ワざわい始まり《は終り》
市立空峰高校。
この高校は、いや、この世界には二種類の人間が存在していた。
何の変哲も無いただの人と、一部、人とは異なる“眼”を持った人。
魔物の眼とも、鬼の眼とも言われるそれは『鬼眼』、もしくは『奇眼』と呼ばれる。
そんな彼らは見た目は普通の人間と変わらない。
“目”と“眼”の違いと言うだけで、他は何も変わらない。
しかし、彼らを悪魔や化物だと言って差別的に見る者もいる。
正直な所、この世界では『鬼眼者』はその眼から、大げさな話、あらゆることを見逃さないとされている。それ故、警察や報道機関などの職業は彼らを尊重し、優先的に自分たちの仕事に入れようとしている。
つまり、人によっては『人類の先を行く者』と言い、『国を動かす為の道具』と言う。
先日は彼らに対し、総理大臣が暴言を吐いたと言われている。
さて、鬼眼についてはこれくらいにして、話を空峰高校に移そう。
この高校は一見、何のへんてつもない高校。この地域ではそれなりの学力で入ることができ、評判も上々。何かの大会では中の上くらいの成績を修めている。
ここまでは他の高校と変わらない。
変わるのは、鬼眼者とただの人間との割合。
鬼眼者はまだ世界にあまりいない。
なので普通の高校であれば、学校生徒の鬼眼者は1:9の1にあたるくらいである。
しかし、この高校は、6:4の割合で、“鬼眼者が普通の人間より多い”のである。
どうしてなのか、定かでは無い。
学園側が何かをしていると言うことは確かなのだが。
とにかく、鬼眼者が多いせいか、この高校の特有の部活があった。
『鬼眼倶楽部』
条件は、鬼眼者であり、何が起こってもあまり動揺することがない者。そして、入部試験に合格した者。
試験内容は謎に包まれている。
そんな試験に合格し、この部に入っているのは、たったの二名。顧問のことを考えれば、三名。
条件なので当然とも言えるが、彼らは鬼眼者である。
それぞれが、それぞれの能力を持つ。
彼らの活動は表向きは『便利屋』である。
そう、あくまで“表向き”だ。
裏の顔は、また後ほど。
それでは、再び話を変えよう。
今度はこの部員と顧問について。
篠宮菜々。空峰高校二年。性別は女。性格は明るい方ではなく、むしろ暗い。相手が親しいか親しくないかによっての温度差が激しい。世界に対して絶望している。
次に、渡旦。渡と言う苗字のせいか、旦の字を『わたる』と誤読されがちである。篠宮菜々と幼なじみにして、同じく二学年。性別は男。菜々と性格が真逆で明るい。空気をわざと読まない。
そして、顧問の華山孝浩。数学担当の教師。性別は男。『俺様至上主義』を正義だとして言っているが、背が低く童顔な為、悪ふざけをする子供のように見られることを気にしている。
この三人が居てこそ、この便利屋、鬼眼倶楽部が成り立っている。
ちなみに部活として活動する以上、部長が必要なのだが、活動と同じく表向きとして渡がやっているだけである。
顧問もまた然りだが、華山が俺様な性格上、裏表関係なく顧問もとい『真の部長』を自称している。教師が部長を名乗れる訳がなく、あくまで自称だ。
これより、この者たちをとりまく物語が始まる。
――鬼眼倶楽部部室。
「……旦、いる?」
少女の声。どうやら部員の1人、菜々のようだ。
「先に行ってるって言ってたのに」
彼女は1人ごちて部室の奥に進む。
「どーーーーんっ!」
「……!」
背中に強い衝撃が来てバランスを崩しそうになる。
振り向くと少年が立っていた。彼が旦だろう。
「あははー♪吃驚した?扉の後ろに隠れてたんだー」
悪びれた様子など全く見せずに彼は言う。
「驚いた。……けど、相変わらずだね」
「菜々も相変わらず驚いたとは思えない落ち着いた反応だな」
これでも内心は驚いている、と彼女は言葉を返す。
それに対して、そっか、と笑う。
普通の会話。平穏かつ狂乱なことなど全くない会話。穏やかな会話が二人の間で続いていく。
そんな雰囲気をぶち壊す声が部屋中に突如響いた。
「お前ら、いちゃついてんじゃねぇ」
「あ、華山先生。それといちゃついてません」
「あ、孝ちゃん。いちゃついてすみませーん」
二人とも声の主である顧問の華山孝浩に応じる。
「篠宮、どうみてもいちゃついてるようにしか見えねぇよ。気を付けろ。渡、孝ちゃん呼びはやめろ。俺様とあろう者が余計に生徒になめられるだろうが」
「いやいや、なめられるのは身長のせいっすよー。はい、牛乳」
「わーい、ありがとー☆……なんて言うと思ったかぁっ!牛乳はとっくの昔に試したわっ!」
二人は、試したのか、とは思ったが口には出さなかった。
「それより、今日は何か活動あるんですか?」
「ああ。それも“表”じゃない。“裏”だ」
「久しぶりっすねー。最近は学園の猫が逃げただの、落とし物を探してだの、平凡なものばっかだったし」
何故か背伸びをして軽く体を動かしながら言う。
「久々に本気、出していいんすよね?」
「本気を出してもらわねぇと困るんだよ」
それだけ、彼らの裏の仕事は大変なのだ。内容は“警察がらみ”の事件であるから尚更。
「今回はどんな内容なんですか?」
「窃盗事件とか、暴力沙汰とか?」
今まで裏としてやってきた例である。警察がらみと言っても、やってきたのはそこまで深刻ではない事件だった。
「どーも依頼は殺人事件らしい……しかも学園内での出来事だ」
それをあまりにも普通に言うせいで重要そうに聞こえない。明らかに重要な内容であるにも関わらず。
「でも学園内で殺人なんてことになったら俺たちは朝礼かなんかで言われてもおかしくないんじゃ……?」
「何でも被害者が理事長様の娘だとよ。大事にはしたくないから密かに調べて犯人を見つけて欲しいそうだ」
「何ですかその私的な理由。あれ、そういえば理事長の娘って生徒会の役員をやってませんでした?その理事長の子供という名声と権力で『影の生徒会長』と呼ばれてるって聞いたことがあります」
「よく知ってるな、それ」
まあ……、と言葉を濁しつつ菜々は少し俯く。静かにしていれば噂話が聞こえてくるし、“一人”で居たならば聞きたくない言葉でさえも尚更聞こえる。詳しいことは聞かれたくないというのが菜々の本心だった。
「ま、とにかく詳しいことは同じく隠密に動いてくれる警官が来たら、だな。部室の場所も言ってあるし暫くしたら来るだろ」
孝浩はふかふかしていそうなソファに堂々と座り、偉そうにふんぞり返った。菜々も旦もそれに相対して置いてあるソファに座った。
少しして“それ”はやって来た。
「失礼します。私は今回の事件で皆様をサポートするよう言われてきました。岩槻と申します。よろしくお願いします」
セリフ多いですね…正直な所もう少しナレーション部分を増やしたかったです。
途中まで琥珀の語り部でいこうとしたら話の切り替えがうまく出来なかったのでやめました。なのでどこか編集し忘れで変なところあるかもしれません。
ちなみにサブタイトルのアレは、禍始まり(わざわいはじまり)と禍は終り(わざわいはしまり)と言うことです。何か無理がある気がしなくも無いですが、今後も似たようなことができたらやっていきます。
どうか心広く、物語を読んでほしいです。
それでは、これより曰く付きを、始めます。