episode6【流れ星に出会ったら願いを3回唱える。これ世界の常識!!】
†コードネーム†
綾瀬川聖
・名前の【聖】を英語読みした所と……もう1つは本編で
白草湊
・名字の【白草】から白詰草を連想させるから
東雲凉
・二重人格の片方が戦闘狂なところから
成瀬杏
・どんな獲物(情報)も見逃さないところと杏自身の鋭い目から
††††††††††††
北西の風、雲一つない月が綺麗に輝く夜空――
4月の寒々とした夜空が広がる今宵の不知火市。
澄んだ空気のおかげでこの街では一等星から三等星まで様々な星々がキラキラと輝きを放っていた。
しかしその中で一番の輝きを放っている星はこの澄んだ夜空にはない…。
一番輝きを放っている星――それは愚かな愚者の血で汚れた地上でなお輝きを増していた…。
「【流れ星】に出会ったら願いを3回唱えな…」
輝く星は今宵もそう言い放ち愚かな【愚者】の魂を刈りとる――
流れ星が持つその漆黒の瞳が先に見るのは――
【暗黒の先にある正義】か?
それとも――
【暗黒に染まった悪】か?
彼がその名に恥じぬ輝きを失わぬうちはその答えを知るすべはない――
「願いは終わったか?まぁ俺にはその願いを叶えることはできないがな…残念だったな…愚者様」
〜4月5日・AM1'09〜
???side
「…クローバー?」
特殊事件捜査犯係に囲まれた状態の漆黒のドレスを身にまとった少女クローバーと黒いミニスカの浴衣を着たホークアイ。
絶体絶命なその状況。だがその中でも2人は落ち着いて会話を行っていた。
「どうかしたの?ホークアイ?」
「えぇ。このままだったら作戦に支障をきたすは。だから後はあたしが足止めするからあんたはあっちに行っちゃいなさい?」
「大丈夫なの?」
心配そうにそう言うクローバー。そんな彼女にホークアイは指で作ったピストルを向ける。
白い仮面に阻まれてその表情は掴めない。でもクローバーは仮面の先で笑顔でウィンクをしている成瀬杏の顔が手に取るように分かるのだった。
「パァンッ!!問題nothingよ♪クローバー♪」
指で作ったピストルでホークアイはクローバーを撃ち抜く。
その仕草にクローバーは心配無用だと悟るのだった。
「心配するだけ無駄だったみたいだね♪」
「と〜ぜん!!あたしを誰だと思ってんのよ?」
そのとき特殊事件捜査犯係のメンバーである1人の刑事がピクリと動いた。もちろんそんなことが分からない2人ではない。
その刑事が動いた瞬間に彼の構える鉛の塊を持つ手がカタカタと動くのを…。
そんなわかりやすい反応にクローバーとホークアイは少し呆れてしまうのだった。
「…それこそ決まってるでしょ♪あなたは――」
クローバーがそこまで言うとついに痺れを切らした特殊事件捜査犯係の刑事が拳銃の引き金に手をかける。
だがクローバーとホークアイにとってはその動作は亀みたいなもの…。そんなスロー再生にクローバーはわざと反応することなく。
ホークアイはクローバーに向けていた指で作ったピストルをその刑事の方に向けるのだった――
「や…やめなさい!!」
葵がその動作にいち早く反応して叫ぶが時すでに遅し。
――パ――ンッ!!!!
その刑事はクローバーとホークアイに向けて拳銃の引き金を引くのだった。
「electric-trigger-happy【電磁砲】!!」
――シュー…ザンッ!!!!
ホークアイの指先に集まった電気はまるで一本の矢のごとく指先のピストルから放たれる。
そう。それはまさしくその名の通り電磁の砲撃と言うに相応しい攻撃。彼女の切り札だった。
――ガ――ンッ!!!!
狙いすまされた砲撃に拳銃ごときがかなうはずがない。ホークアイの放った電磁砲はものの見事に飛んでくる拳銃の弾を粉砕した!!
「な…なに!?」
拳銃を撃った刑事はそれに驚きを隠せない。
しかしそんな状態でもホークアイは見逃さなかった。ホークアイはたった今放った方の腕とは逆の腕でピストルを構える。
構えられた指のピストルはその先に獲物を捕らえ――
「【電磁砲】!!!!」
――ザ――ンッ!!!!
収束させた電磁の砲撃を放つのだった。
「ぐはあぁあああっ!?」
「矢島さん!!!!」
放たれた電磁の弾丸はその目標通りに自分たちに手を出してきた矢島刑事を捕らえる。その速さは明らかに拳銃が放つスピードよりも速い。
その一撃を見た特殊事件捜査犯係のメンバーは戦慄するのだった――
――だから彼らは気づかない。
ホークアイの横にいたクローバーがいつの間にか消えていることに――
「…つ…強い」
新人刑事の雅の呟きにホークアイは口元をいやらしく歪ませる。その右手と左手でピストルの形を型どりながら――
妖美な雰囲気を醸し出す彼女のその姿。それはまさしく夜の街に舞い降りた漆黒の堕天使だった。
「…次は誰がいいかしら?」
特殊事件捜査犯係のメンバーはこのとき改めて認識する。
目の前にいる化け物を――
―――――――――
――――――
―――
―
「あ〜ぁ。私の話を最後まで聞かないからこんなことになっちゃうんだよ?」
警察署より少し離れたビルの上。
そこで最後の様子見としてホークアイの行動を見ていたクローバーこと白草奏はそう言ってまぶたを閉じながら赤い薔薇の花に口づける。
そして彼女が再び目を開けたときには――
――ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!
「あはははは〜♪もっとあたしを楽しませて〜♪」
――狂気とかした親友がひたすら指の銃口から電撃を放っている場面だった。
その姿は普段の天真爛漫なホークアイこと成瀬杏の面影はどこにも残っていない。しかしクローバーにとってみればこれは想定内のこと。
なぜならホークアイはバーサーカーと似たような性格者だからだ――
でもホークアイとバーサーカーには根本的な違いがある。バーサーカーこと東雲凉とホークアイこと成瀬杏の違い。
それは【戦闘狂】である二重人格者バーサーカーが闘いの申し子であること。
そして天真爛漫なホークアイが実は――
「あはははは♪それいけー!!パンッ!!パンッ!!パンッ!!パンッ!!パンッ!!」
――真性の【乱射魔】であることとの違いである。
クローバーはそんな変貌を遂げてしまった親友に一度大きな溜め息を吐く。その姿は御世辞にも上品とは言えない映像だった。
そんなホークアイの相手をさせられている特殊事件捜査班係のメンバーを見て。
「特殊事件捜査犯係の方々…本当にご愁傷様♪」
そう言って口づけた赤い薔薇【だった】ものを手向けの花として彼らのいる方へと投げるのだった。
――そしてその赤い薔薇だった枯れた草花が地面に着いたときには。
――ハラリ…ハラリ…
その場は堕天使が飛び立った後の夜の静寂へと誘われているのであった――
〜4月5日・AM1'15〜
バーサーカー(竜)side
あいつが――ホーリーがこの場を去ってからもう何分たったか?俺と四埜谷浩はさっきと同じ場所にいたまま――
だけどその間、俺も谷口浩も動くことはない。2人ともただ牽制しあって隙をうかがっているのだ。
『『…………』』
だけど現実的な問題。俺は攻撃できないんじゃない。あえて攻撃してないと言った方が正しいな…。
だってそうしなきゃつまんねーじゃねーか?この3ヶ月ぶり戦闘。じっくり味あわなきゃ損だろおぉおおおおおおおお?
ギャハハハハ!!さぁ!!かかってこいよ四埜谷浩!!俺がギタギタにしてやるからよ!!
俺はそんな心境のもとで襲い掛かるかもしれない体を必死に押さえつける。
『『…………』』
対してあちらさんはさっきの俺の【黒い鱗】に警戒して襲ってこないでいるのだろう。
その証拠にさっきからまったく動く気配はないがこちらに向けられている視線は痛いくらいだ。
『『…………』』
息すらも困難なこの緊迫したムード。……いいぜ。お前は最高に今俺を楽しませてくれてるぜ四埜谷浩!!
仮面の穴から見える四埜谷浩の姿に俺はニヤリと口を歪ませる。
やつの行動。そのすべてが今俺を紅潮させる最高のスパイスとなっていた。
――俺をもっと楽しませてくれよ…四埜谷浩。ガッカリだけはさせないでくれよ!?
俺がそう思って一層殺気を荒げたとき。ついに谷口浩が動き出した!!
「食らえ!!」
――ボッ!!ボッ!!ボッ!!
立て続けに投げられてきたのは硫酸でできたバレーボールくらいの弾が3つ…。
その弾の軌道、威力、コントロール全てがそれなりに驚異的なものであることは長年戦闘を行ってきた俺には手に取るように分かった。
――だけど俺としてみればたかが知れたものだったけどな。
「【鋼龍の……」
だから俺は特にあわてることなく両腕に特殊な力を加えていく…。
契約能力【竜】の力の神髄はその身体自体を龍とし最強の身体とする能力。
そのため【竜】の契約者はその身体を完全に作り替えられ人間を遥かに超える存在になる。
故に【竜】の契約者は最強の契約者なのだ。
それすなわちバーサーカーがこの街で【ある1人】を除いて最強なことを示しているということだ!!
つまりはこの街にいる全ての契約者の頂点。それはこの俺――東雲竜だ!!
竜の体となった俺の肌はまるで鋼龍のごとく硬く勇ましい漆黒の鱗とかす…。
その硬さは――劇薬ごとき中途半端な攻撃が通じるわけねーだろうが!!
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!!!!」
あたり一面に響き渡る谷口浩の下品な笑い声。そして谷口浩はその笑い声を上げるのに夢中になって気がつかなかった。
俺が――契約者の頂点に立つ存在が口を動かしていたことに…。
「――鎧】」
鋼竜の鱗は鎧のように硬くどんな攻撃をも防ぎきる。
それは俺がこの竜の契約者に選ばれたときに知ったことの1つだ。
――そしてもちろんこの鋼龍の鱗持つ俺にとって劇薬ごときでは傷をつけることは不可能。なぜなら俺は…。
この街で最も強い力を持つ契約者だからだ!!
――ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!
谷口浩から放たれた硫酸でできた水弾が俺の皮膚を襲う。
だけどそんな劇薬なんて俺にはただ水を浴びたか?ってぐらいにしか感じねーんだよ。
そしてそれと同時に俺の興味も関心もこの男から一欠片も無くなっちまった…。やっぱつまらねー男だった。
「なっ!?」
四埜谷浩の驚いた表情が遠くのほうで見える。
だがあいつに対して一ミリの興味も無くなった俺にはそんなのどーでもいい。
【鋼竜の鎧】で全身の黒い鎧となった鱗を夜の街に隠しながら大きく息を吸い込んで、顔につけた仮面に手を着ける。
我が大いなる竜の力の前にひざまづけ!!四埜谷浩!!お前の未来を…ぶっ壊すぜ!!!!
「…ひゃっ!?貴様!!なんで貴様がこんな所に――」
「四埜谷浩。それは貴様知る必要はねぇ…愚者となった貴様にはな…!!」
――スウゥウウウウ…!!
「【火竜の――」
その赤き肺はすべてを焼き尽くす絶望の炎を吐き出す。これが竜。これが最強の契約能力…。
貴様のすべて…燃やし尽くすぜ!!
「【火竜の吐息】!!!!」
――ブオォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!
〜4月5日・AM1'36〜
だいぶ夜も更け、4月のまだ肌寒い風が街を駆け抜けるこの時間…。
数年前から光を失ったその場所に今宵は数年ぶりの光を取り戻していた。
その場所は――
???side
ここは約数年前まで儂が住んでいた屋敷だ。
数年前、儂があの憎き成瀬財閥の銀行の支店長として勤めていた以前から過ごしてきていた先祖代々受け継がれてきた屋敷。
ここで儂はある【物】の報告を待っていた。
儂をおとしいれたあの憎き成瀬財閥の娘成瀬杏の死を告げる連絡を…。
――【あれ】の思いはかなり大きい。
家族として【あれ】を扱うことには嫌悪感を覚えてしまうが…。
こんな汚れ役をやらせるのには便利じゃ。…見ていろ成瀬財閥。
儂をおとしいれたことをこれ以上にないほどの絶望をもってして返させてもらう!!
儂の…儂の…全てを奪ったおまえ等に…!!
「ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!」
「…なるほど谷口浩の笑い方はお前譲りだったんだな」
儂がつい高揚のあまり大声で笑ってしまったところに響いてきた声…。
それはいつのまにか開いていたこの部屋に入るための襖に片腕をついた男から放たれたものじゃった。
「…貴様は…誰だ?」
全身を隠すくらいの漆黒のオーバーコートに身を包み白い仮面で顔を隠したその男は体格から見てまだ少年だと分かる。
じゃがこの少年の格好もしかりだが俺が一番驚いたのはこの少年が出す覇気。じゃから俺がその言葉を出したのは必然じゃった。
そしてそれに対してオーバーコートの少年は騎士がお辞儀をするように片膝をついて俺に対峙する。
その姿は…これ以上にないほど様になっておった…。
「俺はホーリーと申します愚かなる愚者様」
そう言ってオーバーコートの少年――ホーリーは立ち上がる。儂は思わず後ずさりをしてしまった。こやつを前にして――
「【四埜谷徳】いや。愚かな愚者様。あなたを咎人にするために参りました…」
儂はそう言ったホーリーから放たれた殺気に倒れそうになったのじゃった…。
〜4月5日・AM1'45〜
バーサーカー(凉)side
「はぁ…はぁ…」
俺は目の前に転がった真っ黒な炭――もとい四埜谷浩を上から見下ろました。
それに対して息が上がり、喉まで火傷をしてしまっている四埜谷浩はかなり苦しそうに俺を見上げてきます。
――その瞳に首まで黒い鱗で覆われた僕を映しながら。
「…まったく。竜も仕方がありませんね。こういう面倒事はすぐ僕に押し付ける」
「はぁ…はぁ…」
僕の凉に対する悪態に四埜谷浩は、最早喋ることすらできないのか。ただただ僕を見上げていました。
四埜谷浩からはすでに闘う体力も闘う気力もからは感じられませんでした。
だから僕はこの男に言い放つ。俺がこれから谷口浩に何をするのかを――
「四埜谷浩。僕は今からあなたを咎人にします」
そう言った瞬間四埜谷浩の目はこれでもかというくらいに見開きました。
恐怖で歪む顔。どうやらこの方は咎人になった人間がどうなるのかを知っているみたいですね。
俺がそう思案していると四埜谷浩が火傷で喉が焼けている口を開いた。
「……バー…サーカー……いや、東雲……凉」
「…なんです。まだ話せたのですか?」
四埜谷浩は口を開けてから長い時間をかけて一言一句語りました。
ですが、きっとしゃべるたびに喉が引き裂かれるような痛みが感覚が喉元に走っているはずです。
そうなったやつを僕は今まで何人も見てきました。
――だからあまり喋らせずにこっちから語ります。
「…あなたを操っているのは四埜谷徳。あなたの父である四埜谷徳。違いますか?」
「…!!」
四埜谷浩は俺がそう言うとさらなる驚愕の表情を浮かべます。僕はさらに言葉を続けました。
「まず僕を狙った理由…これは僕が杏さんに近い人間だったからでせよね?」
「……」
「…別にしゃべらなくてもいです。頷いてください」
僕の言葉に四埜谷浩はすぐにこくりと頷きました。
「次に、今晩杏さんを襲おうとしたのは四埜谷徳の復讐のため…ですよね?」
四埜谷浩はきつく歯ぎしりをしながら頷きます。
それほどまでに四埜谷浩は俺達に全てを見破られていたことが悔しかったみたいですね。
――ですが僕が次に言った言葉に谷口浩は…。
「最後にあなたは――」
―――――――――
――――――
―――
―
「以上ですね。僕達の考えた推理は…どうでした?」
全てを語った僕。四埜谷浩は僕の言葉に涙を流します。
それほどまでに僕が語ったことは重く…彼の心を破壊するものでした――
「……!!……!!……!!!!」
喉を火傷したため声を出さずに悔し泣きする四埜谷浩に僕は少しだけ同情ををしてしまいます。
なぜなら彼は…自らの親に欺かれたのですから…。
「…四埜谷浩。安心してください」
僕は僕が出せる中で一番の落ち着いた声で四埜谷浩に語りかけます。
四埜谷浩はそんな俺に泣き顔のまま顔を上げました。そしてそれに合わせて俺はさらに話を続けるのでした…。
「…確かに僕はこの街で最強の契約能力を持っています。それは事実間違いありません」
四埜谷浩は不思議そうな顔をしながら僕を見上げ続けます。
純粋な子供のような目。僕は今までの死んだ魚のような目をしていた彼の境遇に激しく同情をし――
「ですけれども…」
その純粋な目に彼の本質を見たような気がしました。
きっと彼もあの男に捨てられなければ、いつもこんな瞳で人を見れていたかもしれません。
もしあの男に捨てられなければ――彼は咎人になんかならなくてよかったかもしれません…。
――あの男…【四埜谷徳】に…。
だから僕は彼に今一番の言葉を投げかけます。今の彼に必要な言葉。それは――だから僕は彼に今一番の言葉を投げかけます。今の彼に必要な言葉。それは――だから僕は彼に今一番の言葉を投げかけます。今の彼に必要な言葉。それは――
「この街最強の【流れ星】が四埜谷徳を断罪しに行きました…あなたのお父上が助かることはもうありません…」
――そう確かに僕はこの街で最強の契約能力を持ってますがこの街の最強ではありません。
だってこの街最強は…僕の親友で相棒の【ホーリー】こと綾瀬川聖なんですから…。
まぁ竜に言わせると癪に触るそうですけどね――
「ひゃっ…ひゃっ…」
そのとき四埜谷浩は涙をこれでもかというくらいに流しながら焼けた喉を無視して笑い出しました。その姿を僕は…見てられませんでした…。
「…それではお別れの時間です」
最後の力を振り絞って笑い続ける四埜谷浩。
それに僕は見えるように光の刃を取り出し振り上げます。彼を…咎人にするために――
「おやすみなさい四埜谷浩。あなたに竜神のご加護がありますように…」
そして四埜谷浩の意識は消え去りました。永遠に――
〜4月5日・AM1'50〜
???side
「わ…儂を咎人にしにきた…じゃと…?」
ホーリーの言葉に谷口徳は腰を抜かさないようにしながらもそう答える。
「そうだ。なぜならお前は愚かなる愚者…人殺しをしようとしたからな…」
それに対してホーリーはさっきまでとは違い丁寧口調を止めて素で話す。
しかし、その言葉の一つ一つには明らかなる殺気がはらんでいた。そして谷口徳もそれに気付いていた。
だから谷口徳は何とかこの場を切り抜けようとさらに言葉を繋ぐ。
「…ひ…人違いではないか?儂は由緒正しき【光】の四埜谷家前当主だぞ?」
「とぼけるな、お前が成瀬財閥の一人娘の成瀬杏を自分の息子を使って殺そうとしたくらい知っているんだよ」
話を誤魔化そうとしていた谷口徳の考えはホーリーのその言葉で全て破談してしまうのだった。
なぜなら谷口徳は悟ったのだ。この少年は全てを知っていると…。
【成瀬財閥の娘】【自分の息子】これが決めてだった。
「…なぜ知っている?」
四埜谷徳は少し冷静さを取り戻したのか幾分低い声で訪ねる。
だが、ホーリーは四埜谷徳の急な態度の変化に臆することなく肩を竦めながら答えた。
「【CROSS-ROAD】に手に入れられない情報はないってことさ。…ところでお前こそ逃げなくていいのか?」
「【CROSSーROAD】じゃと!?」
ホーリーは目の前の四埜谷徳が動かないのを不思議に思い尋ねる。
しかし谷口徳はニヤリと口元を歪ませて口を開くのだった。
「ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!まさか由緒ある契約者の家系である俺が貴様みたいな小童に咎人にされるとでも思っておるのか?しかも【CROSSーROAD】じゃと?お主のような小童が【CROSSーROAD】の一員とは【CROSSーROAD】も対したことないのぉ!!」
「……」
「儂が当主じゃったころからお主ら【CROSSーROAD】は信用できんかったわい!!それがまさかガキじゃったとは五大領家も地に墜ちたものよ!!」
「……」
「貴様は儂を誰じゃと心得ておる!?四埜谷一族は五大領家だけじゃなく、この街の筆頭一族じゃぞ!?そんな四埜谷一族の元当主である儂を咎人にじゃと?滑稽じゃわい!!ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!ふぉっ!!」
さっきまでの怯えようとは比べものにならないほど高らかにそう宣言する四埜谷徳。
最初のホーリーに気を取られ冷静な判断ができるようになった途端にホーリーが少年であることに気付き態度が変わってしまったようである。
――しかしホーリーも負けてはいなかった。
「ふーん…まさか契約能力が代々受け継がれていた【光】じゃないってだけで末弟を捨てるような男からそんな言葉がでるなんてな…どこが由緒正しいんだか…」
「ぐっ…!!」
ホーリーの言葉に四埜谷徳は再びたじろぐ。
だけどすぐに回復させると再びニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべるのだった。
「じゃが、儂の契約能力はそこら辺にいるお前みたいな馬の骨とは違う!!不知火街の五大領家の1つ【光】の四埜谷家じゃ!!貴様なんかが相手になるとでも思うのか!?」
五大領家という単語はこの街に住む全ての人間が知っている。
【炎・水・雷・光・闇】の5つの契約能力をそれぞれ先祖代々受け継いできているこの街で最も有名な5つの領家のことだ。
そして現在では没落したとはいえ四埜谷家もその5大領家の1つであることには間違いなかった。
それすなわち普通の契約者では手も脚もでないといっても過言ではないのだ。
――しかし四埜谷徳はここで最大にして唯一の間違いに気付いてなかった。
確かに五大領家の契約者――ましてや元当主だった四埜谷徳の契約能力はかなり強い部類に入るだろう…。
だけど今目の前にいる少年は【CROSS-ROAD】最強の契約者集団と呼ばれる彼らの一員であり――
この街で最強の契約者なのだ。
「【一番星】」
――ドガアァアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
その刹那。四埜谷徳の自信に満ち溢れた顔は一瞬にして崩壊したのだった。
「なっ…!?」
頬スレスレに何かがかすめたと思ったらいきなり真後ろで激しい音が鳴り響く。
四埜谷徳にはそんな頬に少し走った痛みと轟音しか感じられなかった。
「な…何が起こった……のじゃ…?」
後ろの轟音が気になった四埜谷徳はホーリーに背中を見せることも気にせず後ろを振り返る。
「……」
しかしそこには何もなかった。
さっきまで四埜谷徳自身がそこに座っていたにも関わらず…。
――キュイィイイイン!!
次に聞こえてきたのはまったく聞き慣れないそんな音だった。
だがあえて言葉に例えるならその音はまるで…高速回転をするドリルのような音。
そしてその音の正体は四埜谷徳のすぐ正面――ホーリーの手の中にあった。
「…【光】じゃと。いや。じゃがここまでの破壊能力を持つ光を光の契約者が出せるわけがない。いったいそれは何なのじゃ!?」
「ん?これか?」
驚きながらもギリギリ出された谷口徳の質問にホーリーは片手に持った高速回転する光の塊を掲げた。
「これは【一番星】破壊能力を持つ光の球だよ」
そう言いながら左手からも光の球を取り出した。
「…そして両手に持つこの【一番星】を連続で放つ破壊技を――」
「!?」
四埜谷徳の恐怖と驚愕に歪む顔にホーリーは狙いを定め…。
「…【二番星】ていうんだ!!」
――ザンッ!!ザンッ!!
2つの光の球を放つのだった。
四埜谷徳はギリギリのところで反応して死に物狂いで2つの光球を避ける。
そして四埜谷徳はこのとき初めて悟ったのだった。
目の前の少年の威圧、目の前の少年の殺気、目の前の少年の覇気…。
目の前の少年の強さに――
目の前の少年の恐怖に――
目の前の少年の標的に――
「へぇ…二番星を避けるなんてさすがは五大領家の元当主ってだけはある――」
「……!!」
――ガタッ!!!!
感心したようなホーリーの言葉。だが四埜谷徳はそんなホーリーの言葉も聞かずに駆け出すのだった。
目の前にいる恐怖から逃げるために――
――タッタッタッタッ…!!
襖を乱暴に開け、家の廊下をただ全力で走る。
しかし四埜谷徳に襲いかかってくる恐怖は無くなることなく彼の後ろから迫ってきていた。
脳裏に浮かぶのは――オーバーコートを着込んだ白い仮面の少年…ホーリー
ただ街で通り過ぎただけなら別段気にすることもないがあの姿を真正面から視ると――大の大人ですらその恐怖に迷い込んでしまうのだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…!!」
しかし、ただ全力で家の中を走り逃げ惑う四埜谷徳にも勝機はあった。
それは――“車”だ。
いくらホーリーが脚が速くてもさすがに車には追いつけない。
だから正門を出てすぐの所に待たせている車の所に逃げ込めば逃げ切れる。四埜谷徳はそう思っていた。だがしかし――
「…ぬっ!?」
――しかしその考えはいとも簡単に打ち砕かれる。
正面玄関の扉を覆う棘だらけの弦と赤い薔薇――そして屋敷の塀の上に座る漆黒のドレスを纏った少女によって…。
「逃げ切れると思った?愚かなる愚者様♪」
少女――クローバーが放った言葉には妖美さが入り交じっていた。
月明かりが少女を照らしたそのとき、クローバーはその右手に持つ赤い薔薇の花をクルクルと回して戯れる。
その姿はとても幻想的で美しかった――
――カツ…カツ…カツ…
そして目の前の妖美な美しさを持つ少女が月明かりを浴びながらこちらを向いたとき。後ろからは悪魔の足音が響いた。
聖なる光の名前を3つ持つ少年――
【綾瀬川聖】
【ホーリー】
そして特殊事件捜査班係での呼び名――
【漆黒の流れ星】
その全ての名前に光が入る少年がゆっくりと歩み寄ってきたのだ。
四埜谷家前当主の四埜谷徳はその少年に後退りをしてしまう。
――くしくも四埜谷家は光の一族。
四埜谷徳はその行動ですでに戦意を失ってしまっていた。強い“光使い”だからこそホーリーの恐ろしさが分かっているのだ。
【光】を持つ少年に【光】の一族が負けた瞬間であった。
「く…来るな!?来るな!!」
四埜谷徳は悲願しながら地面に腰をつけてしまう。どうやら腰が抜けてしまったみたいだ。
そしてホーリーはゆっくりと四埜谷徳に近づいていき…目の前まで行くと見下ろすように四埜谷徳を眺める。
その瞳に映るのは四埜谷徳の怯えた表情のみ。
対して四埜谷徳はホーリーの顔を見ることができない。なぜならホーリーは白い仮面で顔全体を覆っているからだ。
――しかし、四埜谷徳は知らず知らずのうちにホーリーの顔を見る必要もなくホーリーの心情を読みとっていた。
そしてそれがイコールで恐怖と怯えに繋がっていることも――
「お前の罪は3つ。1つは身勝手な復讐心で俺の友達を殺そうとしたこと……」
四埜谷徳を見下していたホーリーは淡々とそう告げながら四埜谷徳の目の前に紙の束をほうり投げる。
そしてそこにはこれまで四埜谷徳が犯してきた罪の数々。それが書かれていた。
・成瀬銀行に押し入った銀行強盗の主犯が実は四埜谷徳であること。
・それが成瀬財閥の社長――杏の父親に見破られたこと。
・それが原因で会社を解雇されて遠くへ逃げなければいけなくなったこと。
・さらに四埜谷家の当主から降ろされたことや多大な慰謝料で借金を抱え妻や子供とも別れたこと。
などなど全て証拠付きで並べられていた。
四埜谷徳はそれを見てさっと顔を青ざめる。
自分の過去が全部目の前の少年にばれてしまっていることを――そして自分が逆恨みをして復讐心を燃やしていたことも…。
ホーリーはさらに話を進めた。真実を話す者として――
「2つ目はお前がこの街で殺人を起こそうとしたことだ」
ホーリーは冷酷な口調でそう話す。その口調は今までの中で一番冷たいものだった。
まるで自分が言っている言葉にすら嫌悪を示すような…そんな口調だった。
「ホーリー…自分を見失ったらダメだからね…」
冷たいホーリーの声にクローバーが心配そうに呟く。
月明かりに照らされたそのときクローバーが戯れていた赤い薔薇を手放す。【生気】がなくなり枯れた赤い薔薇を――
不安だったのだクローバーは。ホーリーのことを一番知っている彼女だからこそ…ホーリーの心の不安定なところが分かっているのだ。
そして話は終局へと向かう。最後の罪へと――
「3つ目の罪それは――」
そのときホーリーは冷たい目から一転し熱く怒りに燃えあがる。
クローバーの心配していたことが実際に起こった瞬間であった…。
「それは――自分の息子を…四埜谷浩の命を…冒涜したことだ…!!」
ホーリーがそう言った瞬間に月明かりだけじゃなく夜空に輝く全ての星が震えあがる…!!
まるで存在する全ての光が彼――ホーリーに屈服したかのように…。
そしてそれはさっきまでの怒りとは違う。冷酷な落ち着いた怒りではなく。ただ純粋に憤怒した荒々しい怒りだった。
しかし、そんなホーリーの激動のような怒りとは裏腹に四埜谷徳は――
「自分の…息子じゃと?」
恐怖と怯えが入り交じっている顔の中に四埜谷徳は新たな表情を見せた。驚きと嫌悪、その顔は完全にホーリーが四埜谷浩を息子だと認識していることに対して、驚き、嫌悪感を現していた。
ホーリーにはその表情が信じられなかった。そしてホーリーはついに――
「ふざけんなよ…!!」
キレたのだった。
「ふざけんなよ…!!貴様!!貴様はただ自分の息子が谷口家に代々受け継がれてきた【光】の契約者じゃなかったってだけで捨てた…!!血のつながった自分の息子なのに家族として扱わずに【物】として扱い…!!それだけじゃなくあろう事か自分勝手な復讐に自分の手をけがさせないために守りもしない約束をして谷口浩を利用しようとした…!!これを罪と言わずになんと言うんだ!!」
なぜ親友の東雲凉や、幼なじみの親友である成瀬杏を、殺そうとした四埜谷浩を庇うのか?
実はそれには彼のコードネームが大きく関係している。
コードネーム【ホーリー】
この言葉には2つの意味が含まれている。1つは彼の名前【綾瀬川聖】の【聖】を英語読みしたとという至極簡単なところから。
そしてもう1つの意味。それは自分の仲間内だけじゃなく彼には関わってくる全ての人を包み込む彼の【優しい性格】から来ているのである。
敵であった者ですら庇ってしまうその【優しい性格】から――
そんな彼だから学校では困っている人を助けるために【何でも屋】を経営し“過去”の経験から人殺しを街で発生させないために恐怖の抑止力として【CROSS-ROAD】として夜の街を駆けぬける。
昼は願いを叶える【流れ星】として過ごし――
夜は街を守る【流れ星】として過ごす――
常人ならおかしくなってしまうほどの二足の草鞋を履く【綾瀬川聖】
それにより今回のように内側に溜め込んだものが1つの怒りで爆発してしまうことがあるのだ。
――だがしかしいくら激情に走ってもホーリーこと綾瀬川聖は今まで彼の理を破ったことはなかった。
それは彼には彼を間違った方向に向かわせないためのストッパーがいるからである。
その名前は――
――ガバッ…!!
「だめよホーリー。怒りに任せて攻撃しちゃだめ…」
漆黒のオーバーコートの少年はいつのまにか移動してきた漆黒のドレスの少女に抱きしめられる。
クローバー(奏)だ。
「クローバー?」
「ねぇホーリー。あなたはいつだってそうしてきたでしょ?街の平和を守るために…抑止力となるために…あなたは今まで闘ってきた…。私はそんなあなたの創った【CROSS-ROAD】だから協力してるのよ――」
クローバーはゆっくりと抱きしめた手に力を入れていく。
「…もちろん【ホークアイ】も他のメンバーもあなたと【バーサーカー】の願いを叶えるためにこの組織に所属してるのよ…。確かに私達はあなた達の“過去”に何があったかは知らないわ…。でも、私達はホーリー。あなたとバーサーカーを信じてる。ずっとずっと信じてるから…」
クローバーが放つ言葉1つ1つがホーリーの安定剤へとなり脳に直接響いていく。
クローバー――白草奏はホーリーにとってまさにこちらにつなぎ止めるストッパーなのだ。
「…でもクローバー。俺はあいつが…四埜谷浩がどんな気持ちで…父親のあいつの言葉を聞いていたのかを考えると…」
「……うん」
「あいつが……“家族に戻らないか?”て言われたときの気持ちは…一体どれくらいのものなんだろうな?」
「……………そうね」
クローバーは悲痛に悶えるホーリーの背中をさすりながらホーリーの話に耳を傾ける。
彼の優しい性格を誰よりも知っている彼女だからこそ…ホーリーの苦しみを理解して共用することができるのだ。
――なぜなら彼女は心優しき少年の幼なじみだから。
「…家族がいる私達にはたぶん一生分からないわ。でもその気持ちに気付いてあげただけでも私はいいと思うわ」
だからこそ彼女は知っている。
彼がどんな言葉を待っているのかを――
「私達は…あの人を救うことはできないけど…あの人の思いを忘れないようにすればいいんだよ♪」
そしてクローバーが言う言葉はホーリーを必ず救い出す。奈落の底から――
「…ありがとう。奏」
そして冷静さを取り戻したホーリーは白い仮面の上からクローバーに微笑む。
昔は同じくらいだった身長も、いつのまにか10センチ以上もホーリーの方が高くなっている。
クローバーはそんなホーリーを頼もしく思う反面、やっぱり自分が支えなければいけないと改めて思うのだった。
『『……!!』』
そのとき、ホーリーとクローバー彼らの関係をぶち壊す人物がいることを2人は忘れていた。
――四埜谷徳。今回の事件の黒幕である。
「ぐぉー!!くらえー!!」
――ザンッ!!
四埜谷徳から放たれたのはホーリーの【一番星】と同じ光の球。
だがしかし、その光の球をホーリーの【一番星】と同じにしていいのかは定かではなかった。
なぜなら――
「…あの光。汚い」
「…確かにな。お前の言うとおりだクローバー。あの光の色は…汚すぎる」
ホーリーとクローバーの2人が四埜谷徳の光の球に嫌悪感を抱くほどに汚い輝きを持っていたからだ。
「はぁ…四埜谷徳。あいつはまだ自分の立場が分かってないみたいだな…」
「私達が油断してるって思ったんじゃない♪」
だが、攻撃用の契約能力を目の前にしても2人は楽しそうに談笑を交わす。
その瞳には怯えなどひとかけらもなかった。そしてどうやらそれが四埜谷徳の怒りに触ったようである。
「…舐めてんのか貴様らあぁああああああああ!!」
迫り来る光の球。その球には四埜谷徳の怒りの成分も折り混ざる。しかし、それを前にしてもやはり2人の目に恐怖の色が灯ることはなかった。
「…まさかこんな攻撃で俺達を殺せると思ってるわけじゃないよな?」
不適に笑うホーリーはそう言って四埜谷徳が放った光の球に指を突きつける。
光りとは輝き。輝きとは聖なもの。光の前に聖の名前を持つ彼が臆する必要はなかった――
「契約の数だけ星があり、契約者の数だけ星座が生まれる…。そういえばまだ俺の契約能力を言ってなかったな?」
すでに目の前まで迫ってきている光の球。しかしホーリーは避ける素振りを一切見せない。
むしろ光の球を鋭く見つめる。迷いなどなかった。
――パリンッ!!!!
その刹那、まるでガラスが割れたかのような音が光の球がホーリーとクローバーに直撃したのと同じタイミングで辺りに響き渡る。
それは長年生きてきた四埜谷徳も聞いたことがない音であった。
「…!?」
そして、四埜谷徳の目にとんでも無いものが映ってくる。彼が放った光の先。そこにいたのは――
「光は全て空から始まり。そして空は夜になると無数の【星】が燦々と輝く…。そう、俺は光の根源であり夜の支配者…」
――バリンッ!!!!
「【星】の契約者だ」
ホーリーはそう言った瞬間に谷口徳が放った光の球を完全に握りつぶす。
そう、最初の音は四埜谷徳の放った光の球を強い力で握りしめたためにヒビが入った音。
そして最後の音は四埜谷徳の希望を破壊してしまった音であった…。
「ななななな…!?」
「あれ?どうしたんですか愚かなる愚者様?人を指さすなと親に教わらなかったのですか?しかも…笑い方が変わってますよ?」
「ぐっ!!」
四埜谷徳はホーリーの皮肉に思いっきり唇を噛み締める。しかし彼になすすべはない。
後ろの門の扉はクローバーの契約能力により完全封鎖。そして前には化け物契約者のホーリーとクローバー…。彼に希望はなかった。
「…【流れ星】」
四埜谷徳はその瞬間最後の時を迎えるたの言葉を聞くのだった。
目の前にいる地上を流れる最も輝く星…。
【漆黒の流れ星】に――
「【流れ星】に出会ったら願いを3回唱えな…」
【流れ星】それは一瞬だけ空にいるどんな星よりも輝いて消える刹那の星。
そして彼【ホーリー】もまた、そんな【流れ星】の1つだった。刹那の輝きで、愚者の未来を消し去る漆黒の流れ星…。
それが彼、ホーリーの正体。闇夜に生きる堕天使。漆黒の流れ星【ホーリー】なのである。
「願いは終わったか?まぁ俺にはその願いを叶えることはできないがな…残念だったな…愚者様」
ホーリーの言葉に四埜谷徳は完全に青ざめる。なぜなら、彼は――いや、彼“も”必死に願ったのだ。目の前の少年。ホーリーに…。
【助けてくれ…!!】と。
――ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!ザンッ!!
だが、彼の願いは叶うこと決してない。その証拠に彼の周りから大量の光の柱が現れ、彼を囲む。
光使いの彼でも見たことがない光。その光を目の前にして、四埜谷徳は完全に絶望するのだった。
「天の檻に阻まれ、天の檻に捕らわれ絶望を味わえ…【水瓶座】」
ホーリーの静かなる呟き、その瞬間、四埜谷徳。彼は完全に光の柱に囲まれてしまう。
それはまさしく光でできた【天の檻】だった。
「なっ!!なんじゃこれは!?」
「あなたの処刑台ですよ…。愚かなる愚者様?あなたは天の光を前にすべてを失う。意識も…心も…未来さえも…ね」
四埜谷徳をさらなる絶望を味わう。ホーリーの振りかぶった光の鎌によって――
「天の鎌に絶望し、天の鎌にその魂を刈られよ…さよなら…愚かなる愚者様」
――ザシュッ!!
――ホーリーが振り下ろした光の鎌は四埜谷徳の命を奪うことなく四埜谷徳の契約能力だけを刈り取る。
絶対なる光を前に、四埜谷徳は遥かなる未来を奪われるのだった…。
「【蠍座】」
――バタンッ…
四埜谷徳。かつて、この街で最も繁栄を極めたと言ってもいい四埜谷家の党首だった男。
性格がねじ曲がっていたとはいえ、彼がこの町に与えた恩義は多大なものであった。ただ1つ。彼の人生において唯一犯した間違い。それは――
「…次に、御生まれになるときはあなた様が愚者になっていないことを切に願いますよ…四埜谷徳様」
それは――この街で人を殺してしまったことだけである。
深夜の人気が少ない時間帯。屋敷の辺りにはホーリーの呟きだけが響き渡たっていた…。
〜4月8日・AM8'30〜
聖side
「あ〜〜もう〜〜解んないよ〜〜〜!!!」
おはようございます。綾瀬川聖です。さっそくですが、俺達Aクラスのメンバーは授業開始の10分前突然成瀬杏の襲撃にあいました!?
「どうしたんです?杏さん?まるでデラー提督が宇宙戦艦マトを撃ち損なったときみたいな顔してますよ?」
「凉!!あんたいつの世代よ!?」
「いや…でもこの間までキタク主演で映画化もされてるし、案外最近の人でも知ってるんじゃないか?これは…」
「それにもうすぐ完成するらしいしね♪」
「奏!!それはないから!?」
俺のまともな発言からの奏の天然ボケ発言に杏は息を切らしながらツッコミをする。
それにしても花さん(奏のお母さん)また奏に変な嘘教えましたね…。
少しは後始末する俺の身にもなってくださいよね…。本当に…はぁ…。
「…奏。それ嘘だからな」
「え!?そうなの!?」
『『てか信じてたんかい!?』』
――わぉ…俺と奏の会話でまさか凉と杏だけじゃなくてクラス全員でツッコンでくるなんて…。
案外このクラスって纏まりいいのか?
『あーかわいいな白草さんと成瀬さん』
『天然な生徒会長さん…萌ます!!!』
『キャーッあの生徒会長さんの表情すごくかわいい☆』
『俺……俺……もう我慢できない!!!』
『はぁ…はぁ…たんと杏たんも、萌〜〜』
『…ぶつぶつ(やるからにはやっぱ夜中か)』
――訂正、こいつらはただの馬鹿な集団だ。
「あははは…」
「こいつらばっかじゃないの!?」
クラスメートから引き気味にして苦笑いする奏。対して、杏は警戒心バリバリに威嚇をする。
――杏、頼むから契約能力だけは使うなよ?というより奏。頼むから俺の袖を掴むな!!周りの視線が痛いわ!!
「まぁ諦めることですね聖。…でも、怯えている幼馴染に制服の袖を握られるなんて…どこのラブコメだ!!てことになりますよね?聖?」
「…凉。お前たまに毒吐くよな?」
「気のせいですよ。聖。僕は二酸化炭素は出してても毒物は決して出しませんから…しいて言えば、僕が吐くのはただの本音です♪」
「尚更たちが悪い!?」
「お!!いたいた!!!」
凉のあまりの発言に、俺が机をバンと叩いたそのとき、不意に教室の扉から数名の男子生徒が入ってくる。その顔は見覚えがないものばかりだ。
だが、明らかに彼らの顔は俺達の方を向いている。いったいどうしたんだ?
「…ねぇセイ君。なんかあの人たち、私達の方に歩いてきてない?」
「奏。それはきっと気のせいだ。奴らが目指してるのはきっとイスカダル星さ…」
「まだそのネタ引っ張るの!?」
杏のツッコミは華麗にスルーさせていただきました。そして、俺達のミニコントの間にも、例の生徒達はみんなある一点を目指して歩いてくる。
その進路に迷いはなく、ついにその場所へとたどり着いた。その場所――成瀬杏のところに…。
「なによ?あんたたち…」
未だに少し不機嫌な杏。ちょっとイジメすぎたかもしれない。だが、その生徒達にはあまり関係ないようだった。
――バンッ!!
その男子生徒達――あれ?女子もいる?――は杏の目の前に大量の本を叩きつけた!!それは選り取り見取りの大量の同人誌。
俺はこの同人誌の山を前に顔をひきつらせてしまった。
「…成瀬。知りたい情報があるんだ」
「のったー!!!」
だが、俺の前にいる人物は俺とは見方が違うようだった。目の前に広がるはアニメの同人誌に一気に上機嫌になる杏。
その瞳にはすでに銭マークではなく、なぜか萌キャラクターが浮かんでいた。
「で?で?あんたたちは何が知りたいの?」
萌キャラクターが目に浮かぶ杏。そして、その手にはどっから持ってきたのか【THA情報】と書かれたノートなるものが乗っかっていた。
どうでもいいけど、そのノートの表紙に【はぶりたいあの子の情報編☆】と書かれているのは勘弁してもらいたい…。
まったく「【CROSS-ROAD】について知りたいんだ!!」――仕方のないやつだ。
「…は?」
「だから!!都市伝説の夜の執行人【CROSS-ROAD】について知りたいんだよ!!俺達【CROSS-ROAD】研究会は【CROSS-ROAD】の正体を突き止めたいんだ!!だからこの間現れた【CROSS-ROAD】の情報について教えてくれ!!」
――真ん中の男。おそらく【CROSS-ROAD】研究会とやらの部長らしか人物がそう熱く語る。
そしてそれに合わせて教室内にも【CROSS-ROAD】の話は広まっていった――
『【CROSS-ROAD】てあの都市伝説の…?』
『ま、まさか…あれってガセネタじゃないのか?』
『でも…【CROSS-ROAD】って正体不明じゃなかったかしら…?』」
『あぁ、一説じゃあ過去の英雄が聖杯を巡って争う戦争だとか…』
『一説では7つの龍球を集める異星人だとか…』
『いや、後者は明らかに関係ないだろ?』
『前者も十分怪しいと思うな〜』
『とにかく!!【CROSS-ROAD】は全然正体が掴めないってことだよ!!』
様々な憶測が飛び交う中で情報屋の成瀬杏は…。
「…ごめんなさい。これは受け取れないわ」
丁寧にその仕事を断り、同人誌を返していた。
それに驚いたのは真ん中の男…【CROSS-ROAD】研究会の部長らしき人物だった。
「な、なぜだ!!あなたは何でも情報提供をしてくれるんじゃないのか!?」
そう叫びながら部長らしき人物は杏に詰め寄る。その行動に彼の必死さが手に取るように伝わってきた。
――しかしながら、それでも杏は首を縦には振らなかった。
「くっ!!だったら【何でも屋】!!」
――ん?次は俺か?
「お前に依頼した「却下だな」い…何でだ!?」
部長らしき人物の言葉を遮って俺はその依頼を拒絶する。悪いな…。普通ならどんな依頼にも応えるけど、こればかりは絶対に応えられないんだよ。
部長らしき人物は俺の言葉に、さらに声を荒げる。だが俺達4人は、一瞬目を合わせてからアイコンタクトをし――静かに頷き合うのだった。
「それはね――」
杏が声を出しながら人差し指を立てて鼻の前に置き…。
「ふふふ♪みんなも分かるでしょ?」
奏はニコニコと笑いながら杏と同じように人差し指を立てて鼻の前に置き…。
「ガラじゃありませんので僕は遠慮します」
凉は俺にコソッと耳打ちをしてから教室を出て行った。そして俺は――
「都市伝説は都市伝説…伝説は正体が分かっちゃダメなんだよ…だって――」
そう言いながら奏と杏に目線を送る。そして、教室にいる人間全員が息をのむのを見て、俺達は最後に語る。
俺達の“願い”を――
『『そっちの方が、おもしろいだろ(でしょ)?』』
――【CROSS-ROAD】それは闇夜に生きる堕天使。
――【CROSS-ROAD】それは愚かなる愚者を刈る夜の執行人。
――【CROSS-ROAD】それは一夜限りの輝きを放つ漆黒の流れ星。
彼らは今宵も夜の街へと旅立っていく。
愚かなる愚者の魂を刈り取るために。
おまけ
「ところで杏は何しに来たんだよ?」
「あーー!!しまったー!!実力テストの確認に聖達のところに来たのにー!!!」
「…手遅れじゃね?」
「こうなったら今からでもいいから要点だけでも――」
――キーンコーンカーンコーン…
「…OTZ」
「…諦めて教室に戻れ」
ちなみに杏のテスト結果はギリギリだった…。
もちろんギリギリ赤点だったってことだ。
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こんにちは。この度――
【CROSS†ROAD】
――の改変をさせていただくことになりまして大変申し訳なく思っております。
前々までは【時の秒針】と同じように間の話を入れて続き物にしようと思っておりましたが……。
ぶっちゃけ間の話が思い浮かびません(涙)
ですから【CROSS†ROAD】は第一章、第二章、第三章と分けて進めていきたいと思います。
つまりこの小説を第一章として第二章は別の小説。第三章はさらにまた別の小説として投稿していこうと思います。
大変申し訳ないのですがこれからも末永くお付き合いしていただくとありがたいです。
ではまた別の小説でお会いしましょう。
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