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白鷺の砦  作者: 浅葱恵莉
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遠雷と桜

天が、黒く染まっていた。


遠雷の低い唸りが聞こえたとたん、辺りに銀色の雨が降り注ぐ。

雨はあっという間にどしゃぶりになり、咲いている桜の花弁を濡らす。

桜の花から雨粒が滴る。


その様子を、城の窓から見つめていた人物は踵を返すと、軽く舌打ちをした。

狭く、暗い部屋の中を一周して、ピタリと停止。

ガン、と凄まじい勢いで床を蹴った。鶯張うぐいすばりの床は悲しげな音を立てる。


「憎い…あいつも憎い…こいつも憎い…」

悪に満ちた声とともにギリギリと歯を鳴らす。

その人物は床に跪くと、黒い雲に向かって両手を合わせた。


「天よ…黒い神よ…どうか、あやつを…ここに…!」


次の瞬間、黄色い閃光が光った。すさまじい轟音が辺りに響く。

そんな中、そいつは満足そうな笑みを浮かべる。

「天が…願いを叶えてくれた…」


そいつは笑い続けた。まるで世界を我がものにしたかのように。



       ・・・…☆…・・・



抜けるような空高い青空。ヒラヒラと舞い散る桜の花びら。

今日は春ムード全開だ。風が心地よい。

少女はうーんと背伸びをした。腰まで伸びた長い黒髪が揺れる。

愛らしい瞳に整った顔立ち、引き締まった紅色の唇。そして何より目をやるのが、その輝く綺麗な黒髪だ。


紗那さな――っ、こっちよ、こっち!」

ふいに名前を呼ばれた。どっちだよ、と思いながらもカメラを手にして母の元へ。

「お母さん…また撮るの?これで何枚目よ…」

紗那はため息をついた。だが母はうれしそうに体をくねらせる。

「いいじゃない、お母さん姫路城初めてだもん、紗那だってうれしいんでしょ?」

そりゃうれしいのはたしかだ。歴史好きな私としては、姫路城はあこがれだった。

だが、母のテンションについていけないのである。久しぶりの旅行で舞いあがっているのか。


旅行が久しぶりなのには訳がある。私は今年、十五歳で受験生。一か月前まで負けるまいと必死に鉛筆片手に勉強していた。

そして、春休みに入り悪夢の日々からやっと解放。受験はみごとに合格した。

県内トップ高に合格したお祝いにと、今日は姫路城へとやって来たのだ。

自分で言うのも何だが、頭の良さには自信がある。


そんな私だが、なぜか逆に母に振り回されっぱなしだ。

姫路城と母をレンズにおさめ、シャッターをきる。

「ハイ、撮ったよ」

母にカメラを手渡す。満べんの笑みを浮かべると、紗那の手を取った。


「じゃあ次はいよいよ天守閣に行かない?」

「ええええええっ!?」

思わず絶叫した。だって今日は休日。ものすごい人手で天守までは長蛇の列だ。

「いいじゃない、せっかく遠くまで来たんだからさぁ~」

しぶしぶ返事をした。長く急な階段を上ると最後尾につく。

それにしても本当にすごい人手だ。さすが日本の世界遺産。

姫路城の別名は『白鷺城』だ。その由来は白しっくいの連立する優美な天守閣がシラサギの飛ぶ姿に見えることからと言われている。


考えていると、母が振り返る。

「紗那、ヒマだからクイズよ」

「へ?」

いつの間にクイズ大会になったのか、驚いている紗那に構わず問題を出す。

「姫路城を建設した人物は誰だ」

「い…池田輝真政が秀吉の立てた城を大改造したと言われるが、詳しいことはよく分からない」

はっきり言って、こんなクイズチョロすぎる。受験勉強で何回も習った。

しかし母の攻撃は終わらない。

「姫路城の西の丸は、誰のために建設されたか」

「えっと…姫路ここの藩主だった本多忠刻の正室、千姫のため」

何か建設にこだわってるよな~と思いながらも答えた。

母はくずれそうなほど笑顔になると、正解っ、やっぱり私の娘だわ~と舞い上がる。

今日本当にテンション高すぎだろ、一発ぶんなぐったら治るのかと思った。


そんなこんなで拳を握りしめていると、とたんに列が前進し始めた。

いつのまにか、紗那の後ろにはたくさんの人が並んでいる。


それを何となく眺めて進んでいたら、ごつごつした石段の一部が足にひっかかった。続いて後ろにいた外人に突き飛ばされる。

「オウ!アイムソーリーヒゲソーリー ハハハハハ!!」


末代まで祟ってやると決めた。何ちゃっかり日本のギャグ引用してんだよ。


重心が崩れ、視界がぶれる。何やらムチャクチャやな予感が。

落下すると分かった時にはもう遅い。思わず声にならない叫びが半開きの口から漏れる。


何せこの姫路城の階段は敵の侵入を妨げるために角度ほぼ直角に近いくらいに作ってあるのだ。落下したら骨折どころではすまないだろう。


「キ…キャァァァァ!!!」


視界がぐるりと渦を巻く、ひどく気持ち悪い吐き気、放り出される体。

まるで、排水溝に水が飲み込まれていくように――


階段から落ちるだけにしては感覚が変だ。こんな感覚、今までに味わったことがない。

その気持ち悪さに耐えきれず、紗那は思わず目をつぶる。


瞼の奥で、白い光が光った―――



こんにちは、浅葱と申します。『白鷺の砦』第一話を読んでいただきありがとうございます。この小説は二作目の連載です。

文章表現、情景描写など、全てが未熟な私ですが楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。

私自身も、紗那と同じで城めぐり大好きです。姫路城ももちろん行きました☆

そんな少し変わった私ですが、暖かい目で見ていただければ幸いです。

また、感想や指摘などしていただければ泣いて喜びますね。

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