしまった記憶を今ひとつひとつ見つけてみようと思う。
さて、それは私が大学へ入学する、まさにその日であった。
気を悪くしないでほしい。
私と『彼』の話をここに記すことを。
断片的で、不透明な私の記憶のなかで、どれだけ語れるのか分からないが。幾分重苦しい気持ちになる今だからここに記すのである。