9話 計画
真
俺はふもとっぱれのライブカメラを自宅のpcで見ながら言った。
晴はきっとこう思っているはずだ。
「今日はなんだか人に見られている気がする。多分初めてのソロキャンプだから自意識過剰になってるんだ」と。
フッフッフ。
「計画通り!」
事の発端は一ヶ月ほど前に妻雪乃が言った何気ない一言だった。
「晴ってさ、決断力ないよね。最終決断を他人任せにする事多くない?」
「昨日のアイスジャンケンの事?」
俺は質問を質問で返した。
昨日俺がコンビニで適当にアイスを4つ買った。
ジャンケンで買った人が好きなのを選べるのだが、晴子は勝ったのに
「残り物でいいや」
と言ったのだ。
「まぁ、昨日に限らず、かな。どっでもいいよ。が多い気がする」
「それはあるかもなぁ。行動力とか諸々、高校生にしてはある方だと思うけど。言われてみれば副部長っぽいな。」
「実際副部長だったしね。」
妻は顔をほころばせ笑う。
機嫌は良さそうだ。
「いつも頼れる父親が居るからなぁ。」
「んー言い方は納得行かないけど、それもあるかもね。」
雪乃は冷たい目で俺を見ながら言った。余計な一言だったかもしれない。
「すぐ周りに頼れるのはいい事かもしれないけど。そういえば、最近あの子ソロキャンプしたいって言ってる?」
「最近は聞かないなぁ、バイクで旅したい。的なのはよく言ってるけど。」
「それそれ。私にも言ってた。1人で旅とかキャンプとかするようになったら、困るんじゃない?自分で決断するのが、苦手だと。」
なるほど。そういう心配か。
分からないでもないかな。
でも、性格的な問題な気がするし、すぐに変化は期待できないだろう。
でも一つ提案してみる。
「じゃあ、そろそろソロキャンプ許可してみようか。知識も技術とかもまぁ、全然平気だと思うし。安全面だけしっかり出来れば。」
雪乃さんは微妙な面持ちだ。
「まぁ、数回ソロキャンプしたくらいで何も変わらんと思うけどね。自信にはなるでしょ。
多分ちゃんと準備も下調べも出来るから、トラブルなんてそうそう起こらないしね。」
「私としては反対はしないわ。」
んじゃ、それで。
と言うことで、我が家の愛娘は初のソロキャンプをしている。
何が「計画通り」なのかって言うと、この状況。
ライブカメラに映る場所を平日キャンプよくする友人に確保してもらい、今日あのカブが入場するタイミングで移動してもらった。
更に、晴子の後ろのファミリーキャンパー。彼らも知り合い。あのファミリーキャンパーの旦那さんユウジは結婚前の雪乃さんの元部下だ。雪乃さんとはほぼ連絡を取り合ってないと思うが、俺は趣味が会うのでよく連絡を取り合っていた。
娘が初めてのソロキャンプを…と話したらノリノリで手伝ってくれる事になった。
これ以上セーフティな状況下でのソロキャンプも、中々無いだろう。
晴は既に設営を終え、椅子に座ってお昼寝の真っ最中だ。
ライブカメラの映像では小さすぎてハッキリ何をしているのかは分からないが微動だにしないので寝ているのだろう。
PCの画面でライブカメラを移したままにしていると息子の剛が部活から帰ってきた。
ドタドタと玄関に荷物を置き、ただいまーと言いながら、リビングに入ってくる。
PCの画面を除き
「あー晴、今日ソロキャンプか。新しいテントってこの白いの?」
「そうそう。スノーピークのやつね。」
剛は苦笑いで言う。
「これ寝てるの?危機感ないなぁ晴。」
「まあ、この画角じゃハッキリとはわからないな」
冷蔵庫から麦茶を出してコッブに注ぎながら剛が言った。
「YouTube拡大出来るよ?」
え?
「あぁ、PCだと無理なのかな。スマホやタブレットなら。ちょっとまってて」
ドタドタの2階の自分の部屋あに走っていく。騒がしい奴だ。
更にドタドタと戻ってきてタブレットを俺に手渡す。
YouTubeを開いて、ふもとっぱれのライブカメラを見る。
剛が指二本で拡大する。
「寝てるね。ホント女子高生として大丈夫かな?」
弟なりに心配しているらしい。
「あれ?このテント。父さん持ってなかった?」
晴の右側のテントを剛が指さす。
「あーエリクサーか。知り合いにあげちゃった。」
食器を洗っている雪乃さんの目が少し鋭くなった気がするが、気にしない事にする。
「あれ???これリアムさんじゃない?テントあげたのリアムさん?」
画面の中では見覚えのある白赤のテントの前で背の高い大きなヘッドホンを付けた男が望遠鏡を設置している。
「え?あぁ、うん。リアにあげた。え?これリア?え?アイツめっちゃ痩せた?」
見れば見るほど別人に見えるが、見覚えのあるテント、望遠鏡、ギア、まず間違いないだろう。
リアムは晴の2個上だから今20歳の青年だ。隣の学校に通っていた。彼とは色んな縁があって何度かキャンプのやり方を教え、テントや望遠鏡をプレゼントした。もう1年以上会ってないが、時々連絡はきていた。
まさか偶然?
食器を洗っている雪乃さんを見るが知らぬ顔だ。
「電話しちゃえば?」
剛が言う。
俺はリアのLINEを開きビデオ通話を押す。
これは全然計画通りでは無かった。