友達とその後
数カ月後ノヴァ宛にアリシアの祖母が電話をした。
「もしもし。」
「もしもし、ノヴァかしら?私はアリシアの祖母よ。」
「はい、アリシアと話せますか?」
「私から説明するわ。」
電話でアリシアのことを聞いた。祖母によると、アリシアは数日前に事故で両腕を骨折して彼女はチェロを弾けない身体になってしまった。チェロは彼女にとっての命、そして彼女の身体の一部だった。そうなった彼女に待ち受けていたのは絶望だった。チェリストになるためにこの世界に生まれてきたからだ。彼女は大人達から慰めて貰っても、チェリストとしての存在意義により精神的に追い詰められた。両親もチェロも失った彼女は来る日も来る日も彼女は荒んでいった。最後に彼女がとった決断は…
「天国にいるお父さんとお母さん、おばあちゃん、おじいちゃん、ノヴァ、今までありがとう…私はここにいても私ではない。」
自分の持ってるチェロと自分の手首に遺言を書いた。チェロを背負いながら首吊自殺をした。
「私がそばにいてあげられたら…アリシア!」
ノヴァはアリシアを失って泣き崩れた。これがノヴァがトーマスに話す友達との思い出だ。
トーマスはそのメッセージを見て、コナーの行方を知ろうとするのをやめた。
「辞書の彼女とはどうしてるんだ?」
「仲良くやってるよ。」
「3ヶ月後会えると良いな。」
「そうだな。ノアはリアとはどうだ。」
「最近セクシー女優の雑誌を見てる所がバレて喧嘩中だ。でもこれとそれは別だ。俺は彼女を愛してる!」
「中々の修羅場だな。それで説得できると良いけど。」
「あの雑誌を取られるのは困る。」
「そうは言うけど相手が嫌なら我慢するしかないだろ。」
「トーマスの言う通りね。」
リアが二人の会話を聞いていた。
「リア。」
「その雑誌を捨てるか、私と別れるか選んで!」
「リア、頼む!リアの前ではそんなの読まないから。」
「そう言う問題じゃないでしょ。私がいるのに何で他の女がみだらな姿になってる雑誌を読んでるわけ?ありえない。」
「これとそれは別の問題だろ。もう少し時間をくれよ。ハニー、愛してるんだ!」
「もう一人にして!」
リアは思いきりドアを閉めた。
「クソ、何で雑誌一つでこんなことになるんだ。」
「ノア、今は難しい時期なんだ。きっと時が解決してくれる。」
トーマスはノアを慰めた。
「そう言えば、ローガンは?」
「ローガン?あいつは最近何してるかよく分からないな。そのうち帰ってくるだろ。」
ノアとリアの関係だけではなくトーマスとノヴァの関係にも溝ができ始める。
彼はメッセージを声に出しながら書いた。
「君の大切な友人との辛い思い出を聞いてしまってごめん。そんなつもりはなかったんだ。確かにチェロが彼女の命だったけど、彼女が命を絶ったのは彼女のせいでも君のせいでもない。君の話を読んでかつての友達のコナーがどうしてるか考えるのが少し怖くなった。もし彼が死んでいたら、もし不治の病になっていたとしたらどうかとか考えていた。あまり考えすぎないようにする。」
さらに書き続ける。
「最近はルームメイトのノアとその彼女が感情をぶつけ合って喧嘩をしてるんだ。仲に亀裂が入ったかもしれないけど、お互い愛してる気持ちはきっと一緒だと思うんだ。」
さらに質問を加える。
「喧嘩した時、仲直りは出来る?」
辞書の1ページ目に質問の書いてあるメッセージをはさんだ。彼は自転車に乗り、辞書をいつものポストの中に入れた。彼はまた彼女の返事が待ち遠しくなった。
「辞書の彼女の返信が待ち遠しいんだろ?」
ローガンがトーマスに言った。
「何故分かる?」
「お前と暮らしてればそれくらい分かる。」
また彼のことを鋭い目で見た。
「何?」
「そのやり取りいつまで続くか考えてたんだよ。3ヶ月だぞ。ノヴァと言う相手がどこまでお前のことを思うか分からないから続く保証なんてどこにもないな。時には見切りをつけるのも良いぞ。」
「ノヴァは絶対に返信を返してくれる。やり取りは3ヶ月間続く。耐えてみるよ。」
「いつまで続くかね。まだノアとリアの関係の方が続きそうだな。あいつらは似た者同士だからちょうど良い。」
「今喧嘩してるけどな。」
「たかがエロ雑誌一つで喧嘩出来る奴らだ。和解もファックで和解するだろうな。」
「それもありそうだな。」
トーマスは部屋に戻ると、疲れてベッドに横たわった。すると隣の部屋でノアとリアが口論していた。
「これも隠していたのね!」
「君がそうやって怒るから。」
「私は怒ってなんかない。この雑誌の女と私どっちが大事。」
「それは君だけだよ。」
ノアはリアを抱きしめてキスをした。
「そうよ。もっとそうして!」
「喧嘩の声がうるさい!」
「クソ!ノックしてから入れ!せっかく良いところだったのに。」
「うるさいから注意しに来たんだ。君達の事情なんて知らないよ。」
「トーマス、さっきの喧嘩もキスも私達だけのことなの。それとも一緒に混ざりたいわけ?」
「何度も言うが俺の愛する女性はノヴァだけなんだ。」
「映画や本の見すぎだな。現実はそんな物語のような恋じゃねーよ。俺達みたいに平凡なんだぞ。」
ノアはタバコを吸った。
「そうよ。映画や小説のようなハッピーエンドの恋なんてすぐに終わるもんなのよ。」
「何度も言うが俺とノヴァの恋は終わることはない。君達もローガンと同じようなことを言うな。」
「いつまで続くことかね。あんた邪魔だから出ていって。」
「分かったよ。」
彼は部屋を出た。
彼は不安だった。今日出した返事で終わるんじゃないかと不安だった。
「今日は返事返ってきてるかな。」
彼は次の日になるといつものポストの鍵を開けたが、辞書が中に入ってなかった。
「まだ1日しか経ってないからしょうがないよね。」
彼は10分ほどポストを眺めたが何も変わらなかった。
「お兄ちゃん何してるの?」
「ちょっと鳥とかが来ないか観察してたんだ。」
「鳥ならここじゃなくてあっちの方がたくさんいるよ。」
「良いんだ。こっちのほうが落ち着くんだ。」
「そうなんだ。変なの。」
「何やってるんだ?続きやろうぜ。」
「うん。待って!」
10歳くらいの少年はそう言ってその場を離れた。
「何も変化なしか。」
また10分しても特に変化はなかった。
「もう今日は駄目みたいだな。」
彼は公園から出て、自転車で帰宅した。
「どうだった?」
「流石に今日も返事なしだ。」
「1日くらいでへこむなよ。」
彼はベッドで寝て、次の日をむかえた。
「今日は新しく鍵穴を設置して欲しいの。」
その日は彼は何件か依頼が来たので鍵の仕事をした。
「これでどうですか?」
「良いわ。」
「これだけですか。」
「大した仕事をしてないから。」
彼は抗議したが客はちゃんとお金を払わなかったので、払うまで帰らなかった。
「分かったよ。払えば良いのよね。」
客はお金を投げた。そして彼は拾って家を出た。
「とんでもないババアだったな。」
彼は帰り際に公園にあるポストに寄った。そしてもう一度開ける。
「今日もなしか。」
辞書は入っていなかった。
「明日きっと来る。」
そう自分に言い聞かせた。そして帰宅した。するとノアとリアはまた言い争いをしていた。
「ローガン、ノアとリアはまだ喧嘩してるのか?」
「喧嘩してるけど、その割には一緒に暮らしてるからお互い離れたくないようだな。」
「確かに。そんなに喧嘩するなら別れてると思うけど。」
「2人はすぐ和解する。そんなものさ。お互い似たようなもんだからな。」
「そうか。」
彼は部屋に戻りノヴァのことを考えた。
「また行くか。」
次の日も公園のポストに行った。
「何も返事がない。」
その次の日もポストの所に行った。
「何にもない。」
それから1週間が絶ったが、ノヴァから返事は来なかった。
「どうしてだよ。」
「トーマス、何でそんなにイライラしてるんだよ。また辞書の彼女のことか?」
ローガンが聞いた。
「何の騒ぎ?」
ノアとリアもやって来た。
「トーマスが辞書の彼女と上手くいってなくてイライラしてるんだよ。」
「私達みたいに喧嘩する時期ね。」
リアが言った。
「喧嘩?そんなことすらしてない。」
「何でそんなイライラしてるんだ。」
「彼女からいっこうに返信が返ってこないからだ。」
「それならもうその恋は終わりに近いな。」
「確かに。そういう恋には限界があるよな。」
「まだ終わってない。」
トーマスは怒鳴った。
「それなら辞書の代わりに暗号つきの手紙をポストに入れる続けるのはどうだ?」
ローガンが提案した。
「まだ返信書き終わってないのにそんなの意味があるのか?」
「一度やって見ろ。」
「分かったよ。」
そう言って彼は自分の部屋に入った。ペンを持ってメッセージを書く。
「返事が来なくて1週間が経つね。返事が来なくて心配になったからこのメッセージを書いてます。」
さらに書き続ける。
「もし僕のメッセージで不快だと思うことがあれば遠慮なく言って。もしかしたら君のかつての親友のこと聞いてしまって辛い気持ちにしてしまったかもしれない。もしそうだったらすまなかった。」
彼はその返事を公園のポストに入れた。次の日になると手紙は消えていた。
「最近は天気が良いね。何をしてた?僕はいつものように公園をランニングしたり、自然を生き生きと生きる生き物たちを見ていたよ。」
それからも毎日手紙を送っていた。
「今日は鍵屋の仕事で値引き要求する客がいたけど、断り続けた。僕にも生活がかかっているからね。」
しかし彼女から返事が来ることはなく2週間が過ぎてしまった。
「ローガン、お前の方法を試して見たけど、何も変化なしじゃないか。嫌われたよ。」
「やったのはお前だ。それを俺のせいにするのか?分かっただろ。この恋には限界があることくらい。これは現実なんだ。ノアみたいにバーで女を見つけるほうが手っ取り早いな。」
「俺にはノヴァしかいないんだよ。分かるだろ?」
「そう言う気持ちは俺も体験してる。だけど時には現実を受け止めないといけない時もある。」
「現実なんて受け入れるつもりはない。僕はノヴァと付き合い続けるつもりだよ。」
彼は部屋を開けてまたメッセージを書いた。




