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白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
23/23

時空移動と姫路城

「ん…っ…」


床から伝わる冷たさに紗那は目を覚ました。霞んでいた視界が徐々にはっきりと形を成す。

「え…っ…ここは…何処!?」

目の前の光景を見て一発で目が覚めた。


そこは、どこかの倉庫の中のようだった。

土でてきた崩れかけの壁に、木の枠が外れた窓。そして床はなく土が直にひかれており、部屋の隅には藁が無造作に積んであった。

どうりで寒いはずだ。冷え切った地べたに寝ていたのだから。


「な、なんでこんな所に…」

と、その時タイミング良く一人の男が姿を現す。男といっても老人だ。

頭は丸坊主で、地味な藍色一色の着物を身に着けていた。強面だが、雰囲気はこの上なく和やかだった。


その老人を見て、紗那は一瞬ひるむ。

(ま、まさかこの人、ヤ●ザの親玉とかじゃないでしょうね…!スキンヘッドだし!!厳ついし!!私を監禁して売り飛ばす気!?それともまさか、エンコーとか!?どっちにしろいやぁぁ~!!)


と、十五歳にしてはマセた想像を張り巡らせている紗那に、その老人は笑みを浮かべた。厳つい表情が一瞬にして消える。

「そんなに怯えなくてもいいんじゃよ。すまないな、このような場所に押し込めて…」

「い、いえ、とんでもない!!私はエンコーがしたくはありませんので親分!!」


慌てて意味不明の宇宙語をしゃべってしまったが、この老人は悪い奴ではなさそうである。

一安心した紗那に、老人は懐から湯気の上がる茶と和菓子を出して目の前に置く。

どうやって懐に入れていたんだとツッコミたくなったが、とりあえず茶を一口いただいた。


冷たくなっていた心がしだいにポカポカと温まっていく。思わず全部飲み干してしまった。

「…おいしい」

声が漏れた。その様子に老人も安心したのか、その場の緊張感が緩む。

「そうか、それはなによりだ。すまないのぉ、これぐらいしかお出しできないものでな…」

「いっ、いえ、そんな、お構いなく!」


どうしても、この老人には礼儀正しくしないといけない気がして小さい態度をとってしまう。

一体この人は何者なのだろう?


茶菓子まで丁寧に平らげた紗那はその場に正しく正座し直した。

「あの…」

「ん?」


優しい顔で老人が振り返る。紗那は一つ咳払いをした。

「ここは…何処なんですか?」

ありふれた質問に老人は躊躇うことなく答える。

「姫路城…かな?」

「かなって何ですか!かなって!!」


嘘だ。ここは姫路城ではない。以前、場内を散策したがこんな崩れかけの小屋は見当たらなかった。


「…正確にはこれから姫路城になるといったほうがいいみたいじゃな」

「これから姫路城になる?はあ!?」

頭の中が混乱してきた。姫路城は姫路城だ。考えられることは一つ。この老人はボケているのだ。

「な~んだぁ~そういうことかぁ~空は青いなぁ~☆」


ボケてるのはどう考えても紗那である。老人は精神病棟にいる患者を心配して覗き込むような顔で言葉をはさんだ。

「…いきなり信じろろいっても無理があるようじゃ、とりあえずあれを見るが良い」


すると、老人は紗那の背中をぐいぐい押すと、小屋の外へと引きずり出した。


「……………え?」


そこにある光景が信じられなかった。いや、こんなことがある訳がない。でも、実際に目の前に…


「なに…コレ……」


そこに、姫路城はなかった。いや、骨組みだけなので完全にないとは言い切れないが。

何本もの太い材木が姫路城の骨組みを作り上げている。よくよく見ると上半身裸の男達が懸命にその材木を運んでいた。


足が震える。自分が何故立っていられるのか不思議だ。どういうことなのか?まさか、あの炎が城にも燃え移ったのか!?

しかし、紗那の考えはどれも違った。老人が遠い目で姫路城の骨組みを見上げる。


「…姫路城は今、建設中じゃ。予定では、今年中に完成する」


ドクン、と心臓が音を立てた。この老人は、何を言っているの…?

今までの記憶が走馬灯のように脳内を駆け巡る。ようやく状況が分かってきた。まさか、また私は…


「タイムスリップ…?」

聞き取れないくらいの小声でそう呟いた。声が震える。


けど、そう考えれば全てつじつまが合う。いや、それしかこの状況を説明する方法がないのだ。


『炎に飛び込んで、なんらかのきっかけで時空を超えた』ありえなくもない話だ。

そう考えると、姫路城が建設されたのは1346年。忠刻たちがいた時代が1620年だったから…

約、260年ほど前にタイムスリップしたようだ。


「…と、なると今は南北朝時代ってことね」

「ん?」

「い、いえ何でもありません!」


ようやく落ち着いた紗那に老人は安堵したのか踵を返した。

「…さて。そろそろ説明しようとするかの。この世界のことを…」


再び小屋に戻るようにと視線で促されたので紗那は小走りに急ぐ。老人は丁寧に小屋の扉を閉めると紗那の向かいに正座した。


「単刀直入にいうかの…紅梅紗那君、君は『力』の持ち主だね」

「な…っ」

直入すぎる。驚いて目を見開く紗那に老人は容赦なく続けた。

「君は今、大変危険な状態じゃ。このままいくと、『力』に身体を制御されてしまう」

「ち…ちょっと…そんなたて続きに言わないでくださいっ!」


予想外に大きな声が出てしまい、内心自分でも少しびっくりしている。だが、今の状況が理解できていない紗那にとっては無理もない。

だが、老人はそんな様子に驚くことなく、黙って紗那を見据えている。


「すみません…でも、あなたはなんで私の名前も…『力』のことも知っているんですか!?」

初夏の訪れを告げる柔らかな風が崩れかけの窓から吹き込んできた。それに合わせるように老人は言葉を紡ぐ。


「…私は、『力』の映像を見ることができる。『力』を見れば、その人の過去や歩んできた道のり、さらには情報まで読み取れるのだよ」

「…!!」

「気絶した君を見た時、私はすぐに『力』の持ち主だということを悟った。そして情報を解析した所、君が『紅梅紗那』という名前だということや、この時代に飛ばされたということも知った」


驚きのあまり言葉を発せないという紗那に老人は申し訳なさそうな表情をして顔を伏せる。 

「すまないな、君の了承も得ずに勝手に心の中をのぞいてしまって…」


その言葉に紗那はついに力が抜けた。傾ぐ身体をとっさに両手で床をついて支えると、老人に向き直る。

「あ…あなたは一体何者なんですか…!?」


ざあ、と小屋の外に生える大木が風によって揺れた。窓の隙間から、青々とした葉が一枚入り込み、老人の顔を一瞬隠す。


「…挨拶が遅れて失礼、私はこの地に代々住む僧侶の末裔。名を、櫂禮と申す」



はい。こんにちは、浅葱です。更新ペースが一か月に一度というのが当たり前になってしまった自分が怖い今日この頃。…情けないなぁ、ほんと…


さてさて、今回の23話で物語はついに最終章へ向けて動き出します。タイムスリップによって先祖、櫂禮と出会った紗那。これは何を意味するのか!?…と、こんな感じでいいんでしょうかね。


紗那 「ずいぶん態度がでかいけど、さてはもう話を稼ぐネタがなくなったのね?だから最後の切り札、最終章にはいっ…」


ハイ、何にも見えません、聞こえません!!空耳ですかね、今のは…

と、まぁ何にしてもグタグタですが、次回へ続きます!(こうご期待?)

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