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白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
7/23

忠刻と政朝

城の中の一つの廊下。

そこは日が照ることはなく、一日中薄暗い。

そんな空気のせいか、近づく者はいつしかいなくなった。


だが、今日、その廊下にヒタヒタと乾いた足音が響いている。

音の主は、突き当たりにある、使われていない部屋の黄ばんだ障子に手をかけた。


部屋を開けると、ほこりが舞う。つんとした臭いが辺りに漂った。

しかし、それにも構わず、山積みにされた巻物の中から迷うことなく一つを引き抜く。


床に座り込むと、巻物を開いた。乾いた笑い声が暗い室内に響く。


「さあ…動け…力を…力を、我が元へ…!」




        ・・・…☆…・・・




時は神社からの帰り道。いつしか朝は過ぎ去り、昼になろうとしていた。


太陽からの直射日光に眩しさを覚えながらも、忠刻の後を追う。


昔の人は足が速い。歩くのも早歩き同然だ。紗那はさっきから小走りで急いでいた。

城まで続く、白い砂利を踏みしめながら口を開く。


「ねぇ、忠刻様…」

「何だ?」

こちらを振り向く。あいかわらずの美男だが、太陽のため今日は特に眩しい。


「さっきの神社って、誰かが管理しているの?」


紗那の先祖が建てた神社は、寂れているのに綺麗な一輪の花が供えてあった。

それに掃除も最低限は行き届いていた。誰かが管理をしている証拠だ。


「あの神社は私が幼少の時から管理している」

「え、ええっ!? 幼少の時って、忠刻様いくつ!?」

指を折りながら数えていく忠刻を食い入るように見つめた。その顔は明らかに自分と同年代ぐらいだろう。

普通に引き算しろよ、とつっこみたくなったが口に出せる訳がない。そして指の動きが停止した。


「二十三」

「はぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


意味不明の声を上げ、思わず口を押さえる。

てっきり十代かと思いこんでいた。それがまさかの二十代だったとは、若すぎる。忠刻恐るべし。


「若すぎでしょ!? どう見たってお子様のくせに! レストランでお子様ランチ食べているくせに!」

もはやただの負け惜しみである。内容が解釈不明だが。忠刻はあえてそこは無視した。


「でも私より、あいつの方が若く見えるぞ」

「え? あいつって誰――」


続きは、「忠刻様ー!」という三木之助の声に遮られた。

遠くから息を切らして走ってきたようだ。肩で息をしている。


「どうした? 三木之助」

落ち着いた様子で忠刻に問われると、かなり慌てた様子で言葉を紡ぎ始めた。


「そ、それがっ政朝まさとも様がおいでに…!」


本多政朝――忠刻と三つ違いの弟だ。忠刻の死後、姫路の藩主となった。


「とりあえず城へ…っ!」


三木之助の言われるまま、紗那達は急ぎ足で昼の森を駆けた。







「…………」


三木之助に席を外してもらい、客間の障子を開けて飛び込んで来た光景は、予想外のものだった。


「あれー兄上ー?」


呑気に足を投げ出して座る人物こそ、本多政朝。その顔は、兄に似て美男だ。

だが、彼の着物は、なぜかボロボロで所々破れている。模様に描かれているかささぎも悲しいほど汚れていた。

下は紺色の袴だが、こちらも同じく泥だらけだ。

そしてなぜか、部屋にある花瓶でお手玉をしている。


紗那は、隣から激しい『怒りのオーラ』を感じ取った。忠刻が政朝に掴みかかる。


「おまえ…何をしている」

凄まじい勢いにひるむことなく、政朝は手の中で花瓶をもてあそぶ。

「何って…お手玉ですよ、あ」


最後の『あ』という言葉と同時に手が花瓶から離れる。中を舞う花瓶。


「危な――い!」


紗那が手を伸ばした刹那、光が花瓶を包む。池に落ちた時と同じだ。


花瓶は光に包まれたまま空中を浮遊し、紗那の手に収まった。


たった数秒の出来事だった。だが、『力』に慣れていない政朝はただ驚きの眼差しで紗那を見つめる。

そしてしばらくの沈黙ののち、紗那を頭からつま先までまじまじと観察した。


「…この子、千姫じゃないよね」


ああやってもうた――二人は心の中で絶叫する。


「何か、事情があるんでしょ?」

いやらしい笑みは、兄そっくりだ。忠刻はごまかしきれないということを悟ったのか、事情説明にかかる。


「…と、いうわけでなぁ…」


たっぷり十五分間、物分かりの悪い政朝に説明し、疲れ切ったようだ。


この兄弟、性格はだいぶ異なる。


「ふ~ん、この子があの僧侶のねぇ~…」

それに対し、政朝は元気だ。紗那の手から再び花瓶を奪おうとする。


「ちょっ…ダメよ! またおっことしたりするでしょ!」

「いや、使えるかな~と思って」

「は?」


最後のは紗那と忠刻だ。まったく話がかみ合っていない。


二人の視線を感じ、政朝は言葉を紡ぎ始めた。

「いや、大したことはないんだけどあってさ…」


疑問だらけの言葉に首をかしげていると、政朝が長い人差し指を紗那に突き出した。


「場合によっては、君にも手伝ってもらう」





新キャラ出ました、政朝です。


彼はけっこう好きなタイプですね。

どちらかというとこの小説は真面目さんキャラが多いので、政朝のようなこまったちゃん(?)は貴重です。

でも、今後その活躍が期待されることは多分ないでしょう。

(ああ悲しい…)


個人的にはもう少しいじりたいですね。

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