返事
辞書の1ページ目は上方が折れていた。彼はノヴァが書いた返事を読んだ。
「「包み隠さず答えたいと思います。前に恋人がいました。私と同年代の男性です。付き合いたてはとても魅力的でした。どんな人だろうと付き合いたてはやはり誰でも魅力的でしょうね。相手から見た私もきっと同じ。小規模なパーティーで知り合った男性でした。何回かやり取りしてるうちにいつの間にか私達は付き合っていました。付き合って1ヶ月して彼と同棲することになりました。同棲すると彼はどんどん私に無関心になって行きました。そして家庭の問題でさらに彼は精神が不安定になり、ついに気持ちを制御出来ないレベルにまで達しました。時には彼に暴力を振られたり、束縛されることもありました。どんなに説明しても彼は私を信じてくれませんでした。日に日に私への不信感は大きくなるばかりでした。最終的には私への興味はなくなり彼との数カ月間の同棲は終わり、別れることになりました。だけど彼と付き合ったことも別れたことにも私は後悔していません。なぜならあなたと今こうやってやり取り出来るから。」だと。」
彼はメッセージを読んで複雑な気持ちになった。辛い過去を思い出させるような質問をしたのでは無いかと考えた。
「どれどれ?」
ローガンがメッセージを読もうとした。
「勝手に読むなよ。」
「ルームメイトだろ。」
「そうだよ。お前はただのルームメイトだ。ローガン。」
「それなら追い出せば。本当は迷惑なんだろ。」
「どうしてそうなるんだよ。最近変だぞ。」
「恋で浮かれて変になってるトーマスに言われたくないな。」
「とにかく、これは俺とノヴァの問題なんだ。お前が干渉する権利なんて一切無い。」
「この反応だとどうやら深刻な内容のようだな。」
ローガンはそう言ってトーマスのもとを離れた。彼はずっと彼を見ながら去った。まだ彼が見ているかのように。
「質問もある。「トーマス、私達よそよそしくなる必要はもうないわ。気軽に話しましょう。トーマスは好きな食べ物と綺麗な食べ物は何?私はアーモンドと紅茶が大好き。嫌いなものはコーヒー。苦くて本当に好きじゃないわ。何度も美味しいコーヒーを試したけど私には無理だった。トーマスはコーヒーは好きかな?私は君が何を好きでいても受け入れるつもりでいる。」」
今まで恋愛を深く知らなかった彼は彼女のその言葉に感銘を受けた。
「こんなに寛容で話しやすい女性なんて。ノヴァと話せてこの上なく幸せだ。」
「また辞書の中の彼女に恋をしてるのか。1ページ目の返事はどうだっんだ?」
ノアが聞こうとする。
「それは2人の問題だ。」
「何だそれ。隠し事か?言ってくれても良いだろ。なあ、リア。」
「そうよ。私達カップルのことそんな隠してないでしょ。」
「それはそうだな。どうどうとおかまいなく動物のようにファックしてるお前らに隠すことも無いだろうな。」
「あら、聞こえてたのね。」
「ああ、聞き耳立てるなんて趣味が悪いな。欲求不満か?まさかリアのこと狙っているのか?」
「3人でどうかしら?」
「何言ってんだよ。ノヴァにしか俺は興味ないんだ。」
「私の言ったこと本気にしてたわけ?あんなの冗談に決まっているじゃん。」
「とにかくリアと何かあったら絶交だからな。」
ノアは笑いながらトーマスの肩を叩いた。
「痛いな。やめろ!分かったから。リアは俺にとってただのルームメイトだ。」
「気をつけろよ!」
トーマスは階段を降りた。
彼は外に出て。自転車に乗った。そよ風がよく吹く。図書館に行った。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
受付係に挨拶をした。
「あの…」
「用件は何ですか?」
「古代ローマの本はどこに置いてますか?ここ上がって2階の940の棚あります。関連する文献を調べますね。」
受付係は親切に調べてくれた。
「まず写真で見るローマ史と…」
彼女は何冊かの候補を話した。
「ありがとう。」
彼は2階に行き、ローマ史の本がある本棚から数冊の本を取り出した。そして持っていった。
「これがローマ皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスか。彼がどこまで国民に寛容で慈悲深いかはこの文献じゃ分からないな。他にもハドリアヌス帝や大衆浴場を作ったカラカラ帝などがいるな。」
彼は1ページ1ページを見た。
「そなたの名前は何と言う。」
「私は平民の女、ノヴァです。皇帝をお目にかかれてとても光栄です。」
皇帝は平民の女性を暴漢から救った。
「私をそんなに特別扱いしなくても良い。私は王である前に人間だ。私達は階級などに縛られない。」
「もちろん皇帝様のことは王としてだけではなく人としても尊敬しております。」
彼は平民の彼女に一目惚れした。
「そなたはノヴァと言ったな。明日同じ時間にここに来れないか?」
「皇帝様には婚約者様がいらっしゃるんですわ。そんな密会したら私生きていけません。あのお姫様は真っ先に私を恨みますわ。」
2人は身分が違う同士恋をしてしまった。
「ヤバい。何考えたんだ。」
彼はどうやら空想の世界にふけこんでしまった。突然大声を出す彼を周りの人は見ていた。
「そろそろ帰るか。」
彼は自転車で帰ると6歳くらいの男の子が一人で泣いていた。
「君、どうしたの?こんな所で子供一人で。」
「ママとはぐれてしまったの。どうしよう。ママー!」
「君のお母さんはどんな人?ゆっくり話してみて。」
「髪が褐色色で目が黒くて、今日はオレンジの服着てる。」
男の子は泣きながらゆっくりと話した。
「このままにしておけないから一緒に探しに行こう。」
彼は迷子の男の子を放っておくことはできなかった。
「どうしよう見つからないよ。」
「大丈夫だから安心して。」
泣く男の子をなだめた。
「ん?」
男の子は何か気配を感じ取った。
「ママ?」
「誰もいないよ。気のせいだよ。」
「何だ…ママじゃないんだ。ママが来ると思ったのに。誰だったんだろう。」
「さっきのは誰でもないよ。あきらめないで。大丈夫。きっと見つかるよ。」
1時間かけて男の子の母親を探した。
「クリス!」
「ママ!」
「どこに行ってたの!」
男の子はお母さんに抱きついた。それを微笑んでトーマスは見ていた。
「もうはぐれたりはしないで。」
「この人が一緒にママのことを探してくれたのを」
男の子は彼の方を見て言った。
「ありがとうございます。」
「とんでもないです。当たり前の事をしただけですから。」
母親はお礼を言った。
「バイバイ!ママを見つけてくれてありがとう。」
「元気でね!」
「お兄ちゃんも元気でね!」
彼は少年とその母親と離れた。そして家についた。
「おい、トーマス何してたんだよ。今日はお前が料理係だろ。」
「誰がそんなの決めたんだよ。」
「俺の中で決まってるんだよ。」
ノアが言った。ローガンもトーマスのもとに来た。
「迷子の男の子と母親探してたんだ。」
「迷子になったから、男の子に家まで送ってもらったのか?」
「馬鹿にしてんのか?どう考えても逆だろ!」
「それで母親は見つかったの?」
リアが彼に聞く。
「無事に合流したよ。」
「良かったわ。それに声をかけた人がトーマスで良かったわ。そう言うすきを狙って誘拐する奴らがいるのよ。売り飛ばしたりとかしてね。」
リアは胸をなでおろした。
「そうだな。だからこそあのままには出来なかった。一件落着したから、これから夕ご飯を作るぞ。皆手伝ってくれ。」
「分かったよ。」
4人で夕飯の準備をした。
「出来上がったぞ。」
夕ご飯がテーブルに並んだ。そして一緒に食べる。
「皆で作るご飯もたまには良いな。」
「本気を出せば美味しい料理作れるからな。」
ノアが言った。
「それはどうだか。料理は毎日の積み重ねだ。まずは料理を作る頻度を増やすことだな。」
「ノア、言われてしまったわね。」
「分かったよ。ちょっとは料理をするよ。」
4人は料理を食べ終わり彼は自分の部屋に向かった。
「何が良いかな。」
彼はノヴァからのメッセージを読みながら返事を考えていた。
「ローマ史の話をいきなりしてもな。他にどんな話をすれば良いんだ。」
どう返して良いかずっと考えていた。
「こうしよう。」
彼は読み上げながら手紙を書いた。
「今僕しかいない部屋で手紙を書いてる。この前の手紙、全て読んだよ。君の辛い過去の話聞いてすまなかった。どんなに辛い過去でも前を向いて生きる君の姿はすごいよ。感激する。この前君の話をたくさん聞かせてもらったから、今度は少し僕の話をするよ。僕はこの前話したように鍵師の仕事をしてるんだ。本当は言わないでおこうと思ったけど、売れない鍵師だ。最近やっと仕事が増えて、開かずの金庫などを開ける仕事を任されるようになったんだ。僕と君は共通点があるよ。閉ざされた鍵を開けられること。僕は物理的に鍵を開けること、そして君は暗号を解いて言葉の鍵を開けること。この辞書のやりとりも僕達だけが共通することだよ。鍵を持ってるのも暗号も解読出来るのも僕と君だけ。ここは2人だけの居場所。何か辛いことがあればここでたくさん書いてくれても良いよ。僕は君の元彼を責めるつもりは無い。だけど君はそんな扱いを受けて良い人間じゃない。あと他にも話そうと思うことがあるんだ。この前の帰りに迷子の男の子を見つけたんだ。ママとはぐれてしまって号泣していた。ゆっくりとそのお母さんの特徴を聞いたんだ。そしてゆっくりと答えてくれた。しばらくするとお母さんと男の子は合流してとても微笑ましい空間だったよ。僕もいつかあんなふうな家族を持てたらとても幸せなんだろうなって思った。子供は愛する人と育てるなら養子でもかまわないよ。」
愛の言葉を彼は暗号化してたくさん書いた。
「子供じゃなくても犬や猫のように大切な友達を一緒に面倒見ることも良いことかもしれない。」
彼は手紙を書き終えた。
「次は質問の答か。」
彼はまず自分の好きな食べ物と嫌いな食べ物を箇条書きで書いた。そして彼は文章にしていった。彼はその文章を声に出して読んだ。そしてコーヒーが好きかどうかの質問に対しての答えとして1ページ目の下方をおった。




