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ツみは無し《話》

「ん……」

 孝浩は目を覚ました。未だに身体は重く、少し頭が痛い。

「旦、先生……起きたよ」

「良かった……」

 部員2人が心配そうな顔で覗き込んできた。

「お前ら……あれから、どうした?ここは?俺様はどれくらい意識を失ってた?」

 そこへ2人のどちらでもない声が飛び込んで来た。

「別に、何もありませんよ。彼ら2人が貴方が起きるまで待つと言ってらしたのでお待ちしておりました。なので特に事件の話はしていません。……ちゃんと周りを見たらどうです?ここは変わらず部室の中ですよ。貴方は30分間、意識を失っていたのです」

「30分……か」

「私の過去を無理して視ようとしたとはいえ……、意識を取り戻すまでたったの30分とは、貴方の方こそ化物でしょうに……」

 どうも岩槻は己の過去を視られたことに苛立っているらしい。

 孝浩はそんな態度に思わずククッと笑ってしまった。

「何かおかしいことでも?」

「……いや、気にするな。てめぇの過去も、存在も誰にも言う気なんざねぇからよ」

「……本当に?彼らにも?」

「ああ」

 少し安堵したように近くにあった椅子に岩槻は座った。

 旦と菜々は分からないが、過去を垣間見た孝浩にとってはその姿が面白くて仕方がなかった。自分と同等、もしかしたらそれ以上の化物とは思えなかったからだ。

 生徒2人は、岩槻の過去が気にはなったが、本人が詮索されることが嫌そうなので、まるで気にしていないと言う風に振る舞った。

「しかし、まさかてめぇが……」

 笑いを堪えているのか孝浩の身体が小刻みに震える。

「……言わないと言った矢先にそれですか」

「冗談だ。それよりもそろそろ事件について話してくれるか?」

 岩槻が溜息をつきながらも渋々話し始めた。

「被害者は理事長の娘、鬼塚香織(おにづかかおり)。死因は毒殺。何でも最近風邪を引いていたらしく、薬を服用していた、とのことです。それを知っているのは、親である理事長、鬼塚辰人(おにづかときひと)。親友の飛鷹飛鳥(ひだかあすか)。生徒会長の国枝透司(くにえだとうじ)。部活の仲良いと言う噂の後輩、帯刀恭美(おびなたやすみ)。以上4名。先程の4名の中に犯人が居ると思われています。それと最初に毒殺と言いましたが、司法解剖の結果が出ていないので正直な所、あくまで状況から察した推測です。恐らく犯行はカプセル状の薬と言うことでそこに毒薬を入れて服用した……、そういう流れではないかと。中には被害者の自殺と言っている者も居ます」

 孝浩は少しの間、考える仕草をして菜々に顔を向けて言った。

「……菜々、容疑者4人について今すぐ調べられるか?」

「10分待って下さい」

 菜々はそう答えると、席を立ち、隅に置いてあったノートパソコンに電源を入れた。

「あの、俺は何してればいいっすか?」

「とりあえず現時点でわかってることをメモしておけ」

「了解でーすっ」

 旦はどこからかメモ帳を取り出して、先程聞いた事をテキパキと書いていく。

「さて、岩槻さんよぉ。俺様は少し寝させてもらうぜ。誰かさんのせいで疲れちまったからな」

「その誰かさんの過去を無理に視ようとするからいけないのではと思いますが……。寝ていた方がいいという判断は賢明だと思います」

 孝浩は岩槻がそう言ったのを聞くやいなや、ビシッと指さした。

「それならこいつら2人のこと頼んだぜ、岩槻さん」

 岩槻は「はい」と、短く返事をする。

 その声を聞いたようで静かに眼を閉じた。ほんの少しすれば、スースーと安らかな寝息を立てているのが聞こえてきた。

 カタカタとキーボードを打つ音がリズム良く聞こえ、書く時に聞こえる特有の音と、寝息の音が混じる。不思議と日常の音は不協和音とはならないと改めて思わされてしまう程に。

 岩槻がそう、感慨にふけっていると少女が声をかけてきた。

「えっと……岩槻、さん?」

「あ、はい。何か……わかりましたか?」

 菜々は膨大な量の紙の束を持っていた。

「あの、それ今の短い時間で調べた奴ですか?」

「……これは、その調べた資料をコピーするのに必要な分、です」

「……え?」

「あー、岩槻サン、こっちも軽くですが纏めましたよー」

 旦がヒラヒラとメモを揺らしながら言う。

 そのメモには事細かに分かりやすく纏められている。

 一回聞いただけで、こんなに簡単に纏められるものなのか。


 岩槻は、人外とも言えるこの存在は、驚いた。しかも今日一日で二度も。

 万能過ぎるのだ、この世界の鬼眼者たちが。もしかしたら彼らに限ってのことなのかもしれないのだけれど。

 岩槻琥珀(こはく)は感情が高ぶってきそうになるのを押さえていた。

 とある理由で『曰く付き』の話を探す存在にとっては、それも極上の話を探す化物にとっては、もしかしたらこれが極上の話なのではないかと思わせた。


 化物の拒絶すら越える男、暗記能力に優れている少年に、短時間で多大な量の情報を収集できる少女。並はずれた、人間。

 人間もまだまだ分からないことが多く、飽きることの無い面白い存在だと。


 彼とも彼女とも言えないこの存在は、ひっそりと微笑んだ。

更新しました。前フリが長いことになっていると後悔しています。正直に言うとトリックが浮かんでないだけです、ええ。……トリックも何もないことにするかもしれませんが……。どうなるかは今後の展開もとい水夜のインスピ次第です。

来ないですかね……

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