邂逅 In the morning
朝、
「不思議な夢だったな……」
夕は布団の中でそう呟いた。
今日は土曜日。学校は休み。
にも関わらず朝の六時半に目が覚めてしまった夕はそれでも五分くらい布団の中でぐだぐだしていた
夕にとって夢とは記憶にはない何かだ。
見たという事は覚えているが、内容を覚えていることは殆ど無い。
なのに、最近、というか昨日の授業中の夢から始まったあのおかしな夢ははっきりと覚えている。
さらに、昨日の夢の最後に登場した世界創造の話。
途中までしか聞けなかったが、あれは〝日本〟中の言葉がわかる人なら皆知っている話だ。
『神様は世界を創ろうと思いました。
まず天と地を創りました。
地は海と陸に分け、天には太陽と月を創りました。
太陽の支配する時を昼、月の支配する時を夜と名付けました。
次に生物を創りました。
海にも陸にも沢山創りました。
動物も植物も沢山創りました。
神様は生物の中で最も神様に近い思考能力を持つものとして人間を創りました。
神様は人間へ贈り物としてかなり高い思考能力を持つ者――〝天才〟と神様の力の一部を扱える者――〝天使〟を創りました。
神様は最後にこの世界を〝日本〟と名付けました。』
―――何故そんな話が夢に?
まあ所詮は夢の話だと思い、とりあえず起きようと布団の中から出た。
布団を片付け、着替えをし、食パンを焼かずにそのまま頬張ったところで―――
―――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
夕は食パンを三秒で食べるという荒業をしてから玄関のドアについているのぞき窓で外を見る。
そこにいたのは全く見覚えの無い一人の少年と一人の少女。
それを見た夕は何の警戒もせず鍵を開けた。
「どちら様でしょう?」
「僕の名前は萩野透。こっちの小っこいのは今川霞と言います」
「小っちゃくない!」
少年の自己紹介に即座に反論した少女だが、事実小さい。夕の目測では小学校高学年の平均身長を少し下回るくらいと思われる。
「貴方がサヨさんですか?」
少年(と言っても夕と同じくらいの年に見える)の方がそう質問してきた。
サヨ―――夢の中に出てくる少女の名前は小夜。偶然なのだろうか。
「違いますけど」
と夕が言った途端、
「嘘っ!貴方夜中にむぐっ」
少女が叫びだしたが少年に口を塞がれる。
「これの言う事は全て無視してもらって結構です」
無表情な少年が全く抑揚の無い声で言った。
ちなみにどうでもいい事だが「これ」は人代名詞ではない。
小柄な少女が口を塞がれてむーむー言っている姿はとても可愛いのだが―――
夕は初対面の筈のこの少女に何故か既視感を覚えてしまった。
誰か似た人にでも会った事があっただろうか。
「本当にサヨという人ではないんですね?」
「さっきそう言いましたけど」
「そうですか。……すみません。どうも勘違いしてしまったみたいです」
少年の無表情のせいで本当に謝っているのかどうか分かりづらい。
「あともう一つ聞きたい事があるのですが」
「何ですか?」
「〝バグ〟という言葉に聞き覚えはありませんか?」
〝バグ〟という単語を聞いた瞬間だった。
どくん、
という心臓の鼓動が聞こえた気がした。
それと同時に視界が歪み、歪み、そして―――――
気が付けばあの夢の世界にいて小夜の声を聴いていた。
「太陽の支配する時を昼、月の支配する時を夜と名付けました。
次に生物を創りました。
海にも陸にも沢山創りました。
動物も植物も沢山創りました。
神様は生物の中で最も神様に近い思考能力を持つものとして人間を創りました」
それは夢の続き。
「神様は最後にこの世界を〝日本〟と名付けました」
それは殆どの人が知らない世界創造のその後の話。
「それから時が経ちました。
神様はある事に気付きました。
あらゆるものが時と共に朽ちていく事に。
あらゆるものに寿命という自分は設定しなかった筈のものが在る事に」
〝天使〟のみに伝わる〝天使〟が創られた本当の理由。
「神様は原因を探して突き止めました。
神様はその原因を〝バグ〟と呼びました。
〝バグ〟は人の形をしていました。
神様は〝バグ〟を無くそうと思いました。しかし、〝バグ〟のせいでしょうか。神様が〝日本〟に直接関わろうとすると力が弱まってしまいます。無くす事など到底出来そうにありませんでした。
そこで神様は自分の力を一部の人間に与えました。
その人間を〝天使〟と名付けました。
神様は〝天使に〝バグ〟を倒すよう言いました。
そして――――〝天使〟と〝バグ〟の戦いは始まりました。」
そこで夕の意識はまた途切れた。