表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
8/23

視界と感覚

紗那はしばしの間、その突きつけられた指を見つめていた。


「………え?」


「反応おっそい! 君さぁ、状況を理解してくれない?」


内心ムッときたが、怒鳴り散らす訳にもいかないので、黙る。


「お前が話さないかぎり状況が分からんわ」

隣にいた忠刻が気持ちを代弁してくれた。兄に睨まれ、政朝はしぶしぶ話し始める。


「も~皆読解力ないな~」

一番ないのはお前だバカタレと心の中でつっこむ。


「んとね、今僕の住んでいる方でなんかまあ、色々あってさぁ~こうバサバサと…」

身振りも交えて説明するが、全く解釈不明である。

今にも刀を抜きそうな勢いの忠刻を隣で精いっぱいなだめた。


「とにかく、こっちにその子を寄こしてくんない? 半日だけ」

説得力ゼロの政朝に言われ、はいそうですかなどと言う訳がない。


「理由を言え!」

「え~面倒くさい~」


紗那は兄弟二人のやり取りをハラハラしながら見守る。このコンビ、心臓に悪いぞ!


「場合によってはねぇ…」

見つめられて背筋に悪寒が走った。さっきまでのヘラヘラした風貌は消え去り、その眼差しは凍てつくほどに冷たい。思わず後ずさる自分のその行為を、政朝は見逃すわけがなかった。


「力ずくでも連れていく!」

足をさらわれ、重心が思わず傾く。視界がぶれ、ピントがあった時はもう政朝の腕の中。


「ちょっ…放して!」

「ダーメ。 君がいないと話にならないんだから」


そう言うと、窓に手をかける。木がピシピシと音を立てた。


「紗那!」

忠刻の両手は、むなしく空をきる。その様子を見て笑みを浮かべた。


「この子、紗那ちゃんていうんだ、ちょっと借りてくよ!」


政朝の足が、窓枠から離れた。髪が後ろに靡き、風が耳元で鳴る。見えるのは青い空。


「ヒッ…」


叫び声を上げようとした刹那、激しい衝撃とともに地に降り立つ。立っているのもままならず、身体がふらついた。


「ごめんごめん、ちょっと荒っぽかったな」

政朝が倒れそうな体を支えてくれる。そこでようやく視界がハッキリとした。


ここは、天守の裏側だ。見上げると、たった一つ窓が開いている。あそこから飛び降りたのだと確信した。

それにしても、かなり高い。ゆうに十メートルはあるだろう。政朝、またしても恐るべし。


「…さて」

突然石垣に生える茂みを探り始めた。紗那が不審に思い覗きこむと、そこには一体の馬が。


「あああんた、こんな所に馬を!?」

驚く紗那を無視して繋いであった紐をほどく。ようやく馬の全身があらわになった。

この馬、大きい。紗那のゆうに二倍はあるだろう。色は黒で、所々茶色が混じっている。


「よしよし、いい子だ」

ペロペロと政朝をなめる。優しい瞳だ。どうやら、飼い慣らしているらしい。


しかし、政朝の表情は役人達の走ってくる足音で一変した。すぐさま慣れた手つきで馬に飛び乗る。


「乗れ!」

「え、でも…」

「早く!」


戸惑っていると、役人が背後に忍び寄り腕を掴む。紗那は反射的に足を上げ、相手の腹に叩き込んだ。

「グッ…」


馬の上から舌打ちが聞こえたのと同時に、手を掴まれ上にひっぱられる。気がついた時は政朝の隣。


「行け!」

手綱を引くと、馬が鳴き声を上げ疾走する。傍にいた役人が慌てて散りはじめた。

またしても頭がグラグラする。風が頬をくすぐっては逃げていき、景色が流れる。

馬に乗ったのは北海道旅行に行った時だけだ。しかももっとスピードは遅かった。


「ふぅ~あっぶなかった~」

自分の今の状況の方が危ないわ、とつっこむ。馬は早くも城の出口付近だ。

果てしない不安と目まいを抑え、背筋を伸ばし、力をぬく。こうした方がバランスが取りやすいのだ。


そしてだいぶその感覚と速さに慣れてきた時、前に座っている政朝に動きがあった。

「あっちゃぁ~来ちゃったよ、お役人さん…」


そう言いつつ額を抑える。言葉につられて首を伸ばし前を見ると、何人かの役人が道をふさいでいる。


「しょうがないなぁ~しっかり掴まっててよ?」

内心、すごくやな予感がしたが、いわれるままに政朝の腰を掴む。

それにしても、この時代の人達は本当に鍛え抜かれた体をしている。政朝も無駄な肉がない。


「どけぇ!」


ふいに、怒声混じりの叫び声がした。とっさに目をつぶると体が回転する。


(たーすーけーてー!!)


目元が涙で濡れる。その感覚は数秒続き、目を開けた時はもう城の外。

顔を上げると政朝がにんまりと笑みを浮かべている。


「強行突破、成功。なーんちゃって☆」

「前向いて前――――!!」


紗那の悲鳴は城外の森に響き渡った。

何かすごいですね、この話…

もう完全に別ものですね、ハイ。


政朝、大活躍!それに対し、奈阿姫や三木之助は…

いつか活躍できることを願います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ