月光と闇夜
夕日が、遥かかなたの山に落ちる。
辺りはたちまち薄暗しさを増し、三日月が顔を出した。
暗闇に包まれた城の庭園では、虫たちが競うように鳴く。
ようやく長い一日が終わったのである。
一日の終わりには、どっと疲れがにじむ。紗那は部屋の畳に大の字になって寝た。
淡い蝋燭の光に顔が照らされる。
「…疲れたぁ…」
朝は沼に落下し、午前は忠刻と二人きりで心臓破裂、午後は政朝とともに池をはらいに行って…
考えるだけで疲れてきた。これらの出来事が一日で起こったと思うと寒気がする。
ふと気がつけば、タイムスリップしてまだ二日しか経っていない。
「あ~もう…何なのよ…」
家ではない場所で寝るのももう慣れた――つもりだが、今さらホームシックだ。
急に胸が締め付けられ、喉の奥から熱いものがこみ上げてくる。
「――――ッ!」
泣いてはいけない。自分らしくない。
頬をばちんと叩くと、キッと立ち上がった。
――でも。
『本当の自分』とは、何なのか?
自分は、人とは異なる神力という能力を持っている。例えるなら、心の奥底にもう一人の闇の自分がいるような――
時々、怖くなる。この力が、いつか暴走してしまうような気がして…
「紗那様~」
その思考を遮ったのは奈阿姫の声だ。あわてて深刻な面を笑顔にすると、障子を開ける。
「何かしら?」
「えっと…夕餉のご支度ができましたので…」
その言葉と同時に、お腹が鳴る。奈阿姫はプッと吹き出した。
「す、すみませ…」
最後まで待たずに苦笑する。自然と顔が火照った。
「ホラ、さっさといくわよ! 私昼はなにも食べていないんだから!」
そうなのだ。政朝の一件に巻き込まれ、食べ物はおろか水さえ口にしていない。
普段間食しまくりの紗那にとって、これは相当こたえる。
一歩進むごとに腹が鳴るのにこらえきれず、廊下を乱暴に走った。
月光は輝きを増し、闇夜は深まっていくのであった。
・・・…☆…・・・
深夜――人の足音はもちろん、物音一つしない。
虫たちの鳴き声は勢いを増し、庭園の沼に強烈な光を放つ月が浮かぶ。
そんな闇一色の空間に、ギシギシと廊下のきしむ音が響いた。
その足取りは西の丸の一番奥――紗那の部屋へと向かう。
手に持つ蝋燭の明かりが乱れた呼吸により、陽炎のごとく揺れる。
その人物は、女人しか入れないはずの西の丸の構造を確実に知っていた。
迷うことなく紗那の部屋のつきあたりまで進む。
角を曲がった時、足取りが急に停止した。
彼女の部屋の障子が、ほんのりと橙色を帯びている。蝋燭をつけている証拠だ。
まさか――他に誰かいるというのか。
動揺を隠しきれず、障子の隙間から内部の様子を覗う。
確認できる人物は一人だけだった。乱れた布団の中で、なにやら作業をしている。
彼女は、苦虫をつぶしたような顔になると、持っている物を放り出す。
「あ~あ…充電切れちゃったかぁ…いつもの癖で携帯チェックしちゃうんだよな~」
――意味はよくわからなかったが、とにかく今彼女は一人だ。
蝋燭を吹き消すと、障子に手をかける。だが、中で立ち上がる気配がした。
「…誰かいるの?」
目を見開く。まさか気付かれるなんて。『力』で気配は消しているはずなのに。
顔を見られたら終わりだ。とっさに姿を透明にする。
障子が開き、彼女が周りを確認する。誰もいないのを確かめると、踵を返した。
――今だ。
手のひらを翳す。黒い霧が彼女の体内に溶け込む――はずなのに。
――何故、何も変化しない。
まるで見えない壁が彼女を取り巻いている、とでも言うのか。
軽く舌打ちをすると両手を振り上げる。先ほどよりも邪悪な霧が襲いかかった。
頬に入り込む。その場所から紅色の液体が滴った。
「!! 痛ったぁ~何で切ったんだろう?」
バカな、その程度か!? なぜもっと激しくならない。
もう一度力を集めようとした。だが、それは全身の凄まじい痛みによって中断される。
「ぐ…あっ…!」
頭をおさえて膝を折る。口元から血が垂れた。
「…う…ここ…まで…か」
その人物は口を押さえながら闇の中を這うようにして進んだのであった。
ガ~ン…大ショックです。事件です。
お気に入りが一件減ってしまいました。
ただでさえボロボロの物語なのにこれから先が心配です…
登録してくれている方にお願いです。お気に入りから外さないでください!(涙)
…とまぁ頼んでもしょうがないので置いておきます。
またしても更新が少し遅れました。その間、何をしていたかというと…
絵を書いていました。
………。あーもうバカバカ!そんな間抜けだからお気に入りが減っちゃうんだよ!
えーとちょっとヒステリックになっておりますので(笑)気にしないでください。
私のバカすぎる後書きにつきあっていただきありがとうございました。
では。