13話 朝チュンコーヒー
晴子
テントのジッパーをゆっくり開けると、正面いっぱいに富士山が現れた。
夜明け前の空を背に、雪化粧の頂きが静かに光っている。
思わず、ため息が漏れる。
「……これだから、キャンプはやめられないんだよね」
冷たい空気とともに、胸の奥まで澄んでいく気がした。
まだ太陽が出てくるまでは時間があるだろう。
山があるので日の出時刻に太陽は出てこない。
この少しずつ空の色が変わりながら明るくなって行く雰囲気と澄んだ空気がとても好きだ。
私は富士山に向かって座る。
焚き火をはじめて、暖を取る。バーナーでお湯を沸かしドリップコーヒーを入れる。
コーヒーの香りが辺りに広がる。ブラックでも飲めない事は無いが、ミルクと砂糖を入れる。あちこちで鳥の鳴き声が聞こえる。
ふとLINEの通知音が鳴った。
マナーモードにし忘れていた。
慌ててマナーモードにする。
LINEを開いて見ると葵からだった。
「おはよぉ。これ晴?」
ライブカメラをスクリーショットした写真の私に丸をつけてある。送られてきた写真に花丸を付けて返信する。
「朝チュンコーヒーですか?」
「葵早起きだね。合ってるけど。多分それ意味違う」
「そーなのかな?鳥さんもいるの?」
私はスマホをだいぶ明るくなった富士山に向け動画を撮影する。都合よく小鳥の声が数種類入ったのでそのままLINEで送る。
「いい雰囲気だねぇ〜。静かで。」
「うん。かなり良い。」
気がつけば両お隣様、周辺のキャンパーも起きてきて、富士山を眺めている。
イケメンお隣様と目が合ったのでお互い軽く会釈する。
朝から色々と眼福である。
知らない人達も起きている人ほぼ全員が同じ方向を見ている。
そこに少しだけ連帯感のような物を感じるのは気のせいだろうか。
空が明るくなっていくのを体感しながら朝食を作る。
スキレットにオリーブオイルを入れお卵様を割入れる。
ソーセージを2本いれて塩コショウ。
蓋をして弱火で焼く。
焚き火台の上に百均の小さな網を置いて食パンを焼く。
程よく焼けたら食パンを2つ折りにしてそこに目玉焼きとソーセージをいれて、小袋のケチャップをかける。
シンプルだけど間違いない朝ごはんだ。
こぼさないようにメスティンの蓋をお皿にして食べる。
少し焦げたパンにソーセージのパリッとした食感がたまらない。
今回の料理は基本的に家にあったもので全部済ませた。
買ったのはコンビニチキン位だ。
食べ終わった頃にナナさんがやってきた。
「おはようございます。晴ちゃん。今日は何時頃出る予定?時間あるならお昼一緒にどう?」
少し迷ったけど、もう少しバイク旅について聞きたいと思っていた所だ。
「富士宮焼きそばを焼いてくれるお店があるんだけど、一人だと入りづらくて。一緒に行ってくれると嬉しいな。」
モチロン快諾した。プロが焼いてくれる焼きそばに興味津々だ。
空の色はだいぶ変わってきていた。群青から淡いオレンジへ、そしてその境界がじわじわと押し広げられていく。富士山の稜線がゆっくりと金色に縁取られはじめる。
ほんのわずかに、木々の隙間から朝日が顔を出す。強くも優しいその光が、草原を、テントを、そして私たちの顔をゆっくりと照らしていく。
焚き火の火が、朝日に溶けるようにゆらめく。
何度来ても本当に見飽きない。
今回はずっと富士山が見れてラッキーだ。早朝でなければ拍手でもしたくなる所だ。
それからまた椅子でちょっとうたた寝をしたり、数時間を過ごした。
ライブカメラ越しに葵に手を振って、意外にタイムラグが数分あって面白かった。
慌てる必要なもないので、ゆっくりと片付けをして、しっかりと忘れ物やゴミが落ちていないかチェックした。
結局お隣のイケメンとは一言も会話をしなかった。彼は後ろのファミリーの男性ととても仲良くなったようで、もしかしたら元々知り合いだったのかもしれないけど、恥ずかしそうに、でもとても楽しそうにヘッドホンを外して長話をしていた。
何故かまたどこかで会えるよな気がしていた。
それから10時過ぎにナナさんと一緒にキャンプ場を後にした。




