12話 不安
晴子
ナナさんが「また明日ね」そう言ってテントに戻ったあと、私は一人食器をまとめてキャンプ場の中央にある洗い場へ向かった。
食器を洗った後、ポーチから使い捨ての歯ブラシを出す。
旅行用の歯ブラシセットより使い捨ての方が衛生的に思えるので、最近は100均で6本セットの歯ブラシを使っている。
歯ブラシをくわえたまま、横を見ると数100のテントが街のようにランタンの灯りに彩られている。その奥には富士山が全てを見守るように圧倒的な存在感を発している。
夜になって肌寒くなってきたが、風も少なく周りは静かだ。
たまに焚き火の爆ぜる音や子供の声が聞こえてくる。
土曜日の満員なふもとっぱれでも夜になると本当に静かになる。今日は騒がしいパリピや非常識なキャンパーは少ないようだ。私の初ソロキャンプは本当に幸運に恵まれている。
今までふもとっぱれには何回も来ているけど、ここまで天候や環境に恵まれる事は少ない気がする。
もう数時間すれぱランタンの灯りもほとんど消え、辺りは真っ暗になるだろう。
私は星の知識が無いので分からないが、天体望遠鏡を持ってるイケメンお隣様はこれからが本番なのかもしれない。
でも私は明日の日の出を見るため早めに眠るつもりだ。
口の中をすすぎ忘れ物をしていないか確認してテントに戻る。
残りの薪は朝少しだけ焚き火をするように取っておく。
風で飛ばされそうな物を全てテントの前室に押し込み、テントの中に入る。
小さなお客様、小さな蜘蛛がインナーテントの中に入ってきていたのて手でつまんで退出していただいた。
父は小さな虫取り網を車に常備しているが、私はほとんどの虫に触れるようになった。
だけどGだけはほんとに無理だ。絶対無理。
とはいえ、寝てる時に虫がいるのは嫌なので、なるべくインナーがあるテントを使用することにしている。
コットの上のシュラフに体を滑り込ませる。
ナンガのシュラフが、ふわふわで暖かい。
バイクのサイドバックに普段から入れてあるカッパを枕にして横になる。
SNSやLINEをチェックして、必要な物は返答する。
葵から
「ふもとっぱれってライブカメラあるんだね。明日の朝写ってみてよ。」
と、来ていたので
OKとスタンプで返す。
「私は日の出見るつもりだから起きたらLINEして。」
と返答した。ランタンを消し、スマホと枕元すぐ手に取れるところに置いておく。
シュラフに入るとトイレに行きたくなるのは何故だろう?と思いつつ目を瞑る。
周りの足音や話し声が凄く近くに聞こえる。
この現象は一体なんなんだろうと、いつも思うのだが、何だか落ち着かない。もう少し通路から離れた場所にテントを張るべきだったかもしれない。
遠くからの足音がこちらに向かっているようで気になってしまう。普段あまり気にする事は無く眠りにつく事が出来るのに。
まさか一人なので不安なのだろうか。テントの外でずっと小さな話し声が聞こえる。
ユキやマコトさんなんて単語が聞こえる気すらする。
これはマズイな…
間違いない。私完全に一人で寝ることに不安になっている。
自分に限ってそんな事は無いと思っていた。
一旦気分を帰るためトイレに行くことにする。
コットから出てランタンを手に持ってトイレに向かう。
イケメンお隣様と後ろのファミリーの男性が望遠鏡を覗きながら話をしているのを横目に眺めながらトイレに向かった。
周囲のテントからはランタンの灯りも減り、辺りは暗くなっていた。冷たい風が頬を撫でる。
周りには数100人のキャンパーが居るはずだが、一人である事を実感する。
空を見上げると
「わぁ」
思わず声が出てしまうほど星が綺麗だった。
テントに戻り上着を脱ぐ際に、ポケットに何か入っていることに気付いた。
手を入れて取り出すと、小さな新品のプラケースが出てきた。
出かけに父が渡してきた百均の耳栓だった。
「はぁ、こうゆう見透かした様な所がイラッとするんだよなぁ。」小声で文句を言いながらも装着する。
周りの物音が全く聞こえなくなるのも怖いし、目覚ましがきこえなくなってしまうと迷惑なので片耳だけにする。
対策をした。そういう意識があるせいか、それとも本当に耳栓のお陰か、随分とリラックスして眠る事が出来た。




