7話 油断
晴子
気が付いたらアニメは数話進んでいた。
椅子に持たれてうたた寝をしてしまっていた。
多分上を向いて口をポカンと開けた女子高生としてはあるまじき状態だった気がする。
周辺を見渡すと右側の赤と白のテントの前にに男性が座ってノートパソコンを弄っている。
さっきのイケメン男性だ。
まさかのお隣様である。
キャンプでは時々トナラー問題が発生するが、コレも一種の問題だ。
完全に油断していた。
油断しすぎだろ。私。
まぁ、イケメンだからと言って、私に何かある訳じゃないし、関係ないか。と、さっきと同じ結論に至る。
とはいえ、気になってしまうのは年頃のせいなのか。横目で見てみる。
ホントに顔が小さくて鼻が高い。
車もバイクも自転車もない、おそらく徒歩キャンパーだろう。
リュックのみや、リュックとトランクケースやキャリー程度の荷物でキャンプをする事をULキャンプと言うらしい。キャンプ用品で軽い商品はチタン製品であったりと、値段が高くなりがちだ。車やバイクよりも敷居が高いかもしれない。
彼はスマホをテーブルに取り付けたスマホホルダーに固定してヘッドフォンを付けたまま、ノートパソコンをずっと弄っている。
切り替えて散歩と買い物に行く事にする。薪を買い忘れていた。
広葉樹と針葉樹一束づつ購入する。
テントに戻って薪割りをする。
夜や朝方に薪割りをすると迷惑なので、多めに割っておく。
焚き火台のケースの中に入れていた平な板の上で薪を縦に置き、ナイフを当てる。
ナイフの先端を他の薪で叩いて割っていく。上手くパキっと割れると気持ちがいい。
今回は割り箸位細く割るだけでフェザースティックは無しにしておく。
薪割りを楽しんでいると大きなバイクが低音を響かせながら目の前に入ってきた。
多分ハーレーだと思う。
荷台に私より大量の荷物を積んでいる。
周辺を確認して、私の目の前になると思ったのだろう。
そのまま私の左側で停車した。
中肉中背の女性ライダーがバイクから降りて、軽く会釈をしてくれた。
中年女性の様だが、とてもカッコイイと思った。シンプルな黒い革ジャンに身を包み、バイクがよく似合っている。
私も会釈を返す。
ニコッと素敵な笑顔を見せてくれた。バイク仲間と認識してくれたのかもしれない。
勝手に仲間意識のような物が芽生えた気がする。
自意識過剰すぎるのかな。
バイクの女性はとてもテキパキとテントを設営した。
テンマクデザインのサーカスTCDX。
私でも知ってる程の名作テントだ。
同じバイクでのキャンプなのに私のテントが小さく思えてくる。
私のテントの方が可愛いけど。
4時を過ぎて気温も少し下がってきた。そろそろ焚き火をはじめようと思う。
このキャンプ場は直火が禁止なので、焚き火台を使用して焚き火をする。
防炎シートの上で焚き火台を組み立てる。焚き火台は東京クラフトのマクライトだ。
父はこの焚き火台を購入した時、これ設計した人天才だな。と唸っていた。収納サイズはコンパクトなのに長い薪も使いやすい、良い焚き火台だと思う。
割り箸位細く割った薪を焚き火台の上でピラミッド型を組む。
キャンパー御用達、極太マッチに着火してピラミッド型に組んだ薪の隙間に差し込む。
このマッチは1本で10分近く燃えてくれる。とんでもない商品だ。
数分間かけて少しづつ薪に燃え移ってゆき、それなりの炎になったら少し太い薪を足していく。
ある程度炎が安定したら針葉樹を買ったままのサイズで投入する。そのあと広葉樹だ。
上手く焚き火を開始出来た。
何だか今日は凄く人の視線を感じる気がしてキョロキョロしてしまう。
隣のイケメンお兄さんのテーブルに固定されているスマホがこちらに向いている気がするが、気のせいだろう。
やっぱり初めてのソロキャンプで少し自意識過剰になっているのかもしれない。
煙が風で自分の方に向かってきたので、少し座る位置を変える。そういえば風よけ用の陣幕を持ってきたな。と思い出し、シートバックから陣幕を取り出しペグを打って設置する。
これで多少風の影響を防げるはずだ。
ふもとっぱれキャンプ場では当然ほとんどの人が富士山に向かって焚き火をするのだが、正に富士山方面からの強風が多く、自分に煙が向かって来やすい。富士山に対して横向きに焚き火をする人もいる程だ。
焚き火の炎が静かに揺れる中、空も富士山も少しづつ茜色に染っていく。
遠くで子供たちのはしゃぐ声や薪を割る音が聞こえてくる。
そうだ。
アニメの影響で中学生の時夢見ていた状況が正に今この状況だ。
数年前の夢というか目標を今正に叶えている。
中々やるな!私。
この調子で大学もサクッと受かりたい。
そしてその後の数ヶ月に遊びまくりたいと強く思った。