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白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
13/23

朝日と稽古

白鷺の城が橙色に染まる。

長い夜は更け、朝になろうとしていた。鳥の規則正しい鳴き声が耳に心地よい。

城で朝日を眺めるのは二回目だ。


あまり寝つけず、早く目が覚めてしまった。寝巻のまま廊下に出ると朝日を浴び、背伸びをする。

寝つけなかったのには理由がある。昨日の夜、寝ていたら廊下に気配がした。

しかし確認してみると誰もいなかったのだ。


「何だったのかしらね~…迷惑な…」


呟きながら深呼吸をする。

姫路の空気は澄んでいて気持ちがいい。車が走っていないせいか臭うのは若葉の香りのみだ。

きっと昔はどこもこのような感じだったのだろう。


一人で体操をしていると、廊下から軽やかな足音が響く。足音の主は予想ができた。


「奈阿姫、おはよう」

「おはようございます」


丁寧に頭を下げてくれた。にっこりした笑みを浮かべると布団をたたみに紗那の部屋へと入る。


ここの人々は起床が早い。朝日が昇り始めたころだから今は約六時ぐらいだろう。なのに遠くから沢山の侍女達が行きかう足音が聞こえる。


「そういえば」

ふと、紗那が何かを思い出したかのように手をぽんと打つ。

布団をたたみ終わった奈阿姫は不思議そうに先の言葉を待った。


「忠刻様に会ってもいい?」

「え?」


思わず奈阿姫の口から驚きの声が漏れる。すみません、と慌てて口をおさえた。


「ホラ、昨日忙しくて政朝に連れ去られてから会ってないでしょ?

朝の挨拶もかねて色々と…」

「そんなにお会いしたいのですか?」

いたずらな笑みを浮かべて奈阿姫が茶化す。紗那はとっさに弁解した。

「ちちちちちちちちち違うわよっ! ただ、元気かな~と思って! 深い意味はないの!」


慌てぶりが逆に怪しすぎる。奈阿姫もそれを理解したのか紗那の手を取った。

「忠刻様は近くの東御屋敷にいらっしゃいます。 ぜひ、いってらっしゃいませ」

その言葉に紗那は顔が紅潮しているのにも構わず首をかしげた。


「え…忠刻様って天守閣に住んでいるんじゃ…?」

「いいえ、政治まつりごとや仕事をこなす時は天守ですが、それ以外は屋敷にお住まいです」


知らなかった。関心しながら握られた手をそっと放す。


「ありがとう、奈阿姫。 私、行ってくる」

「おまちくださいませっ!」


突然声を荒げられ、びっくりして振り向く。奈阿姫はなぜか顔を真っ赤に染めていた。

「…その格好で行くおつもりですか?」


とっさに言われて自身の服を見ると白い小袖の寝巻のままだ。このまま忠刻の屋敷に行けば変な噂がたつに違いない。


さっきの数倍頬が赤らむ。


「…せめて、お着替えください…」


紗那は無言で着替えのため、室に入った。







新鮮な空気を吸いながら外を歩く。ここは屋敷に行くための道だ。

木漏れ日が紗那を照らす。周りは竹林で囲まれていた。ひよどりの鳴き声が響き渡る。

「…本当に、のどかね~」

自然と顔がほころぶ。これほど気持ちの良い朝は初めてだ。


少し進むと、視界が開ける。物静かな空間に、一件の屋敷が建っていた。

決して大きくはないが、とても迫力のある風貌を漂わせている。


「すみませ~ん」


入口に立つと、おそるおそる呼んでみた。中から威勢のよい足音が響く。

ガラッと障子を開け、三木之助が出てきた。予想外の客人に戸惑っているようだ。


「えっと…忠刻様に会いたいんですけど…」

三木之助が頭からつま先までまじまじと眺めてくる。

今日の小袖は梔子色に、竹の柄が施された落ち着いたデザインだ。おかしい所はないはずである。

やがて三木之助はにかっと笑うと、

「そうですか~そうですか~そうですか~」

と連発しまくった。少し気味が悪い…


しかし紗那が不審に思っているのにも気付かない様子で部屋まで導いてくれる。

屋敷の内部は、古い年月を感じる。でも、不思議と寂れてはいなかった。


「こちらです。 では、私はこれで」

そそくさと帰ってしまう。一体何なのか――そんなことを思いながらも障子を開けた。


「紗那か」

忠刻は驚いた様子も見せず、座布団から立ち上がる。紗那は慌てて障子を閉めた。


忠刻の今日の服装は黒の着物に優雅な花があしらわれた物だ。下は梱の袴を着用している。

目のやりどころに困っていると、忠刻に話しかけられる。

「どうだ、城での生活には慣れたか」

あんたにはまだ慣れてないけどね、内心そう思ったがうなずく。


話題を変えようと、紗那は言葉を紡ぎ始めた。

「千姫さん…見つかった?」


千姫――それだけの単語に、忠刻の表情が変化する。とたんに辺りの空気が重くなった。


「いや…まだ、何も…」

ため息を吐き出す忠刻に、紗那は必死に言い直した。

「げ…元気だしてよ、その内見つかるって!」

「…ああ」


――地雷を踏んだ。この空気には耐えられない。

「そそ、そういえばっ!」

またもや話題を変える。忠刻は顔を伏せっぱなしだ。

「政朝様はどこに?」

その瞬間、瞳に殺気が宿った。ゆっくりと顔を上げる。

「そなたを送り届けた後、帰った」


二回目の地雷――そういえばこの兄弟、仲むつまじいとは言い難い。

(え~っと、えっと、えっと~! 次の話題~!)


紗那はこの空気を変えようと必死に全神経を脳に集中させた。

しかし、意外にも話題を切り出したのは忠刻の方だった。


「そなたこそ…」

「は、はひふッ!?」

いきなり見つめられて意味不明な声を漏らしてしまう。鼓動の速さは並ではない。


(そういえば、今って二人きりよね!?)

神社に向かった時も二人きりだったが、今回は個室でだ。何が起こるか分からない。


「――――ッ!!」

思わず声を上げてしまった。必死にそれを咳で誤魔化す。

忠刻は不思議に思っているようだが、構わず続けた。


「大事ないか? 誰か見知らぬ者に襲われたり…」

「だっ、大丈夫よ! 私はこの通り健康児なんだから!」


あんたのせいで今は大丈夫じゃないけどね、と心の中で言い返す。


しかしそれだけでは安心できないのか、忠刻は予想外の言葉を発した。


「…少し、剣の稽古でもするか?」

「え、ええッ!?」

目を丸くした紗那を心配そうに覗きこむ。またしても心臓が音を立てた。


「いくら『力』を使えるとはいえ、そなたは無防備すぎる。だが、剣でも使えたら少しは安心だろう」


そう言うと、障子を開けて三木之助を呼び、竹刀を二つ用意させた。


(え、ええ――――っ!? 何、この状況――――っ!?)

忠刻と紗那の話は書いていて楽しいですね!

鈍感な忠刻と、何より興奮する紗那が好きです。


さて、その話はこれまでにして。

今日は、年に一度の悪夢の日でした。思いだしただけでも身の毛がよだちます。

そう、「貧血検査」があったのです――――!!


腕にゴム製のロープが巻かれ、血管に針を…あー!ダメです!もうこれ以上は言えません。今だに思いだしても痛さが蘇ってきますね…

もう、二度とやりたくないです。


またしても色々とくだらないことばかり書いてしまいましたが、このへんで。

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