表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

プロローグ 灰の中の紅蓮

世界は、静かに灰へと沈んでいく。

 遥か昔、天上の神々がこの地に降り立ち、人間に「灰印かいいん」を刻んだ。

 それは祝福であり、呪いでもあった。

 灰印を持つ者は、この世の理を超えた存在ーー「契約生物ファムリア」と契約エンゲージし、その力を振るうことができた。

 だが同時に、彼らは「戒律カテドラ」に縛られ、それを違えれば魂ごと灰に還る運命を背負わされた。

 エシュロン大陸。

 かつて豊かな緑と青空に恵まれていたこの地は、今や灰色の雲と、褪せた大地に覆われている。

 戦火は百年を超え、灰印を巡る争いは終わる気配を見せない。

 人々は祈り、嘆き、そしてまた新たな罪を積み重ねていく。

 その夜も、灰色の雨が降っていた。

 村の小さな教会の鐘楼に、一人の「騎士」が立っていた。

 銀色の鎧に、煤けたマント。

 肩にかかるほどの黒髪は雨に濡れ、夜の闇に溶け込んでいる。

 引き締まった体躯と、鋭いまなざし。

 その瞳は、夜の闇よりも深い赤――

 名を知る者はほとんどいない。ただ、「灰の騎士」とだけ呼ばれていた。

 その身に刻まれているのは、かつて神々が遺した「熾天使の瞳」の灰印。

 そして、傍らに佇むのは、幼い少女の姿をしたセラフィム――アズラエル。

 透き通るような白い肌に、淡い銀色の髪。

 背中から広がる純白の羽根は、夜の雨をはじいて淡く輝いている。

 その瞳は、人間離れした静謐な光を宿していた。

「……行くの?」

 アズラエルが静かに問いかける。

 騎士は小さく頷き、手にした剣を見つめる。

 それは、月光を浴びて淡く輝く聖剣――ディヴァイン。

「終わらせなければ……」

 誰にともなく呟いた言葉は、灰色の雨に溶けて消える。

 右手の指先から静かに灰色が広がりつつあった。

 それは、過去の罪の証。

 かつて守ろうとした村を、焼き払ったあの日――

 その記憶は、今も心を苛み続けている。

「セレス、進もう。君の手でこの時代に終止符を打つんだ。」

 アズラエルの声は、どこか遠い。

 騎士――セレスは剣を鞘に収め、鐘楼から夜の村を見下ろす。

 歩む先には、追跡者たちの影が忍び寄っている。

 聖都の灰の審問官グレイ・インクィジター、灰喰いのレオンハルト。

 そして、正体を知らぬまま、運命に導かれる者たち。

 赦しを求めて、セレスは歩き出す。

 灰に覆われた大地の上を、紅蓮の焔のような意志を胸に秘めて――

 やがて、世界を揺るがす「贖罪」の物語が、静かに幕を開ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ