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白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
18/23

繋がりと花瓶

しばしの間、沈黙が続いた。


三木之助の大喝の余韻と肩で息を吐く呼吸音が微かに辺りに響いている。音は、それぐらいだ。

魂と意識が一瞬飛んだ紗那は慌てて首を横に振った。すぐさま深く深呼吸をする。

落ち着いた所で隣の忠刻を見ると、下を向いて震えていた。髪で隠れているため、表情は分からないが。


「なにぃぃぃぃぃぃ!?」

突然、忠刻が顔を上げた。かと思うと凄まじい速さで三木之助の襟をつかむ。

「本当か、それは」

「ヒィィィ…!う、嘘を申すはずがございません!」

三木之助の震えた返答を聞くと静かに手を放す。らんらんと輝いていた目の殺気は消えていた。

どうなることやらと二人のやり取りを見守っていた紗那は安堵の息を漏らす。

だが、安心してはいられない。『鍵が盗まれた=紗那の身が危ない』という等式が成り立つからだ。

忠刻は紗那の数倍青ざめた顔だ。額を抑えながら呟く。

「馬鹿な…一体、どうやって…」

あまりにも顔色が悪いので、紗那は心配の気持ちも含めて話しかけてみた。

「その、鍵はどこにあったの?」

「東御屋敷の忠刻様の寝室でございます。あそこに入れる者はそうそういません」

忠刻の代わりに三木之助が答えた。その返事を聞くと、今度は紗那が青ざめる番だった。


やはり、下手人はこの城内にいるのだろうか。いつも、平然と言葉を交わしている人が、実は――…

そう思い込むと限がない。だが、その可能性も捨てきれないのが恐ろしいのだ。

いつも、誰かに見られている気がして――


重心を崩してよろけた紗那を忠刻はとっさに支えた。すぐさま顔を覗き込まれる。

「…紗那?」

瞳の中に映る自分に気が付き、ハッと体を起こす。慌てて笑顔で誤魔化した。

「何でもないの、それより一回神社に行かない?」

その慌てぶりを即座に見抜いた忠刻だったが、あえて気にかけず返事を返す。

「なぜ神社に?どのような根拠があるのだ」

「ホラ、あそこに神力についての資料が沢山あるっていってたでしょ?盗まれていないかとか…」

それを聞いた忠刻は納得したように軽く頷いた。

「それは確かに心配だ。三木之助、行くぞ」

早々と歩き始めた忠刻を急いで追う。紗那もその背中に続いた。

(どうか、盗まれていませんように…)

密に両手をあわせた紗那を、忠刻は横目で見つめたのだった。







風が強まってきた午前。辺りの草木はザワザワと警戒するように葉を鳴らし始めた。

両方の道は竹林で囲まれ、植込みには秀麗な椿の花が彩られている。もう花はだいぶ散ってしまっているが。

(忠刻様と二人で訪れた時にはまだ咲いていたのに…)

椿を見ながら記憶を掘り返す。たしかあれは、城に来て二日目、いや三日目の出来事だっただろうか。

すべての記憶が今となっては幻のように浮遊している。もう、あの日々には二度と戻れない。

もうすぐ、時が来る。この世界とも永久におさらば(のはず)だ。


(…って何早まってんの私!まだ鍵が見つかってもいないのに!第一、資料が盗まれていたら…)

そこまで思い、思考が途切れる。


――盗まれていたら?


資料がなければ元の世界に戻る方法が分からない。と、いうことはこの世界でお世話になることになる。漫画も、テレビも、携帯もないこの世界で…

――それだけは避けたい。


そこまで考え、思考が閉ざされた。先頭の忠刻が停止したからだ。

ふと見ると、頭上には色あせた赤色の鳥居が青空を背景バックに聳え立っている。到着だ。

すぐさま鳥居をくぐり、両手をあわせ目を閉じた忠刻は本堂の障子を開ける。

ばっ、と辺りに細かいほこりや砂が舞った。思わず口元を覆う。


「忠刻様、どう?資料、ある!?」

彼が死角になっているため、中の確認が出来ない。中を覗き込んだ忠刻は肩をストンと落した。

「大事無い、資料はある」

振り返った忠刻の優雅な白い手にはその一つと思われる物が握られていた。

無駄な力が入っていた紗那は脱力する。とりあえずは一安心だ。

忠刻の了承を得て、中に入らせてもらうことになった。草履を足から外すと境内に踏み入る。


中はかなりほこりっぽい。時々目の前を蚊や鼠などの小動物が通り過ぎる。つんとかびた臭いもしたが、どこだか優しい、自然な雰囲気を漂わせていた。

そして、片隅には茶色く変色した和紙の束が乱雑に積み重ねられていた。きっとあれが『資料』だろう。中身が気になったが、引き抜く勇気がなかったので放置した。

その資料の前方には、高価そうな西洋風の花瓶がいくつか並べられていた。蒼い花模様が鮮明に施されており、とても手の込んだ作りだ。

一通り中の確認が終わったので、備品が足りないか数えている忠刻の元に戻る。

眉間に皺を寄せていた忠刻は振り返ると腕を組んだ。

「それにしても…一体誰が鍵を…」

考え込む忠刻だが、紗那は先ほどから気になっていたことがあった。この境内の備品、どこかで見たことがあるような気がして…

二人は同じポーズで記憶整理に取り掛かった。その様子を見た三木之助は国宝並みの貴重な場面だと思い込み、画家を読んで絵を描かせようとしたがさすがに忠刻が止めた。


紗那は、もう一度ぐるりと中を確認する。ある一点に差し掛かった時、あっと声が漏れた。

急いで忠刻の元に戻ると、言葉を紡ぐ。


「忠刻様、ひょっとしたら政朝が鍵を持っているのかも…」

「………は?」

予想もしていなかった意外な親類の名前を聞き、思わず真の抜けた声を発する。

「…それは、どういう理由だ?」

待ってましたというように紗那は境内の一角を指差した。


「この花瓶、政朝が持っているのと同じ種類だったわ」


そうなのだ。以前、無理やり政朝とともに『楽しい楽しい邪悪な池祓い』(皮肉たっぷり)に出かけた際、政朝はこの神社に置いてあるのと同じ柄の花瓶を使用していた。


「……たしかに、この花瓶には邪悪な物を封印するという話があるが」

「きっと、その時にここから持ち出したのよ!」

「くそ、あいつめ。神社には無断で立ち入るなとあれほど言ったのに…」

ほおっておくと政朝の短所を語りだしそうな勢いなので紗那は話をまとめる。

「とにかく、鍵は政朝が持ってるってことで取りにいきましょ」

「ああ。あいつならゴミと間違えて捨てそうだからな、早めに取り返さねば」


こうして、政朝の屋敷に向かうことになった紗那達はここで選択を一つ誤った。

まさか、あのような事態に巻き込まれるなどともしらず。


――その日、風速十m以上もの強風が姫路を襲うこととなる。

やっとテストが終わってひと段落着いた浅葱です。お久しぶりです。

まず、嬉しいことを先に報告すると、お気に入りが一件増えました。感激です。登録してくださっている皆様、毎度ながら心からの感謝を。ありがとうございます。

さて、ここからはブルーな話になります。テンションが下がりたくない読者の方は読むのを避けてください。

テストが終わりました。死にました。はっきりいって玉砕です。ハイ。

いや、サボっていた訳じゃあないんですよ!?でも、実力の差というものがあって…


忠刻 「絵を描いていて遊んでいた奴が何をほざいているのだ」


紗那 「しかも誘惑に負けてわらびもちの車に全力ダッシュしていたのは誰よ」


うううっ…イキナリきつい言葉が飛び出しました。この二人、Sです。怖いです。


政朝 「ギターも弾いてたよね。下手の横好きってヤツ?」


間違えました。三人です。およよよ…最後のは大ダメージです。(涙)


奈阿姫 「つまり、勉強していなかったんですね☆」


ああっそんな奈阿姫まで…綺麗にまとめないで…出番がなかったからっていじめなくてもいいんじゃない?


政朝 「ま、何にしても今回の懸けは僕の勝ちだね」


うぅ~…そうだった。忘れていた。結果は来週あたりに分かる予定です。

どうか、浅葱に勝利の女神が降臨するよう、祈ってください!(切実ですっ!!)

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