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白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
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動揺と決断

「は…千…姫…?」

ポツリと漏らされた三木之助の言葉に紗那は顔を顰めた。

その行動に三木之助は驚いたように目を見開く。

「何をおっしゃっているのですか、千姫様、城に戻りますよ」

そう言うなり、紗那の腕を掴む。


(えええっ!? ちょっとまって…千姫って姫路城ここの姫様のことよね、何で私が!?)

紗那は思わず掴まれたがっしりした手を振り払う。

「あ、あのっ、人ちがいですっ! 私は紗那で、千姫ではありません!」

必死に説得しようとしたが伝わらない。三木之助は苦笑した。

「嘘をついてはなりませぬぞ、姫様に瓜二つな人などこの世にはおりません」

「だっ、だから違いますっ!」

紗那の迫力に思わずビクッとすると、彼はまじまじと見つめてくる。

「う~ん…たしかに服装はだいぶ異なるようですが…」


辺りに風が吹き、桜の花びらが踊る。

「まぁ、本物でも偽物でもいいので、とりあえず城の中へ」

三木之助がついておいで、という風に踵を返した。

紗那は迷ったあげく、ここに留まっているより城内の方が安全だという決断を下し、後を追う。


門が開き、天守閣の中に足を踏み入れてみる。

さっきとは違い、『頭上注意』という張り紙ももちろんない。

急な階段を上ると渡り廊下に出た。

廊下から見える中庭には桜の木が数本植わっている。

錦鯉の集まる小さな池。そして四季折々の樹木。


ここで紗那は初めて状況を理解する。

(多分、私は千姫様と容姿がにているんだわ、それで三木之助あのひとが間違えて…)

考えた所で、ハァ~ッとため息をつく。


実はこういう経験は初めてではなかった。

駅前をブラブラしていると、テレビ局らしき人達に声をかけられた事がある。

そしていつも決まって、『大河ドラマに出ないか』と言われるのだ。

紗那は生まれつきから古風な顔立ちだった。

それは嬉しい気もしたし、逆にコンプレックスでもある。

それが今回まさかこんな展開になるとは。


(本当、私ってついてないわよね~…)

二度目のため息をつきながら三木之助の後を追う。

いくつもの階段を上っていると、ふいに気がついたことがあった。

三木之助の背中を見て思ったことだ。


(この人…ひょっとしてあの本多忠刻ほんだただときの側近!?)


本多忠刻は姫路の藩主で、この城の持ち主である。そして彼はあの二刀流で有名な宮本武蔵を迎えて師事し、家士をしてその流儀を学ばせた。また、それだけでなく、武蔵の養子・宮本三木之助を小姓として出仕させ、側近としたのだ。


(絶対そうよ! じゃあこのままだと本多忠刻に会えちゃうかも!)

忠刻が美男だということを知っている紗那の心が躍る。


そして待望の時はやって来た。


「忠刻様、入ります」

三木之助が障子を開いた先に浮かび上がる一つのシルエット。

質素ですっきりとした部屋の中に彼はいた。


「どうした、三木之助、見つかったか?」

立ち上がった忠刻をこっそり覗きこむ。

輪郭がほっそりとしていて体全体にもムダな肉がない。鍛えている証拠だ。

鼻はスッと細く、瞳は険しいが、優しさがうかがえる。

忠刻の美男伝説は本当だったようだ。


(でも、見つかったかってどういうこと?)

彼の言葉に疑問を感じた矢先に、三木之助がぐいと体を押し出す。

勢い余って倒れそうになったが、何とかこらえた。


「こちらの娘でございま…」

「違うな」

言い終わる前に判断する。三木之助は紗那を押し出した格好のまま、停止した。


「…えっと?」

「その娘は千姫ではない、『あの力』を持っているのは確かなようだがな」

何気ない一言だったが、聞き逃す訳がない。紗那は忠刻に質問する。

「あの力って…どういうこと?」

「おい、娘、無礼な!」

「かまわぬ、三木之助」

その場の混乱を一瞬で静めた彼は、紗那の目の前に歩み寄った。

「…聞きたいか」

「はい」

きっぱりと答えると、忠刻は苦笑した。

(本当に、千姫に似ておる…)

いきなり笑顔になった忠刻に少し引いたが、続ける。

「教えて」

遠い目をすると、話はじめた。


「そなたは、この地の神の力を受け継いでおる、多分昔同じ力を持っていた僧侶の遠い子孫だろう」

たしかに、紗那の先祖は僧侶だ。

「神の力…って?」

「そのままの意味だ、自分の意思で自然のあらゆるものを動かせる、ただしその神の力は誠の志と勇気を持ったものにしか、一族の中でも使えないそうだ」

「で、でも、じゃあ何で今までその力が発動されなかったの?」

「神の力は姫路周辺でしか使えぬ、それにそなたの住んでいる未来ではかなりその土地の力が失われているのだ」

「え、待った! 『そなたの住んでいる未来』って、私がこの時代の人じゃないってことを知ってるの!?」

「うむ」

こればかりは、さすがの三木之助も目を見開く。

「何で…?」

「今朝、このような文が投げ込まれていた」

忠刻が懐を探り、紙を取り出す。すかさずそれを三木之助が奪った。

「何なに…『今日、この地にて神の力を授かる娘、未来から来たし』…」

「おそらくそなたをこの地に呼んだ張本人だろう」

その言葉にびっくりして三木之助を押し倒す。

「で、でも、私は階段から落ちてここに来たのよ? 誰かに呼ばれたなんてことはないわよ!!」

「そなたが落ちたのは偶然ではない、その者が最初から仕組んでいたのだ」


思わず迫力で黙りこむと、押し倒された三木之助が起き上がる。

「なっなっ、ならば、どうして黙っていたのですか!?」

「そ、それは…」

いつのまにか部屋に夕日が射している。橙色に照らされた中で紗那達はゴクッと唾を飲む。

「忘れていた」

がくっ、とずっこけた。忠刻は案外天然なようだ。


「まあ、それは置いておくとして」

流した…紗那は心の中でつっこむ。


「今日からそなたは千姫の変わりとする」

「は、はぁ!?」

つっこんでいる場合ではなかった。忠刻に掴みかかる。

「実をいうと、千姫は一カ月前から失踪中でな…必死に探しているのだが…」

忠刻は悲しげに目をふせる。

「そなたなら、容姿も似ているし、神の力も使える、問題ない」

「いやいやいやいやいやいや、ありまくりのありまくりでしょ! 断るってば!」

その訴えに、いたずらな笑みを浮かべる。

「未来に帰る方法がみつかるやもしれんぞ」

ピクッと、紗那は反応した。次の瞬間、満べんの笑顔になると膝をつく。


「おまかせください!」


だが、紗那は分かっていなかった。姫になることとは、どういうことなのか。


千姫は今、命を狙われている。

な、何か…紗那のキャラが完全に崩壊していますね。

しかもダラダラ説明長いし…

もう本当に読みづらくてすみません。

次回からはコメディー要素を入れて、もう少し明るくしていきます!

(と、宣言しといても多分次の日には忘れているでしょう、チャンチャン)

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