【閑話:こぼれ落ちたもの】
きれいに整えられた丘が有る。
それなりに予算をかけて随分前に整えたものだ。
100年と少し前に最初の住人が納められ、いままた新たな入居者が訪れたところだ。
新居の前に崩折れる男が居た。
ここは郊外にある墓地。
丘の上の墓地だった。
この街自体が100年ほど前に作られ、ひっそりと営まれてきた。
ここは汎銀河連邦の広大な行政エリアの果て。
とある渦状腕の隅にひっそりとある星系だ。
中心部からみたら辺境の彼方で、そこにあると言う事すら知らぬものが多い。
無もなき細い腕の極北にある。
うずくまる男はこの街の、この星系の王と呼ばれる存在。
”支配者”ではなく、”指導者”として存在する王だ。
この星には長い周期の季節がある。
今は厳しい冬をこえた春だった。
春が来たのにと、王は思っていた。
風が緑の香りを運んで来る。
日に透かされるさみしげな木々にも、若い緑が揺れだしていた。
王の背中側には都市が広がっている。
数千万の人々が暮らし、夢を育み分け合っている。
そんな世界が静かに広がっているのだ。
もちろんその彼方にも空の果てにも、この王を導きとする人々がいた。
今の王はそれらに背を向けている。
ただ震える背を向け、崩折れていたのだ。
王には多くの仲間たちがいた。
共に支え合い、この星の果ての世界を築き上げた。
誇るのでも、ひけらかすのでもなく。
ただひっそりとここに夢を生み育む世界を示したのだ。
仲間たちの中に、血を心を分けた肉親が居た。
それは王にとっては家族であり、欠くべからざる存在だ。
弟よと王は呼び、兄さんと彼は王を呼んだ。
その大切なものがここに眠っている。
この戦時中に遺体が帰ることは稀だ。
この墓にも遺体はない。
銀河の果ての争いでは、塵一つ残さず宇に消えていくことのほうが多い。
ただここに王が彼を納め、ここで祈ろうと決めた。
そこでだけ背を震わせることを自らに許す場所だった。
どれくらいの時間が流れたのかは解らないが、王の後ろにはるか控えて巨大な影が跪いていた。
異様な大きさは、立ち上がれば5mはあるだろう巨体のヴェルニアス。
そのかたわらにそっと立つ小さな姿は赤いミニドレスに黒レース。
青い瞳をそっと震える背中に向けている。
我が子を愛おしむように憐れむ。
思いがけず見てしまった兄の弱さに、怯えるように目をふせる。
そっと言葉はなくセルミアは見つめていた。
ただ影だけが伸びていき、そこに時間が流れたのだと示した。
大切な時間だったのだと。




