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白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
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靄と光

漆黒の世界が広がる。


暗く、重い世界に落とされた紗那に絡みつく黒い物体。どうやら随分深い所に沈んだようだ。


「――――っ!」

息をするのもままならず、そんな声しか出ない。


両腕が物体によって浸食されていく。

悲鳴を上げようとして口をいっぱいに開くと、薄紫色の泡が吐き出された。


一寸先は闇――まさにその通りだ。暗い空間では、何一つなすすべがない。

春だというのに、池の水温は驚くほどに低かった。凄まじい痛みが全身を貫く。


唯一、侵食されていない左手を翳した。だが、辺りには何の変化もない。

(神力が奪われていく――!?)


考えようとしたが思考回路が閉ざされる。もはや、鮮やかな色の小袖にまで物体は侵食している。

とにかく、今はここから脱出しなければ息が持たない。実際、すでに限界だ。


そう願った刹那、漆黒の空間に声が響いた。低く、憎悪に満ちた声――


『力…その神力を…私に…! そうすれば…主に届けられる…!!』

はっきりしない意識の中でも、「その言葉」は耳にひっかかった。

ほぼ残っていない最後の息を必死に押し出した。それは声となって辺りに漏れる。


「主…? あなたには…主が…いる…の?」

紗那の予想だと、それは池に悪しき物を取り付かせ、自身を殺そうとしている人物だ。

限界の息をも吐き出し、ガホガホと泡を出し続ける様子をあざ笑うかのようにその声は響く。


『それは生きてから問うことだな…お前はじきに死ぬ…!』


目を見開いた。霞む景色に、くれない色の靄が見える。

意識が途切れる。侵食は顔近くまできた。苦しさがフッと消える。


「私は…まだ…死ねない…!」


ふと、手に触ったのは短刀。神社で忠刻に託されたものだ。

最後の力を振り絞り、腰の帯から刀を抜く。握りしめた時、神力が体を駆け回る――


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


パン、と光が舞った。それはヒラヒラと花びらのように浮遊し、紗那を包み込む。

意識が戻り、瞳に生気が宿る。いつしか、全身を侵食していた黒い靄は消えていた。

呼吸が軽くなり、自由の身だ。手に持っている刀が存在感を増す。


『馬鹿な…! 池の呪いを破っただと…!?』


驚く声の主――紅色の靄を見据える。


「おぉぉぉぉぉぉ!!」


光に近いスピードで池を移動する。靄に向かって刀を向けた。

淡い青色の輝きが刀を包む。そして靄を貫く――


『ギャアアアアアアア!!』


凄まじい悲鳴が池を駆け巡った。靄はまたたく間に縮んで、消える。


視界が、琥珀の光に満たされた。



             ・・・…☆…・・・




水面が光る。


「あれ? なんか池の色変わってない…?」


政朝は濡れた身体を池へと近づけた。さっきまでどよんでいた水が、光輝いているからだ。

よく見ると、淡い光の粒が無限に散らばっていた。思わず微笑を浮かべる。


「はっは~ん、あの子、やったね」


呟いたと同時に、背後に気配がした。振り向くと、予想通りずぶ濡れになった紗那がしゃがみ込んでいる。

ゆっくりと近づくと、懐から手ぬぐいを取りだした。


「いや~よくやったね~紗那ちゃん」


頬をぬぐられた紗那はせき込むと、言葉を紡ぎはじめる。

「この…刀が…私を守っ…てくれ…て」


再び激しくせき込む紗那の小さい背中を優しくさすると、政朝は池に向き直った。

「なん…ですか? それ…」


手にしているのは花瓶だ。政朝の顔ほどの大きさがある。鮮やかな模様も施されていた。


「うん? ちょっとね」


そう言うと、池の水をすくった。光の粒がまたたく間に花瓶に吸い取られていく。

それは、流れる天の川のごとく花瓶に向かって流れ続ける。

そして光が途切れると、政朝は花瓶に栓をして懐にしまった。


「…今のは?」

半分放心状態の紗那の顔を直視すると、花瓶をヒラヒラと振る。

「封印終了。 こういう悪質な物は封印しないと祟りが怖いからね」


その言葉に、頭の奥で何かが光った。


初めて政朝に会った時、花瓶でお手玉をしていた。あの時は単にふざけているだけと思い、花瓶を取り上げたら彼はこう言った。

『いや、使えるかな~と思って』


あれは、こういうことだったのか。悪質な物を封印するために…

納得したという顔に笑みを向けると、政朝は馬のいる場所に向かって歩き出す。


「じゃ、そろそろ帰ろっか。 そうしないと忠刻様に怒られちゃうからね」

「え、でも服が…」


紗那の小袖はみごとにびしょびしょだ。こんなので馬に乗ったら政朝まで濡れてしまう。


「だーいじょうぶだって、ちょっとぐらい濡れても。 ホラ、乗るよ」


紗那はあわてて片手で湿った下駄を掴むと、素足で政朝の場所へと駆けた。



             ・・・…☆…・・・



そんな二人の様子を影から見つめる人物は、悔しそうに歯ぎしりをした。

ダン、と傍にある木に殴りかかる。葉が数枚舞った。


「そんなバカな…! あの呪いを打ち破るなど…!!」


肩で苦しそうに息をすると、幹に寄りかかる。


「次の手を…早く打たなければ…神力を…!」


そう決意すると、片手を翳す。手のひらに光が溢れる。


刹那、その人物は消えた。


残された木は、悲しげにザワザワと葉を鳴らしたのだった。



最近、小説を書きながら音楽を聴くのにハマっています。

よく聞く曲としては、2010年の大河ドラマのオープニングなど…


大河ドラマならではの独特の曲、好きですね。

私的には2009年のも良かったんですけど。


何か久々にまともな後書き書きました。これまでハチャメチャだったのに…


では、これにて失礼します。

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