彼女の友達
「鍵師のトーマスです。」
「鍵が開かなくなったのよ。直してくれるかしら。」
トーマスはいつものように依頼を受けて鍵穴を修理する。
「これは年数が経ち部品が老朽化したことによって鍵が開かなくなりましたね。でもこの部分は直しておきましたよ。」
「本当だ。直ってるわ。ありがとう。お礼のキスよ。」
「いやいや、そんなお礼受け取れないです。僕には彼女がいるので。」
「アバンチュールも悪くないのに。」
彼は女性と距離をとって焦りながらマンションの一室を出た。
「それでそのまま退散したわけだな。」
その日に起きた話をローガンにした。
「そうだ。彼女がいるから。」
「もうそんな関係なんだ。」
「やはりノヴァの方が魅力的だ。」
「会ったことも無いのに?」
「会ったことなくても文章から彼女の魅力が伝わる。」
「そうか?長たらしい文章を3ヶ月も続けてたらそのうち飽きるな。」
「そんなことはない。」
「そうだと言える自信はどこにあるんだ?」
「僕の心のなかにある。」
「どうするかはお前が決めることだけど時には冒険してみることも重要なんじゃないか。」
「裏切るってこと?」
「だってまだ会ってもないだろ。」
「何が会ってもノヴァを傷つけるようなことはしない。」
「そう。ずっとそうだと良いけどな。」
少しローガンの指がトーマスの指に触れ合った。そしてローガンはトーマスを見た。
「これからポストの確認して来る。もしかしたら彼女から返事が来てるかもしれない。」
彼は家を出た。
公園は子供で賑わっていた。
「こっちにパスだ。」
「ボールもらい!」
「待て!」
ポストの所だけは薄暗い雰囲気だった。トーマスはポストを開けた。
「返事が来てる。」
彼は辞書を見て笑みを浮かべた。ポストの方に日差しが照らした。ポストが輝いて見えた。そして彼は自転車で帰宅する。
「トーマス、どこに行ってたんだ?」
ノアが聞く。
「やり取りの返事を貰ったんだ。」
辞書を見せながら言った。
「どんな返事が来たんだ。見せろ見せろ!」
「駄目だ。これは2人だけのやりとりだ。ノアには見せないよ。」
「何だよ。つまらない男だな。」
「君とその彼女みたいに俺はオープンじゃないから。」
「それなら見る余地も聞く余地ないな。」
トーマスは机にむかい辞書を開く。中にはメッセージが入っていた。それを読む。
「友達のことを話してくれてありがとう。ルームメイトの話をいつも聞いてて面白いなって思う。きっとローガンは本当は寂しいんだと思う。私とばかり会話してるトーマスを見てもっと友達として話したいんだと思う。邪魔をしてるつもりはないんだと思う。私も友達が他の友達としか分からない会話をしてる時気になる時もあるからローガンの気持ち何だか分かるような気がする。ノアもリアと付き合って本当に幸せそうだね。いつか私達もあの二人のようになりたい。」
またノヴァの返事は続けて書いてあった。
「昔の友達の話も家族の話も読ませてもらったけど、今まで大変だったね。君はすごい人だと思う。君のお父さんも頑張ったと思うけど、トーマスも同じくらい頑張ったんだと思う。きっとコナーともいつか会えると思う。素敵な友達だったね。その時昔のような感じが戻るよ。」
彼はコナーのことを思い出して、彼女の手紙とコナーと描いた絵を同時に見た。
1ページ目を開くとこの前の質問に答えが返って来た。
「私には昔仲良かった友達がいました。彼女はアリシアという女の子でした。」
手紙の内容は続く。
「新しく向かいに引っ越してくる人がいるわ。」
ノヴァは両親もいていたって普通の家庭の一人娘だ。誰もが望むような家族だ。
「向かいの人ってどんな感じ?」
「今度引っ越して来るお隣さんにはノヴァと年の近い女の子がいるのよ。」
「そうなんだ。どんな子なんだろう。仲良くできるかな。」
ノヴァはこの時比較的内向的な性格だった。
「お向かいさんが来たわ。」
ついに家の向かいに入居する家族が引っ越して来た。引越し作業をしていた。
「もう引っ越して来たんだ。」
彼女は向かいの家族の女の子と目が合った。特に何も言うこともなく10秒ほどお互い見つめ合った。
「何だったんだろ。」
彼女はそのまま家に入った。
「ママ、向かいの人引っ越して来たね。」
「今引越し作業してるみたいね。」
次の日、向かいの一家が挨拶に来た。
「どうもはじめまして。向かいに引っ越して来た者です。」
「こちらこそはじめまして。」
「こちら受け取ってください。」
隣の夫婦は彼女の両親にワインを渡した。
「あら、素敵なワインですね。」
「こちらはシャンパンですよ。」
またノヴァは女の子と目が合った。彼女達は同年代だった。
「君、名前何て言うの?」
「私はノヴァよ。今は中学生よ。」
「私はアリシアって言うの。私も君と同じ中学生だよ。」
「よろしく。」
「こちらこそよろしく。」
2人は握手をした。
引っ越しが落ち着いて数日が経った。すると向かいの一家のホームパーティーに彼女の家族は招待された。
「あら、来てくれてありがとう。」
「素敵なネックレスとイヤリングだわ。」
向かいの奥さんはノヴァの母親のネックレスに感激した。
「これは母の形見の物なの。」
「聞いてごめんなさい。」
「良いのよ。当時はショックなことだったけど今は母のぶん生きてるわ。」
ノヴァの母親は10代の時に両親を亡くしていた。当時かなり葛藤していた。少しあれ気味になることがあったり、精神が不安定になることがあったがそれはもう乗り越えてある時から亡くなった両親の分もしっかり生きると覚悟した。
「これは大切なものだから肌身離さずにつけてるわ。」
「そうだったのね。何かあったら私ができる事なら頼みごとして良いからね。」
「ありがとう。気持ちだけで嬉しいわ。」
向かいの家族とはすぐに打ち解けた。
「ノヴァ、これ美味しいよ。食べて。」
「ありがとう。」
「お母さん料理得意なの。」
「アリシアは?」
「お母さんほどじゃないわ。」
「何か作ったりするの?」
「スイーツとかを作ったりはするわ。今度一緒に作ろうよ。」
「私で良いの?」
「何言ってるの。家近いからいつでもおいでよ。」
「ノヴァ、あなたはもっと自分に自信持ちなよ。もっと主張してさ。」
「主張なら私なりにしてるわ。」
「伝え方が不器用ってことね。」
「確かに私は自分でも内向的な方だって思う。でも私こう言うパーティーに招待されて嬉しいよ。ありがとう。アリシア。」
2人はパーティーで打ち解けた。
「皆、アリシアがこれから演奏するわ。聞いてちょうだい。」
アリシアは演奏の準備をする。
「アリシアがでっかいバイオリン持ってるわ。楽器弾けるなんて凄いな。」
「ノヴァ、これはチェロよ。ヴァイオリンより低い音域も鳴らせばかなり高い音域も出すことが出来るのよ。」
「これからはじまるのよ。」
アリシアはチェロに弓を当てて、弦を弾く。とても速い速さで低い音から高い音を響かせる。
「凄い。おたくの子こんなに楽器が弾けるなんて。」
「小さい頃からチェロを頑張ってるのよ。将来はプロのチェリストを目指してるの。」
「今のうちにサインでも貰わないいけないわね。」
アリシアは音楽の天才だったが、ただの天才ではない。かなりの時間チェロの練習に時間を費やしていた。
「ブラボー!」
「すごいわ。」
「アリシア…料理だけじゃなくて楽器もできるなんて…」
ノヴァはアリシアの演奏の余韻に浸った。彼女が弾いたチェロの音がノヴァの頭の中に残り続ける。
「アリシア!」
「どうしたの?」
楽器を片付けている所を話しかけた。
「チェロの演奏すごかった。アリシアは私にはないものを持ってるよ。きっとすごいチェリストになると思う。」
「チェリストの世界は甘くないのは分かってる。だからこそ練習は欠かさない。それとあんたにもあんたにしかないものあるんじゃないの?」
ノヴァに言った。
「私はアリシアみたいな特別な才能なんてない平凡な女の子よ。」
「それってきっとあんたが気がついてないだけだよ。あんたにしか才能がきっとある。才能って音楽だけじゃないから。才能がない人なんていないよ。」
「そうだと良いね。」
「あんたはどんなことが好きなん?」
「私は読書したり、文章を書いたりするのが好きなの。」
「文章って?」
「物語とか手紙とか書くのも好きかな。」
「そうなんだ。良い趣味してるじゃん。」
アリシアはクールで自信がすごいあるタイプだった。まさに彼女はチェリストになるために生まれたような女の子だった。
「最悪。」
「アリシア、どうしたの?」
「松脂をケースに入れるの忘れてたわ。しまうの結構面倒くさいだよね。」
「何か分からないけど大変そうだね。お家にピアノもあるんだ。」
アリシアはピアノに近づきピアノ椅子に座った。そしてピアノをひく。
「ピアノも弾けるんだね。」
「チェロほどじゃないわ。」
「本当に音楽が好きなんだね。」
「この曲に合せて歌ってみて。」
弾いた曲はノヴァの知っている曲だった。彼女はそれに合わせて歌う。
「ノヴァ、あんた結構綺麗な声出るじゃん。」
「音楽家のアリシアにそう言われるのは嬉しいわ。」
「他の曲も聞いてみる?」
「うん。」
楽器が変わってもノヴァはアリシアの演奏が好きだった。どんな演奏でも良い演奏だと思った。
「すごい。」
ノヴァは拍手をした。
「嬉しいわ。今からブラウニーでも作らない?ちょうど昨日ママが材料買って来てくれたの。」
「うん。一緒に作ろう。」
「まずは材料をかき混ぜないとね。」
2人は一緒にブラウニー作りをした。
「かたはこれにするよ。」
オーブンにかたを入れて加熱した。焼き終わり、冷まして、数等分に切った。
「完成よ。」
「すごい美味しそう。」
「あんたも作ったのよ。」
「ほとんどアリシアの力だったけどね。」
「あんたが作ったからより美味しく感じるわね。」
「また今度さチェロの演奏聞かせてよ。私、アリシアの演奏を聞いて感動したの。」
「そうだ。今度チェロのコンテストがあるから招待してあげる。」
「本当?嬉しい。楽しみだわ。」
彼女達は幸せな時間を過ごしていた。しかしそれも長くは続かない。




