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episode7【裏事情は誰もが知る必要なし。だってその方がカッコいいじゃん】

〜4月4日・PM16'32〜


???side



「…こんにちは。お久しぶりですね」


「あら聖君。本当に久し振りね。やっぱり成長期は大きくなるわ…気付かなかった。何年ぶりかしら?」


「4年…くらいにはなるんじゃないですか?まさか引っ越したなんて知りませんでしたよ…」


「まぁそうね。私もまさか別の町に引っ越すなんて考えてもいなかったわ」


「仕方ありませんよ。あなたの旦那さんがやってしまったことはそれだけ大きいんです」


「あら手厳しいわね聖君。でもそうよね…仕方ないわよね…」


「五大領家の方は?」


「今はうちの次男坊が党首をやってるわ。次男坊だけはこの町に住んでるの…もちろん肩身は狭そうだけどね…」




そう言って聖の話相手であるご婦人は悲しそうに苦笑いをする。その姿に聖はただただ息苦しさを感じるのだった。




「…五大領家も大変ですね。でも【あの門】の掟。まさか忘れたわけではありませんよね?」


「えぇ…一度たりとも忘れてはいないわ。もちろんあなた達【CROSS-ROAD】のこともね…」


「…それを言われるとちょっと心が痛いです」




聖は苦笑いする。だがすぐに瞳を鋭くする。そして瞳を鋭くすると聖は紙の束を受け取った。




「…やっぱりそうだったんですね。(しの)さん」


「えぇ。聖君。あなたから連絡があったときにはさすがに驚いたわよ?まさか4年前に一度会っただけの私の息子を覚えてるんだから。その記憶力には脱帽するわ」


「たまたまですよ…。あんな特徴的な笑い方の人。忘れろって言われるほうが無理ですよ…」




聖はそう言いながら紙の束を受け取った。




――パラパラパラ…




「…なるほど。だいたいのことは分かりました」


「聖君。それだけで分かったの?私にはただ資料に目を通しただけにしか見えなかったんだけど…」


「気にしないでください篠さん。これくらい何でも屋なら当然のスキルですよ」


「…そう。そういえば聖君。あなたはそういう子だったわね。警察官家系に生まれ、幼い頃から様々な訓練を受けてきた天才児。瞬間記憶能力。天才的な判断力。そしてすべてを見透かし、まるで未来予知でもするかのような推理力の持ち主――」


「ずいぶんと懐かしい話をするんですね篠さん。持ち主。じゃなくて持ち主だったですよ…」


「あら?でも、現にあなたはここにいるじゃない。今回、町で起こった事件を調べるために…」


「買い被りすぎですよ」




篠の言葉に聖はヤレヤレと苦笑いする。だがその瞳は未だに鋭いまま…。


これが真剣なときの天才の目なのか…と。篠は感心する。




「…じゃあ聖君はなんでここに来たのかしら?まさか杏ちゃんの情報に従ってここに来たなんて言わないわよね?だって――」




篠は如何にもしてやったりという顔をする。


美人は年をとっても美人と言うが、この人はいつまでだっても美人で居続けるんじゃないか?そう思わせるほどの綺麗な顔で――地面を指差した。




「だって――ここは四埜谷邸じゃなくて…刑務所よ?」


「………」




そう。聖と篠と呼ばれる女性。彼らがいるここは聖が杏に指示されて調べろと言われた四埜谷邸ではない。


不知火町に唯一ある刑務所だった。そして、2人の間には2人をわかつようにガラス張りの壁があり。紙の束は近くの職員が渡してくれたものだった。


そして肝心の聖がさっきから喋っている彼女――篠。彼女も美人は何歳になっても美人だということを彼女自身をもって証明してくれているほどの美人だ。


だが和服が似合いそうな彼女も…今は灰色の囚人服を着ている。これが今の現状だった。




「…杏ちゃんは私が収監されてるなんて知らないはずよね?なんたってあなたがそのことを隠してるんだから…まったく。よくあの情報通の杏ちゃんに隠し通せてるわね?」


「…まぁ。杏以上のハッカーに妨害してもらってますから」


「杏ちゃん以上のハッカー?そんな人この町にいたかしら?」


「…いるじゃないですか。杏以上のハッカーで、杏をも超える情報収集能力があるやつが」


「…あぁなるほど。彼ね。確かに彼なら杏ちゃんをも手玉にとるほどのハッカーだわ…そして、あなたもね?」




篠の目が怪しく光る。その目に対抗するかのように聖も篠を睨みつけた。




「…そうですか?ここまで来たら隠しませんけど、俺はただ単に杏の命令を無視してあなたの所に来ただけですよ?」


「もう。聖君も分かってないわね?それがピエロだって言ってるのよ…いえ。寧ろジョーカー(切り札)と言った方がいいかしらね?」


「俺はそんな大それたものじゃありませんよ。ただ俺が分かっていたのは――」




――ジリジリジリジリ!!!!




そのとき、面会時間の終わりを告げるベルが鳴る。篠はそれを聞くと、静かに立ち上がるのだった。




「どうやら時間みたいね。話もちょうど区切りが良いところだしよかったんじゃないかしら?」


「そうですか?俺にはあなたが最後の俺の言葉から逃げる口実だっただけのようがしますけど?」


「そう思いたいなら勝手に思っておきなさい。残念だけど私には時間がないの。ベルが鳴って二分以内に出なかったら夕御飯がなくなっちゃうのよ」


「豚飯なんて言われてるやつですか?」


「それはドラマの見すぎよ聖君。普通の刑務所ならなかなかおいしいものが出てくるのよ?例えば今日は確かすき焼きだったかしら?」


「それはすみません。入ったことないので分かりませんでした…」


「あら嫌み?でも私には逆効果よ。だってシャバでの暮らしより明らかにこっちでの暮らしの方が楽しみなんだから。だから感謝してるのよ?私を捕まえてくれたあなたのお兄さん。いや――」




そして篠は指差す。目の前にいる少年を――




「三年前。成瀬銀行の銀行強盗を私達の犯行だと見抜いてくれたあなた。聖君にはね…」


「…俺は今まであなたを不幸にしたとばかり思ってました。でも楽しそうにやってるみたいですから心配無用みたいですね?」


「えぇ。だから気にしないで聖君。私はこれからここ(刑務所)で余生を楽しむわ。だからあなたは――」




篠は聖を指さしていた指を自分の首もとに持って行く。そしてまるでナイフで切り裂くように指で喉元を引っ掻いた。




「だからあなたは――私の旦那と息子のことを頼んだわ。特に息子のほう。あの子は寂しがりやだからそんな“感情”も無くなるようにきっちりお願いね…」


「【母親】としての最後の愛情ですか?」


「いいえ…私はこれまでも。今現在も。それからこれから先も…あの子を愛してるわ。だって私の子供なんだもの…」




そう言ったときの彼女の顔。そこには確かに母親としての顔があった。


だがその顔を聖は見ることなくゆっくりと面会室を後だっていく。篠の瞳に後悔なんてない。それが分かっているから――



――【四埜谷篠】



かつて財政に困った五大領家が1つ“四埜谷家”を救うために知人。そして旦那である【四埜谷徳】と共に銀行強盗をした女性。


自分の三人の子ども達を救うためにその身をもって頑張った女性。


その結果。当時中学一年だった聖と新米警官だった誠兄弟に逮捕された女性…。だがこの事実を知るものは少ないだろう。


“四埜谷家”と“綾瀬川家”この2つの家はその昔。親戚関係にあったことを…。遠い遠い昔。繋がった繋がりのことを――



【四埜谷篠】彼女の旧姓は【綾瀬川篠】聖と誠の父親とは従兄の関係であることを知るものはもうこの町にはいない。



だが聖の胸に彼女の名前はしっかりと刻みついている。


なぜなら彼女はかつて自分を可愛がってくれた女性。かつて彼女の三人の息子と会い、一緒に遊んだ女性。かつて自分自らの手で捕まえた女性――


そして何より。自分の息子たちをずっと愛し続けた女性。勘当さるた浩を夫がいないとき。家に入れて俺と遊ばせてくれた彼女には頭が下がる。


だから俺は――彼女の息子への愛情。それに応えなければならない。



【CROSS-ROAD】のホーリーとして――




「それじゃあ篠さん。もう会うこともないでしょう…。だって俺はこれからあなたの息子の“未来”を奪うんですから…」





〜4月6日・PM12'35〜


聖side



「そういえば杏さん。今回の事件はいつもより情報収集早くありませんでしたか?」




テスト翌日の昼休み。その日もいつものメンバーで昼飯を食ってると唐突に凉がその話題をふる。




「う〜ん。そういえばそうだね〜杏ちゃんいつもはギリギリまで情報集めするのに今回はすぐに終わっちゃったよね?なんで?」



凉の話題に乗っかる奏。そんな2人の眼差しに当の本人は…うねっていた。




「杏ちゃん?どうしたのそんな悩ましげな顔して…まさか、せいr――」


「はいストップ奏。少しだけ黙ろうか?」




奏が爆弾発言をいう前に急いで口を塞ぐ俺。あっぶね〜こいつ女の子なのに今なんて言おうとした?幼馴染として、こいつの教育間違えたかな…。




「むー…むー…」


「聖。奏さんがだいぶ苦しそうですよ?離してあげてください」


「ん?あぁわりーわりー。奏、悪かったな。今離すから」


「ぷっはあぁあああ!!!!」




これまた女の子らしくない声だな。顔は真っ赤だしこれはもしかして風邪か?




「セイ君///いいいいい…いきなり…ななななな…何しゅるのっ!?///」


「…落ち着け。噛んでどうする噛んで。それより顔赤いけど熱でもあるのか?寒気とかしないか?体は怠くないか?保健室に行くか?それとも――」


「はいはいストップ。あんたらがラブラブなのは分かったからもう少し場所を考えなさい?ここは教室なんだからね?」




俺が奏の額に額を合わせて熱を計ろうとしたときどこか慌てた杏が止めに入る。


なんで止めるんだ?5センチにも満たないところにある奏の顔は真っ赤じゃないか?もし熱でもあったらどうすんだよ?




「それはあんたのせいだってなんで気付かないのよ。この鈍感男は…」


「鈍感もここまで来ると最早毒物ですね…」


「なんだかものすごい失礼なこと言われた気がするけど気のせいだよな?」




俺の言葉に凉と杏はヤレヤレといった表情。寧ろ俺を哀れんだ表情で俺をみてくる。


対して奏はどこか決意が固まったような顔つきだ。拳を握りしめ「そうか…そうだよね。セイ君にはもうちょっと積極的に…」やら「だったら今日の全校集会にでも…」やらと言った声が聞こえてくる。


奏。全校集会でいったい何やらかすきだよ?俺の苦労はまだまだ続く。




「…まぁそんなどうでもいい話はさておき。あたしの情報の話だったわよね?」


「そうだったな。すっかり忘れるところだった」




「はははは」と苦笑いをしながら杏の言葉に応える俺。どうやらここに来てやっと話が始まるようだ。奏と凉だって――あれ?


振り返るとどこか気まずそうに顔を逸らす奏と凉。まさかこいつら…自分で話をふっておいて…!!




「そそそそ…そうだね杏ちゃん!!情報の話だったよね?」


「忘れてなんかいません!!決して忘れてなんかいませんでしたよ!?」


『『説得力皆無だな』』




不覚にも杏とまったく同じことを言ってしまう。こいつら絶対に忘れてやがったな…。




「はぁ…もういいわよ。どうせ対した理由じゃないしね…」




諦めたような杏の声。まぁ確かに対した話ではない。ただ単に杏のパソコンへと情報を送ったやつがいるだけだ。


でもそれを話すのはややこしそうだ。だから――




「あ〜もう!!いつの間にか集会まであと少しじゃない!!奏!!あんたは生徒会長なんだからこんなところで呑気にお弁当食べてる暇ないでしょ!?」


「はわわ!!そうだった!!」


「聖も凉も。あんたたちも早く食べなさい!!ただでさえ入学式でなかったぶん、あたしたちは先生に目をつけられてるんだから!!」


『『へぇ〜い』』


「あ。セイ君。口元にご飯粒がついてる――」


「あんたはさっさと集会の準備にいきなさあぁああああああああああい!!」



だから――この話の裏話は全校集会のときにでも回想するとしますか。ちょっとだけ難しい話だからな――








〜4月4日・PM16'32〜


???side


刑務所を出た聖。彼はその後、まず駅前の花屋に行き花束を購入する。


どこか嬉れ嬉れとした彼はその花束を持ってある場所へと向かう。白く大きな建物に薬臭い部屋。そして純白の天使がいるとされるそこは――




――コンコン…ガラガラ!!




「よぉ!!遊びに来たぞ〜」


「あれ?あれあれあれ!?わぉ!!ビックリ!!まさか聖が僕のお見舞いに来てくれるなんて!!明日は雨かな雪かな!!嵐かな!!天気予報確認しなきゃ〜!!」




病院の一室。そこへ訪れた聖を待ち受けていたのは何ともハイテンションなその声。


だが慣れてるのか聖は慌てずに持ち込んだ花束を机におくとゆっくりとイスに腰をおろすのだった。




(きょう)。相変わらず無駄に高いテンションだな…。あと俺は3日に一回は顔を出してるだろ?」


「はははは!!そ〜うだった〜そうだった〜!!そう言えば3日前にも顔出したよな〜。やっぱ【親友】は来る回数が違うよな〜!!」


「それでも【家族】には負けるけどな…」




そう言ってお互いに大声で笑い出す聖と叶と呼ばれた少年。その表情はとても楽しげだった。


一通り笑った2人。すると笑い終わった聖は懐に手を伸ばすと数枚の小さな紙を取り出す。それを見た叶は目を輝かせるのだった。




「お前には花束なんかよりこっちがいいだろ?まったく…こいつのどこが良いんだか…毎日のように顔合わせてんのによく飽きないよな…?」


「あははは!!聖ってばわかってんじゃん!!あと毎日、顔を合わせるからこそ楽しみなんだよ!!妹の成長する姿を見るのは老後の楽しみなんだ〜!!」


「いや!!老後もなんもお前、俺と同い年だし!!第一お前ら兄妹は双子だろ!?」


「あははは!!あははは!!あーはー!!そういえばそうだった!!すっかり忘れてた〜てへ☆」


「何、火曜サスペンスみたいな効果音で笑ってんだよ?だいたいそこが一番大事なことじゃん。それに――」




笑いっぱなしの叶。そんな叶を指さすと、聖は目の前に写る写真の数々を一瞬だけ見て溜め息をつくのだった。




「それに――許嫁だろお前ら?本当に双子で許嫁なんて聞いたことねーぞ?そんなに大切なのか?一族の血ってのは…」


「…仕方のないことだよ聖。これが僕達の運命なんだ。近親相姦で一族の血を絶えさせないようにする。そんなクソみたいな縛りが未だに続いてるんだよ僕達の家では。その結果が僕。近親相姦で血が濃いすぎたせいで生まれたときから体が弱い。今じゃ学校にも行けずず〜とこんな白くて狭い部屋の中。もう吐きそうだよ」


「叶…」




聖は彼の言葉に思わず悲しげに顔がゆがむ。そんな聖に叶と呼ばれた少年はニッコリと微笑み返す。


端から――というより文章だけ見たらとても悲痛な話だ。


だがここで忘れてはいけないのは聖が取り出した紙の数々。実はあれ――




「…どうでもいいけどナース服の妹やメイド姿の妹の写真を見て鼻血を出してる奴のセリフじゃないよな?」


「あははは!!やっぱそう思う!?でもやっぱいつ見ても可愛いな〜!!さすがは我が妹!!すごくキュートだぜ!!」


「…シスコン」


「最高のほめ言葉だ!!」




「はぁ…」たまらず溜め息を吐いてしまった俺を許してほしい。でも仕方ないだろ?こんな変態が俺の親友の1人なんだから――


こいつ絶対におかしいよ。だって写真に写ってるのは…。写真に写ってるのは…!!


俺達が追いつけことのできないユートピアなんだから!!




「おーい。もしもーし叶く〜ん?【成瀬叶】く〜ん?」


「あぁ…幸せ…」




あぁ…ダメだこいつ。完全にいっちまってる。でも仕方ないか。こいつはこういう奴だって昔から知ってるからな――そう思い、俺はもう一度「はぁ」と大きく息を吐いた。


じゃあそろそろこいつの紹介をしたいと思う。まぁ薄々気付いてるとおもうけどな…。


こいつの名前は【成瀬叶】病院で寝たきりだが、杏の双子の兄にあたる人物だ。


さっき叶が言ってたが叶は体が弱い。だからここ最近はずっと病院生活をしてる。そのため、色白くやせ細っていて少し不健康そうだが、そこは杏の兄。儚げな美少年という言葉が似合う少年(薄桜鬼の沖田さんがイメキャラ)だ。


ちなみに杏のことを塾愛してるシスコンでもある。そんな叶が得意なことは――




「叶。こいつを杏のパソコンに流してくれないか?」


「…ん?聖。ここが病院だって忘れてない!?そんなことできる訳ないじゃん!!バッカだな〜バーカ!!バーカ!!バーカ!!」


「子供かお前は!?…まぁそんなこといい。さっさと仕事してくれ叶。依頼料は払ったろ?」


「あぁ…この写真はそういう意味もあったんだ…抜かりないね〜聖く〜ん?」


「どうも俺にはこれだけは分からないからな。機械音痴ってやつ?それにお前だって杏に早く会いたいだろ?」


「…それってどういう意味?聖く〜ん?まさか聖。杏ちゃんに何かしたの?」




声が怖いくらいに低くなる叶。そんな叶に聖は冗談だろ?と軽く言うとパサリと出した資料――さっき刑務所で受け取った資料を出すのだった。




「叶。これは確かな情報筋からの情報だ。お前だって知ってるだろ?篠さん。あの人から貰った資料なんだ」


「…篠さんから?」




聖の言葉に心の底から驚いた表情になる叶。実は叶も家柄上、四埜谷家とは付き合いがあったため篠とはそれなりに知り合いだった。


だから叶は焦ったように資料を乱暴に取ると目を通し始める。




「…聖。この話は本当のことなのか?」




数分ですべての資料を読み終えた叶は怒りに満ちた声でそう聞く。その問いに聖は黙って頷くのだった。




「…分かった聖。もう何も言うな。すべてが分かったからな――」


「じゃあ頼む叶。見せてくれよ。杏をも上回るお前の天才的キー裁きをな」


「あぁ。よりにもよって杏に手を出そうとするなんてどういうつもりだよ?まさか四埜谷の家の先代党首はこの町のルールまで忘れちまったのか?」


「五大領家だからそれはないだろ。おそらくそれを承知の上でこの町で“殺人”をしようとしてるんだよ。あの男は」


「あははは!!前々から気に入らないと思ってたんだ!!あの男!!お父様に取り入るためだけに杏に近づいてたんだぞ!?まさかマジでこんなことになっちまうとはな!!夢にも思わなかったぜ!!あははは!!あははは!!」


「落ち着け叶。病院だぞ」


「あははは…わりー聖。でも傑作だと思わないか?まさか五大領家の人間を殺れるなんて…あははは!!」


「だから病院だ叶。それにお前。今、この町のルールやぶりそうな発言したぞ?」


「あははは!!気にすんなよ聖。どうせこんな状態だ。今の俺にはどうしようもできねーよ。ただ一つを除いたらな――」




そこまで言うと叶はノートパソコンを取り出す。開いた画面に最初に映し出されたのは妹――杏の制服姿であった。




「杏のアニメキャラクターもださいと思ったけど、お前の場合は趣味悪いを通り越して気持ち悪いな?」


「杏たん萌えwwww!!」


「…本気でこいつの親友止めようかな俺」




ノートパソコンの画面――制服姿の杏を見ていきなり発狂しだす叶。その勢いは、バーサーカーという名前は本当はこいつのもんじゃないか?と聖が思ってしまうほど。


聖は「はぁ…」とため息を吐くと叶に思いっきりげんこつをいれるのだった。




「あははは…いや〜マジで反省してます聖く〜ん。ちゃんと仕事しますから!!なにとぞ!!その写真を返して〜!!」


「…お前がちゃんと仕事したら返してやるよ?もしくはげんこつもう一発くらいたいのか?」


「ふえぇええええん!!聖君の鬼畜うぅうううう!!」





聖が拳を固める。それを横に見つつ――叶は一心不乱にパソコンのキーボードを叩いていた。


嘆く叶は見ていてすごく情けない。こいつは本当に昔から…。はぁ――




――カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…




だけど…いつ見てもこいつのキーさばきは惚れ惚れするくらい奇麗だな。


叶がキーボードを叩き始めて数分。彼のキーさばきを眺めながら俺は無言になってしまう。確かに杏のキーさばきもなかなかのもの。


だけどやっぱり叶のキーさばきは別格だ。杏のキーさばきをいつも見てる俺なら分かる。これが――




――カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカカタカタ…カタ…カタ…




――本物のハッカー




「…捕獲完了」


「はいダウト!!それパクリ!!どこのファルコンだよ!?テメーわwwww」


「まぁいいじゃん!!まぁいいじゃん!!このあいだドラマの再放送見てさぁ!!カッコいいじゃんこれ!!そうっしょ!?俺も【ウィザード】と呼ばれるハッカーだしパクったってい〜じゃん!!」


「てめーがよくてもいろいろまずいことがあるんだよ!?主に著作権とか著作権とか著作権とか!?」


「ナンクルナイサwwww」


「意味わからねーよ!?」




怒涛のボケとツッコミのラッシュ。お忘れかもしれませんがここ病院ね?ここまで騒いでよく問題にならねーよなぁ?




――コンコン…ガラッ!!




「叶く〜ん♪お熱の時間ですよ〜♪」


「は〜い♪今日は三島さんなんですか?看護婦さんも大変なのに…いつもすみません…。じゃあ脱ぎますね?優しく…してくださいね…?」


「は…はい…///」




――なるほど。すべては貴様のせいだったわけか。




「あれ?どうしたんですか三島さん?顔が赤いですよ?」


「きききき気にしないで叶君///これはあれ…あれなんだからあぁああああ」




――あれってなんだよ?




「あぁ風邪なんですか?気をつけてくださいね…最近の風邪はしつこいそうですから…僕。三島さんに会えないなんて…寂しすぎて死んじゃいます!!」


「そそそそそんな…きききき叶君が…さ…寂しいなんて///ふにゃあぁ〜…」




――パッタリ…




あ。看護婦さんが顔真っ赤にして鼻血出しながら気絶した。こいつは――



まぁつまるところそういうことだ。つまり叶のやつ看護婦を誘惑しやがったんだ。だからいくら騒いでも誰も気にはしないということか…。




「えへへへ…どうしちゃったのかな三島さん」


「白々しく言うな叶。とりあえず俺はこの人を運ぶからお前はちゃんと熱計っとけよ?」


「は〜い」




俺は倒れた看護婦――三島さんの背中と膝に手を入れて抱える。所謂お姫様だっこをした。


はぁ…なんで俺こんなことやってんだろ…。50過ぎのおばちゃんの看護婦をお姫様だっこって…どこで選択間違えた?




「あははは!!いけないんだ〜聖く〜ん♪奏ちゃんに言いつけちゃおうかな〜?聖君が不倫してたって〜」


「…叶。俺の前で願いを3回唱える気…あるか?」


「あははは!!遠慮しとくよ聖。少なくともその願いは叶わないからね〜?なんと言っても――」




――パタン




「君は【漆黒の流れ星】。君に願う願いはすべて闇へと消える…そうでしょ?」


「ほざくな。民間人が」




パソコンを畳む音。その後の叶の声に俺は振り返ることなくそう応えた。


叶。やっぱりお前は大したやつだよ…。




「じゃあな叶。依頼受けてくれてありがとな」


「きにしないでよ聖。僕は君のため。そして何より杏ちゃんのために動いただけさ。親友と妹…こんな僕でもまだ守りたいものがあるんだよ…」


「バーカ。お前に俺達を守ろうなんて3年遅いわ。出直してこい」


「厳しいなぁ聖は…」




――ガラガラ…




お姫様だっこで両手が塞がっている俺はそう言うと足で病室のドアを開ける。外には誰もいない。


まぁ50くらいのおばさん看護婦をお姫様だっこしてるとこなんて誰にも見られたくないからこっちの方がいいんだけどな…。




「あでぃおす聖…次来るときは依頼なしで来てよ?うまいカステラでも用意して待ってるから…」


「くす…お前はまるで俺が仕事のためだけにここに来た言い方だな…。誰がメインは仕事の依頼だって言ったよ…」




そして病室を出た俺は最後にもう一度振り返る。この遅刻者の表情を見るために。




「…3年。お前が体を崩して3年たった。だけどお前の名前は今でも残ってる。だから早く戻ってこい。コードネーム――」




――ガラガラ…ピシャッ!!




「【ライトニング】」




おそらく自動で閉まるドアなのか。俺の最後の言葉を待たずにドアが閉まる。だが俺は再びそのドアを開けようとは思わなかった。


足早に俺はこの場を立ち去る。だって平日の昼間だからか?人が少ないとは言え、誰が好き好んで50のおばさんをお姫様だっこしてる姿を見せたがる?


それにこれから学校に戻って奏達と合流しなきゃいけないしな…。今夜も忙しくなりそうだ…。




「はは。ありがと。そこまで言われたら僕も頑張らないとね…ホーリー」






〜4月6日・PM13'52〜


聖side



「ふぁ〜…なんで全校集会の話ってこんなにも退屈なんだろ〜な〜…」


「ホーリー。それは今まで寝てた人が言うセリフじゃありませんよ?」




んぁ?どうやらこの間の回想をしてるうちに寝ちまってたらしいな…。


まぁそういうわけで、なんでいつもより杏が情報を掴むのが早かったのか分かっただろ?え?わからなかった?仕方ないな…もう一度だけ説明するよ?



あぁ…うん。とりあえず知ってほしいのは3つ。1つは杏には病弱で入院している双子の兄【成瀬叶】がいること。


2つ目はその兄が俺の親友の1人でもあり、最高のハッカーであること。


そして3つ目は最高のハッカーである叶に頼んで杏のパソコンに情報を流してもらったこと。以上の3つを覚えていてほしい。



今の俺から言えるのはこれだけだな…。他に気になることもあったと思う。だけど今はこの3つだけを覚えていてほしい…。


ここから先に踏み入りたければ――俺達のことをもっと詳しく知ることだな…。




『続きまして今年度の生徒会会長の挨拶です』


「聖。どうやら奏さんが挨拶するみたいですね」




でもこれだけは言っておく。俺達のことをこれ以上知りたいなら命の保証はないぜ?


まぁせいぜい俺達が咎人にする前に…殺されないように気をつけなよ…。













『ヤッホ〜セイく〜ん☆』




――ギロリ…!!!!




…俺は嫉妬に狂った男どもから殺されないように気をつけるから――






`

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