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紙と愛  作者: ピタピタ子
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友達

トーマスの今の友達はルームメイトでもあるローガンとノアだ。2人ともトーマスを苛立てることもあるがルームメイトととして友達として思い出を残して来た。すぐ干渉するけど時に面倒見の良いローガン、馬鹿で間抜けで料理が下手だけど友達としては面白いノア、そして新たにノアがリアと付き合って彼の生活も変化した。今のところ、ノアとリアは子供を考えていない。

「ノア、何かしら?」

彼はリアに目隠しをした。

「ちょっと待ってくれ。もう少しだ。」

「何?目隠し取って良い?」

「目隠し取るよ。」

彼は目隠しを投げた。

「これ素敵なネックレスだわ。」

「誕生日に君に贈りたかったんだ。」

「ありがとう。」

彼女は彼に勢いよくキスをした。そして2人は抱き合った。ノアはリアと出会ってからかなり変わった。お互い馬鹿なことをしあえる相手に巡り会えたからだ。ローガンも2人のことは干渉しない。

「誕生日おめでとう。」

彼女の女友達もパーティーにたくさん来た。そして誕生日をお祝いした。

「リア、おめでとう。」

パーティーは鍵の修理を依頼した依頼主の家ですることになった。

「私からもケーキを作っておいたわ。」

トーマスと老夫婦は顧客以上の関係になった。

「ハッピーバースデートゥーユー、ディアリア!」

歌が終わると彼女はたくさんのロウソクを消した。

「おめでとう!リア!」

「今年で25よ。」

彼の幼少期は今とは違った。


彼はとても裕福とは言えない家庭で生まれた。彼はずっと父親のもとで育ったから母親の姿を知らない。

「子供持てることを嬉しくないのか!僕は君との子供を持てて嬉しい。」

「私は子供なんて望んでなかった。まだまだ仕事をしていたかった。それなのにあんなことになるなんて。あんな子生まなければ良かった。」

「なんてことを…君、それは正気なのか?そんなのおかしい。」

「おかしいって絶対言うからずっと言わなかったのよ。分かる?あなたがちゃんと避妊してくれればこんなガキの面倒なんて見なくて良かったし、大事な仕事をやめずにすんだ!」

彼の母親は妊娠を望んでいなかったのでパートナーと育児をしても子供を可愛いと思えなかった。

「もう限界、離婚よ!」

「そんな…まだやり直せる。」

「もう駄目。今が一番よ。私が今離婚すればこの子の記憶にも私はいない。だからもうおしまいよ!子供はあなたが育てて私は私の道を歩むから。」

彼の父親はどちらも手放したく無かったが、父親としてちゃんと面倒見たいと思ったので離婚しても一人でトーマスのことを見ることになった。

「パパ、僕のママはどんな人なの?」

トーマスは物心つくようになってから父親にこのようなことを聞くようになった。

「君のお母さんは今どこにいるのか分からない。」

「どうして?」

「一緒に暮らせなくなったから。」

「どうして一緒に暮らせなくなったの?」

父親はいつも彼ににごして答えた。

「全てはトーマスのためなんだ。パパのせいでもある。」

彼の父親はトーマスの存在で前妻と別れることになったとは言えなかった。人格を形成する時期にショックな事を教えるなど出来なかった。

「ママと会える?」

「ママはどこにいるのか探しても分からないから会えない。トーマスのお願いには答えられないんだ。」

「そうなんだ…」

トーマスは悲しそうな表情をした。

「トーマス、よく聞いて。ママがいないのは変えられない事実なんだ。だけどパパがトーマスのことを父親として愛してるのも変えられない事実だ。ママ分もパパが大切にする。」

「パパまで消えないで。」

トーマスは父親に抱きついた。父親のぬくもりが伝わった。

「パパ、ボール遊びしよう。」

「良いぞ。」

父親は仕事や家のことで疲れていてもトーマスと一緒にいる時は仕事の疲れも忘れられた。

「トーマス、良いか。パパとお前は決して金持ちでもないし、時々生活が大変になることが多い。辛いことばかりだけどこれから出会う人に生きるための鍵をもらうことがある。もちろんパパもトーマスから生きるのに豊かにする鍵をもらってる。鍵は貰うこともできるけど、渡すこともできる。もしこれから困ってる人や導きたい人がいたら鍵で導くと良いよ。」

「鍵ってドアを開ける鍵のこと?」

「前に進むための道具でもあるんだ。」

鍵には色んな意味がある。

「分かった。困っている子がいたら助けたいと思う。」

「そうだ。それでこそ我が息子だ。」

父親はトーマスを撫でた。彼は父親からの愛情を知っていたので非行に入るようなことは無かった。

「何してるの?」

「本読んでるの。」

「そうなんだ。」

彼は内向的で友達はかなり少なかった。

「家帰って、ウーバーイーツで何か注文して映画見ようぜ。」

「良いね。」

「僕も行く!」

集団の輪の中に入るのが彼はあまり好きではなかったので、オープンでフレンドリーでもなかった。

「何読んでるの?」

「動物の図鑑。」

「そこ、館内では静かに。」

彼は放課後地域の図書館に連れてって貰っては図鑑などをたくさん読んでいた。

「鍵の本ありますか?」

受付係に本を検索させた。

「この図書館にはないわ。」

よく探したら鍵の本はあった。この時から鍵のことに関する専門書などを読むようになった。

「今度は何の本読んでるんだ?」

「鍵の本だよ。」

鍵の本だけだと知識は中々身につかないないので工具に関する本なども一緒に読んでいた。12歳になっても彼は図書館に通う生活に明け暮れた。この時はじめて友達と思える人に出会えた。

「君何読んでるの?」

ある男の子がトーマスに話しかける。

「工具の本を読んでる。」

「面白いの?」

「うん。とても面白い。」

「君変わってるね。」

「そう見える?」

「僕はそう思うよ。あの人がお父さん?」

「うん。車で毎回連れてって貰ってんだ。」

「そうなんだ。」

「君は?」

「僕は一人で自転車で来たよ。」

「そうなんだ。」

2人は小声で話し続ける。

「ここに来るのははじめて?」

「最近引っ越して来たばかりだから。」

「どうして?」

「パパの仕事の関係でね。」

「何してる人なの?」

「編集社で働いてるんだ。」

「君は編集の勉強しにここに?」

「特に友達とかいないからさ。」

「そうなんだ。僕は生まれた時からこの辺りに住んでるけど、仲良く遊べる友達はいないんだ。こうやって図書館で本を読んでいた方がずっと楽しい。学校に行っても正直仲良くなれる友達がいないんだ。」

「そうなんだ。だけど今こうやって僕と話せているじゃん。ちゃんと話せるじゃん。」

「それは君が声をかけるから。」

トーマスは彼の目を見る。

「君名前何て言うの?」

「僕はトーマス。」

「トーマス、良い名前だね。僕はコナーだよ。」

「よろしく、コナー。」

2人は握手をした。

「君は普段どんな本を読むんだ?」

「君と違って僕は文学をよく読むんだ。図鑑とか専門書とか読む気になれなくてね。」

「結構読むと面白いよ。」

「堅苦しくてつまらなそうじゃん。常に大きな変化のある文学の方が読んでて楽しい。まさに文学は娯楽そのものだね。」

「逆に僕は文学とか読まないんだ。芸術とかはそんなに興味がなくて。」

「それならこの本読んでみなよ。」

「何これ?」

「若草物語とレ・ミゼラブル。面白いから読んでみなよ。」

「それならこの図鑑とか面白いから読んでみなよ。写真で分かりやすい鳥図鑑だよ。」

2人は本を交換して読んだ。

「これなら僕が読んでても退屈にならないね。」

「そこ静かに。」

「声が大きいぞ。」

「悪かった。」

「文学も悪くないね。続けて読んでみるよ。」

2人は図書館で打ち解けた。

「今日は何の本を読んでるの?」

「スタンダールの赤と黒。」

「今日は何読んでるの?」 

「アンナ・カレーニナ読んでる。」

図書館にはいつも二人がいる。会う時はいつも本の話ばかりをする。

「トーマス、何読んでるの?」

「辞書だよ。」

「辞書をこんなに集中して読むのは君しか知らないね。」

「そうでしょ。」

2人は図書館以外でも交流があった。

「あら、あなたがトーマス?たくさん料理を用意したから食べて。」

「ありがとうございます。」

お互い家に招待することもあった。

「お前んちは凄いな。プールもついてるし、家は広いし、まさに金持ちって感じだな。」

「確かにそうかもね。」

「可愛いな。」

トーマスはコナーのゴールデンレトリバーをなでる。

「どうやら気に入られたようだね。」

「嬉しい。」

彼は犬を抱きしめる。

「何歳なの?」

「僕は12歳だよ。何でそんなこと聞くの?」

「いやコナーのことじゃなくて、ワンちゃんのこと。」

「この子は今は7歳だ。子犬の時からずっと友達なんだ。」

「そうなんだ。」

彼もトーマスのようにそんなに友達が多い方ではなかった。

「これが子犬の時の絵だよ。」

「君が描いたの?」

「僕が描いたのはこっち。これはパパが描いたんだ。」

「お父さん絵が上手いね。」

2人は階級が違っても本という共通点があった。本で友情が結ばれているようなだった。

「この本面白いから読んでみてよ。」

「何これ?」

「フランス文学作品だよ。」

「君の本なの?」

「うん、貸してあげる。」

ジュール・ベルヌの作品だ。

「ありがとう。読み終わったら感想教えるね。」

2人が友達として過ごせる時間もそう長くはなかった。

「コナーは?」 

「お父さんの仕事の関係でアメリカに引っ越したんだ。」

父親が息子に言った。

「どうして…」

「別れが悲しいか。」

「うん。だって何にも言ってなかったから。それにジュール・ベルヌの本まだコナーに返してないよ。」

「良いか。お互いのことを忘れていなければ、コナーとはいつかまた会える。」

「本を返したい。」

「それはお前が持ってなさい。次会う時に返しなさい。」

「パパ、次はいつなの。」

「いつかは分からないけど、きっとその時はやって来る。」

あれからコナーと再会することは一度もなかった。彼の記憶に残っていても、コナーがどこにいるのかまでは分からなかった。図書館というコナーと繋がれるものがなくなったから。


「これが僕とかつての友達コナーの話。今彼がどこで何をしてるのか僕には分からない。きっと芸術家として活躍してるのかもしれない。」

彼はメッセージを書き続けた。そして質問を加えた。

「僕のことは話したけど、ノヴァの友達はどんな人だった?」

彼はポストに行き、辞書を入れて鍵を閉めた。

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