表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
4/23

水面と春風

元和五年、春。



「…ん、朝…?」


小鳥の囀りと、障子から射す朝日に目が覚める。

眠い目をこすりながらも起き上がった。そして辺りを見渡す。

「……だよねぇ~」

畳に敷かれた布団に、壁にかかる掛け軸。そしてその下には生け花。

何一つ昨日と変化していない。

紗那は、姫路城ここで起こった出来事が夢だというわずかな確率を捨てきれていなかった。

目が覚めたら全部夢だった~などという展開を期待していたのだが。


「やっぱりこれは現実なのよね…」

悲しそうに立ち上がると、温もりの残る布団をたたむ。

華麗な花が描かれた押し入れの障子を開けると、布団をしまった。

そこで、紗那の視界に何かが入る。それは昨日自身が身に着けていた鞄。

きっと忠刻が届けてくれたのだろう。

おそるおそる鞄を開け、中を確認する。

まず始めに手に取ったのはケータイだ。なれた手つきでボタンを操作。

「電話帳…電話帳…あった、これね」

ドキドキしながら、母のケータイの番号を表示した。震える手を耳にあてると発信――


『プルルルルル…』

コール音が鳴るたびに、つながるかもしれないという緊張感が高まる。

そしてその音が途切れる。

(まさか――!?)


『通話するには、次元が違います。 元の世界にお戻りしてから発信してください。 グットラック!』


「…………」

ケータイってそんな忠告までしてくれるんだな~ すげぇな~と思いながら電源をぶちぎった。

どのみちこの世界では必要ない物だ。


「失礼いたします」

「うっひゃあああああっ!」

突然障子が開き、思わず叫んでしまう。

乱暴にケータイを鞄に押し込むと押し入れを閉める。


「なっ…何!? 奈阿なあ姫っ!」

「その名で呼ぶのはよしてください。 私はもう姫ではございません」


奈阿姫は豊臣秀吉の息子、秀頼と側室の間の子だったが、大阪夏の陣で家康に処刑されかけた。

そこを千姫が助け、自らの養女にしたのだ。

彼女にとって千姫は命の恩人だ。ここでは紗那の養女だが。


「そ、それはそうと何の用!?」

引きつり笑いを浮かべ、正座している奈阿姫に問う。

「お着替えです」

奈阿姫はきっぱりと、そして笑顔で答えた。膝までの長い髪が靡く。

彼女は温厚な性格で、顔立ちはまあまあの美人だ。

ただ、普段からあまり飾らないので、その魅力が発揮されることはない。


「えっ、着替えるの!?」

奈阿姫の答えにたじろいだ。この白い無地の小袖のままで十分だ。

「あたりまえですよ、寝巻のままで城内をうろつくなど姫として有るまじき行為です」

優しい声だが、有無を言わせぬ迫力だ。紗那はしぶしぶ従う。

(そうよね…今の私は姫だから…)


部屋を出て、廊下を歩く。奈阿姫が紗那を導いてくれる。

ここ、西の丸からの景色は絶景だ。けして高くない位置に建てられているが、眺めだけはいい。

建物を囲む大きな深い池。その中で悠々と泳ぐさまざまな魚。

そして前方には日本庭園。


見とれていると、奈阿姫が一つの部屋の前で停止した。

一緒に中に入るとそこには色とりどりの着物がかけてある。

「今日は、これにいたしますね」

楽しそうにその中の一つを手に取ると、紗那に向き直った。


悪戦苦闘し、何時間もかけて着た無地の小袖が簡単に脱がされていく。

新たに着用されたのは紅梅色の小袖だ。蝶や桜が付いている、春らしいデザインである。

帯が結ばれ、完成。


「できました!」

薄く化粧も施された。紗那はつくづくこんな面倒な物を毎日着ていた昔の人に関心する。


「さすが、奈阿姫ね」

気分まで有頂天になった紗那の顔に自然とえくぼができた。

笑いながらそのまま部屋を出てスキップする。

完全に『春先に多い危ない人』だ。


奈阿姫はそんな変態主人を呆れて見送った。


そんな変態主人――紗那は先ほど見とれていた庭園に来ると、足を止める。

もう一回、その秀麗な景色を眺めたかったからだ。

池の水面みなもに映った自分を見る。


「…私、未来に帰れるのかしら」

このまま城に居たいという半面、帰りたいという気持ちが混ざり、今の自分は複雑だ。

それに、このままだと歴史を変えてしまう。いや、正確に言うと、ここに来た時点で歴史は変わっているのだ。

元の歴史に戻す方法はただ一つ、『自分が未来に帰る』だ。


「それができないから困っているのよね~…」

水面に映る自分がため息をついた。


しかし直後、後ろから気配がする。振り返る気力もなかったので放置していると、背中を押された。

「え…っ!?」

一瞬、重心がぶれる。体が前のめりになり、足が地から離れる――

顔が水面に近づく。耳元を空気がかすめた。


「ちょ…ま…っ!」


紗那は、足がつくはずもない底なし沼に転落。


派手な音とともに水しぶきが上がる。そして辺りは再び静寂に包まれたのだった。


上から、紗那が沈んだのを確認した人物はまたたく間に姿を消した。





更新、送れました。

スミマセン、スミマセン!

またしても読者の皆様の期待を裏切ってしまいました。

あ~本当に私ってヤツは…

言い訳としては春なので、ポカポカして眠くなっちゃったりしてですね~

『バッカモーン!』(天からの声)


????何、今の…


作者注)春先なので文章がおかしくなっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ