究極のカレーを食べたいと王子に頼まれまして
スパイシーで香ばしい香りが漂う田園の村落。
「そこのお嬢さん、ちょっといいかな?」
旅人だろうか?
旅装束の青年に声を掛けられ、水汲みをしていた村の少女は手を止め、振り返る。
「はい、何でしょう旅のお方」
少女に微笑を返し、青年は言った。
「キミのウ※コを食わせてくれないか」
変態だ!
少女は風よりも早く踵を返し、脱兎の如く逃げ出した!
「ははは、ちょっと待ちたまえ。取って食おうというのではない、話を聞いてくれないか」
「ひいぃぃっ! つ、捕まったあぁぁ……!!」
青年に腕を掴まれ、引き留められる。
きっと取って食われる方がマシと思えるようなコトになるに違いない!
「頼む、話だけでも! 頼れる者が他に居ないのだ」
「え……」
少女は改めて青年の目を見る。
そこに歪んだ欲望の色はなく、真っ直ぐで真摯な――追い詰められた者の色だけが、透明感を伴い揺蕩っていた。
「ま、まぁ……話だけなら……」
「おぉ、ありがたい! 千の味方を得たかのような心強さよ!」
青年は破顔し、小柄な少女と視線を合わせる為か、彼女の前に膝を付く。
「私はカリヨン。隣国、エスビィハウス王国の王子だ」
「――王子様!?」
風の噂に聞いていた。
隣国には優秀だが変わり者の王子が居ると。
それが目の前に居る彼だというのか。
「込み入った事情については省くが……キミも知っているだろう。カレー味のウ※コとウ※コ味のカレー、食べるならどっち? という二択問題を」
「はい……まぁ、一応は」
少女が頷くのを待って、彼は続けた。
「私としては、カレー味のウ※コは、何処まで行ってもウ※コ。故に、食えない。なのでウ※コ味のカレーを食うことにした」
「……!?」
一瞬、論理の飛躍が感じられたが――少女を困惑の渦に叩き込みながら、カリヨン王子は語る。
「だが、やはり……無理だ。私はウ※コ味のカレーを食うことが出来なかった。その結果――」
グッ、とカリヨン王子の整った眉間に苦しげな皺が寄る。
「私は国を追われた」
「貴男の国どうなってるんですか」
意味が分からない。
意味は分からないが、彼が嘘をついているようには思えない。
「私は未熟を恥ながら国々を回り、考え続けた。そして一つの答えに辿り着く……ウ※コ味のカレーは、ウ※コの味がするから食えない。ならばカレー味のウ※コなら食えるのでは? と」
思考回路がサイコパスだ。
だが、少女の頭にふと疑問が浮かぶ。
「あのカリヨン王子、よろしいでしょうか? ウ※コ味カレー、そのお味は、どのように調整されたのですか」
「私の忠実な臣下が、身を挺して作り上げてくれた」
国を追われる筈だ。
「話を続けよう――私はカレー味のウ※コを求め、世界を練り歩き……この村に辿り着いた。このタメリク村はスパイスの本場……そうなのだろう?」
頷く少女。
確かにここはカレーに使われるスパイスの原産地として有名で、村には常にスパイシーな香りが漂っている程だ。
「ここに住まう人々は日常的にスパイスを食しているに違いない。ならばウ※コはスパイシーでカレーに近い筈! つまりカレー味のウ※コだ!!」
何という着想! 何という発想の転換!!
もしこれが王の才覚だというのなら、国は終わりだ!
「さあ、これで話が繋がった。私がキミのウ※コを求める理由が分かって貰えたと思う……じゃあ、頼む」
そっ、と差し出されるカレー皿に載った白米。
「い、嫌ですよ! 大体どうして私なんですか! 他の人でも……」
「どうせ食うならオッサンのウ※コより、若い娘のウ※コが良い」
真っ直ぐな瞳で、カリヨン王子がそう返す。
こんなにも気色の悪い正論は初めてだ。
「さあ、頼む。ここへキミのウ※コを! ホット&スパイシーなヤツを頼む!」
「いっ、嫌です! 無理! 出来ません!」
「そう言わず、ササッとやってくれれば良いから!」
「無理なものは無理です! ダメです、絶対嫌!! お嫁に行けなくなります!」
「ならば私が責任を取ろう! それならどうだ!? キミを大切にすると誓う!!」
「う……」
逡巡する少女。
責任を取る――即ち、玉の輿だ。王子と結婚なんてチャンス、二度とない。
それに彼は、変態かもしれないが――誠実だ。
平民である自分に対し、強権を振りかざすような真似をせず、全く嘘もつかない。
王子である以前に、一人の男性として……悪い人ではないと思える。
「頼む、この通りだ! 他に頼れる者が居ないのだ! 私には、キミしか居ない……!」
「うぅ……!」
カリヨン王子が深々と頭を下げる。土下座さえしそうな勢いだ。
「頼む、後生だ……!」
「くぅ……っ!」
カレー皿の上で白米が艶やかな輝きを放つ。
そして、少女は――……。
「あぁっ……! あぁぁぁ…………!」
「恩に着る!!」
お嫁に行けない身体となった。
「スンスン……これならイケるやもしれぬ」
鼻を近づけニオイを嗅ぎ、カリヨン王子が懐から銀のスプーンを取り出す。
「いざ、実食!!」
躊躇も迷いもなく、大胆にバクリと一口。
目を閉じ、咀嚼し、飲み込んで――。
「おぅっ……おェ、おぷッ……ゲロゲロゲロ……!」
「何で吐くんですか! せっかく頑張ったのに!!」
ターメリックな吐瀉物を盛大にぶちまけた後、カリヨン王子は口元を拭って低く呟く。
「何てこった、食えたモンじゃない」
「食べ物ではありませんから当然ですね」
「ニオイは成立していたのだが……素材が悪いのか? クソッ!!」
口惜しげに地面を叩くカリヨン王子。
夢破れた男の無念、それがひしひしと感じられた。
「私は、これからどうすれば良いのだ……」
「ここまでしてダメだったのですから、もうお国に帰られてはどうですか?」
少女は優しくそう進言するが――。
「無理、門前払い」
「ですよね」
しかしそうなると彼は本当にこの先、どうするのか?
心配げな表情を見せる少女――と、それを感じ取ったのか、カリヨン王子がスックと立ち上がる。
「なに、心配は無用。この程度で挫けるものか……私の前に、必ず道はある!」
「カリヨン様……!」
良かった、と安堵する少女へ、王子が手を差し出した。
「さあ、行こう。新たな可能性を探す旅へ、私と共に!」
「えっ!? ど、どうして――」
「責任を取ると言ったろう? 男に二言なし!」
変態だが、悪い男ではない。
少女は差し出されたカリヨン王子の手を取った。
「よし、出発だ! 次はエルフの里へ赴くとしよう。彼らは草ばっかり食ってるイメージだから、キツい味や匂いはしないに違いない」
「わ、私のがキツかったみたいに言わないでくれます!? それにそんな理由でエルフの里に乗り込んだら国際問題に――……!」
カレー味のウ※コとウ※コ味のカレー。
広い世界には、まだ食べていないウ※コがあるに違いない。
究極の二択を解決する二人の旅は、まだ始まったばかりだ。




