答え
彼は答えを読み上げた。
「僕はコーヒーは好きじゃないかな。まず苦くて飲めなくなるのと、カフェインで夜眠れなくなることが多いから。ハーブティーとか紅茶の方が僕は好き。飲み物の好みは僕と君は近いね。」
彼は続けて答えを読み上げる。
「僕の好きなものは甘いものが好きなんだ。メープルシロップをかけたパンケーキを食べるのが好き。あとはピザなどを食べるのが好き。パン食は僕にとってかなり合っている生活かと思うよ。僕は食べることじゃなくて料理することも好きだよ。僕はスイーツやパンケーキなどを作るのが好き。いつか君のために何か作ってあげたいと思う。もしくは一緒に料理するのも悪くないかな。」
彼は手紙を書き続けた。
「僕からの質問だけどこの手紙はいつまで続けたい?ある程度やり取りしたらあったほうが良いと思う。あとノヴァは話すより文章を書くほうが好き?」
彼は質問を書いた。
数日して返事が返って来た。1ページ目を見ると上方がおってあった。返事を読む。
「私は3ヶ月くらいこのやり取りをしていたい。会うまでの期間が少し長く感じるかもしれない。だけどそれくらい待ったほうが私は楽しみに感じる。私が勝手に決めちゃいましたね。でもいつまでこのやり取りを続けるか続けないか決めたほうが良いかなと思ったんだ。もちろん私はトーマスとやり取りしてるだけでも幸せなことだと思ってる。」
ノヴァからの手紙は続いた。
「迷子の子見つかって良かったね。その男の子、今も君のことを感謝してると思うよ。私は子供じゃないけど、迷子になったわんちゃんを知ってる。近くで張り紙が貼ってあったの。黒くて目が黄金に輝いているような猫だった。私も一度見たことがあった。早く見つかると良いなと思う。」
ノヴァはさらに質問をした。
「トーマス、今まで迷子になったことはある?」
彼女の質問を見て返事を考えた。
「トーマス来てくれ!」
ローガンとリアとノアがトーマスを呼んだ。
「朝から何なんだよ。」
「鳩が扉の前で死んでるんだ。」
死んだ鳩を触るとかなり冷たかった。
「もう駄目だ。」
「流石にもう救えないか。」
「残念ながらそうだな。」
死骸を持ち上げると、かすかにVと言う文字が書いてあった。
「ローガン、こんな所に落書きでもしたのか?」
「俺がそんなくだらないことをすると思うか。絶対そんなことはしてない。」
「それなら、リアかノアか?」
鳩の死骸を持ちながら言った。
「私はやってないわ。」
「俺もやってないけどな。そもそもこんな所誰も見ないから気にするほどのことじゃないだろ。」
「あー、そうだな。ただ聞きたかっただけだ。」
Vと言う文字が彼の目に焼きつく。
「こっちを掘ってくれ。」
「分かったよ。」
ローガンは土を掘った。鳩が入りそうなくらい掘った。
「豪華な葬式は出来ない。お前にはこれくらいしか俺達には出来ない。」
鳩を穴にいれて、土をかぶせた。そしてどんどん鳩の姿は見えなくなる。そしていなくなった。
「ご飯食べて来る。」
彼は手を洗って料理を作った。
「ノヴァにいつか作ってあげたいな。」
「何を作ってるの?」
「スクランブルエッグだよ。」
「美味しそうだわ。」
「そう言えば、君の名前は?どこから入って来たの?」
「私はノヴァよ。鍵を開けて入って来たの。」
彼女は鍵を持っていた。しかし男性は女性の顔がよく見えなかった。
「僕が落とした鍵を拾ったの、君だったんだ。」
「あなただったのね。鍵の持ち主は。」
「あの鍵誰かが捨てて、なくなったのかと思った。」
「そんなことはないわ。」
女性は再び鍵を見せた。
「おそろいの鍵だね。」
彼はキッチンにある鍵を見せた。
「ここは2人だけの空間だね。」
一人で寂しく料理を作っていた空間は2人以外誰もいない特別な空間に変わった。
「スクランブルエッグできあかったよ。あれ、ノヴァ!」
当たりを見回しても彼女の姿は無かった。
「ノヴァ。」
彼女はいなくなった。
彼は我に返った。いつの間にかスクランブルエッグは出来上がっていた。
「現実のようだっだけど現実じゃなかった。」
彼は妄想の世界に入っていた。実際いるのは辞書でやり取りしてる彼女では無かった。ローガン、ノア、リアが楽しそうに食事をしていた。彼は彼らの近くで朝ごはんを食べた。
「どうしたんだ?そんな暗い顔して。朝ごはんまともに作れなかったのか?」
ノアがトーマスに言った。
「料理は失敗してない。ノアには関係ないことだろ。」
「そうか。何だかお前元気なさそうな感じがしたからさ。」
「そうよ。何かあれば言えば?もしかしてやり取りしてる人と上手くいってないわけ?」
「その話は今したい気分ではない。それに彼女とはまだやりとりは続いてる。」
彼は3ヶ月先がとても待ち遠しかった。すぐ来るようで中々来ないような3ヶ月。彼女と会えるまでの期間。3ヶ月間は彼女と文字を通して深い仲になれる期間。会った時の想像が止まらないが、どんなシルエットなのかも頭の中ではっきりしない。
「こんなんじゃない。」
彼はノヴァのイメージを描いたが、納得いくものはなく全て破り捨てた。ノヴァの姿は頭で思い浮かべることも、紙に書いて絵として具現化することも出来なかった。それでもトーマスはノヴァのことを愛し続ける。愛の炎は消えない。
「ノヴァ…ずっと待ってるよ。」
彼は返事を書いた。そして辞書の1ページ目の上方をおった。
「子供の時迷子になったことはないけど、時々道に迷うことはあるよ。鍵師をしてるから依頼人の住所と少し違う所に来そうになることは何回かあった。道はそんなに得意な方ではないよ。この前は依頼主が迷ってる僕を案内してくれて何とか目的地についたよ。その人は君のように優しくて親切な人だった。安心して、その人と僕の間にはなにもないから。仕事に来たけど、最後は飲み物やスイーツなどを用意してくれて本当に親切な人だったよ。僕にもそれくらいの余裕があったら良いのになとその時思ったんだ。自由に生き過ぎてかえって生きるのが大変な状態だよ。だけどこうやって呼吸してるのにも意義がある。呼吸してる限り僕は生きているから。生きているから君とこういったやり取りを何回も出来るし、これから3ヶ月間同じようなやり取りが出来る。君も僕もこうやって生きているから素晴らしいんだ。」
彼は返信を書いて辞書にはさみ、いつものポストの中に入れた。
「今日は鍵穴の修理ですよね。」
「そうよ。最近、トイレの鍵が誰もいないのに閉まることが多いのよ。ノックしても誰もいなくて、コインで開けようとすると誰もいないことが多いのよ。」
「今はどなたと一緒に住んでいるんですか?」
「子供たちは皆家を出てって、それぞれ家庭を持ってるわ。息子2人は綺麗な奥さんと結婚し、娘はとても優しい男の人と結婚したのよ。だから今は旦那と二人きりの生活よ。時々息子と娘が帰ってくることもあるけどね。ここにはもう50年くらい住んでいるかしら。」
「ずっとここから離れなかったんですね。」
「ここはとても好きな場所だったからね。」
高齢女性は家全体を見回した。
「それでは鍵を点検します。」
トーマスは鍵の様子を確認した。数分後彼は修理に入る。
「バネが緩くなっているな。」
思ったことを言いながら修理をした。
「修理が終わりました。あれ?どこに行ったんだろ。」
彼は庭の方に出た。すると女性はテラス席で休んでいた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。あれ?この人は?」
「鍵の業者よ。」
「そうか。」
「鍵師のトーマスです。トイレの鍵を直したので一緒に確認しましょう。」
3人はトイレの方に移動する。
「トイレが勝手に閉まる原因は表示錠が長年の劣化で緩くなってしまったからです。内部の備品のバネが緩くなってしまって閉めただけで簡単に施錠されるような状態になったんです。内部の修理をしておきました。他にもドアを思い切り閉めて内部の備品が緩くなってしまうこともああります。」
「そうね。よく子供たちや家に来る子供たちが乱暴に扱うことがあったわね。ドアもそんな扱いを受けたらガタくるもんよね。」
「これからはドアを丁寧に閉めたほうが良いですよ。」
「あなたとても親切に教えてくれるわね。良い業者さんに出会えたもんだよ。」
「とんでもないです。」
「そんなこと教えたら商売が儲からなくなるぞ。ここはあえて言わない方が良かったのにな。」
「そんなことはしませんよ。」
「鍵じゃないけど、前配管工で繰り返し修理させてはお金を取る悪徳業というのがいたな。」
「そんなこともあったわね。それと比べるとあなたはかなり親切な対応よ。」
「ありがとうございます。そう言われると嬉しいですね。」
彼はとても喜んだ。
「今日はありがとう。おかげでトイレの問題で悩むことはないわ。」
「ありがとう。トーマス。」
「また何かがあったらここの番号にぜひ連絡してください。」
彼は老夫婦にメモを渡した。
「やっと今日の仕事は終わった。」
彼は自転車で帰宅した。そして机に向ってノヴァへの返事を書いた。そんなやりとりが1週間続いた。
ある日彼はノヴァからの手紙を読んだ。
「やりとりをしてもうすぐで2週間になるね。少し長くも感じるけど、どんどん3ヶ月後に近づいてるね。この前は鍵屋の話を聞いたけど、君は本当にすごい仕事をするし依頼主の方達もきっとまた君のことを呼びたくなると思う。私が依頼主なら何度でも呼んでるかもしれない。これはちょっとした冗談よ。仕事が少し増えてきて良かったね。返事が遅くなるのは少し寂しい所もあるけどトーマスが上手くいってて私は嬉しいわ。」
ノヴァはまさにトーマスが求めていた理想の女性そのものだった。彼にとってノヴァは優しくて、親切で尊重してくるとても良い女性だ。
「今回もメッセージを読んでくれてありがとう。またトーマスに質問したいことがあるの。今までどんな友達がいたことある?今の友達のことでも良いし、昔の友達のことぜひ教えて欲しい。」
彼女からの質問を読んだ。そして彼らは答えを書いた。彼は自分の幼少期のことから紙に綴る。




