幸せ
トーマスはノヴァをかつてやり取りしていたポストの所に呼び出した。
「トーマス、どうしたの?」
「僕と結婚してくれ。」
トーマスはノヴァにプロポーズをしてくれ。
「うん。もちろんよ。」
「本当?やったー!」
二人はポストの前で抱きしめあって、キスをしあった。
「ねえ、このポストこのままにしない?」
「そうだね。このポストは僕達が出会ったきっかけだからね。」
「この鍵も大切にとっておく。二人だけの大切な鍵だからね。」
「僕も今持ってるよ。もしかしたら違う誰かがやり取りしてるのかな?」
一緒に鍵を開けた。しかし中には何もなかった。
「暗号でやり取りしていたカップルなんて世界のどこ探しても私達くらいしかいないよね。トーマスと会えたのは神様からの贈り物だと思う。」
「そうだね。このポストを使えるのは僕達だけの最高特権なのかもしれないね。」
「権力者になった気分?」
「そうじゃないけど。特別感を感じるんだ。思いもよらぬ方法で思いもよらぬ出会い方をしたことに。」
彼はポストの鍵を閉めた。
「もうこのポストは使う必要ないね。」
「待って最後に記念を残しておきたいの。」
「どうやって?」
「ポストに私達のイニシャルを書こうよ。」
「良いね。もちろんだよ。」
彼らは油性マジックで自分達のイニシャルと日付を書いた。
「良い思い出ね。」
彼らは家に帰宅してトーマスの部屋に行った。
「トーマス、愛してる。」
「ノヴァ愛してる。」
二人は抱きしめ合う。お互いの温度を身体で感じる。二人分の身体の熱さ。
「君のような女性は他にいない。最初で最後の女性だよ。」
二人はキスをし合う。口の中で空気を感じ合う。お互いの背中を触り合う。手は色んなところに触れる。息で快感を感じ合う。
「愛してる。」
「僕も愛してる。」
愛の言葉が交差する。
「ベッドに行こう。」
2人の服は床に落ちて身体と同じように重なり合う。ベッドが少しばかり揺れる。
「ノヴァ!」
「トーマス!」
「愛してる。」
「私も愛してる。」
二人は愛を語りながら抱きしめ合う。二人はお互い激しく動く。
「ノヴァ!」
「トーマス!」
二人の声は部屋中に響き渡った。そして二人だけの身体の儀式は終わる。
「ノヴァ、痛くなかった?」
「大丈夫だった。最高だった。」
また二人は抱きしめ合う。
「ねえ、いつかここを引っ越さない?私、家族が欲しいと思うの。」
「そうだね。僕も君と同じだよ。一緒に家庭を築きたいと思うんだ。」
二人はまたキスをしあった。そしてシャワーを浴びた。
トーマスは依頼を受けた。
「また来ました。鍵師のトーマスです。」
「また来てくれたわね。」
いつもの高齢女性だった。
「今日はここに鍵を取りつけて欲しいのよ。」
「分かりました。」
彼は言われる通り鍵を取り付けた。とても慣れた手つきだった。
「いつもありがとう。」
高齢女性はいつものように笑顔だった。
「実は今日は旦那との結婚記念日なのよ。だからこの後たくさん料理を作るつもりだわ。息子や孫達も来るのよ。良かったら一緒に来ないかしら?」
「良いんですか?」
「もちろんよ。あなたにはたくさんお世話になっているんだから。」
「そう言えば、僕は前から好きだった女性と結婚することになりました。プロポーズは僕の方からしました。」
「あなたよくやったわね。」
「このチャンスは逃してはいけないと思ったので。」
「幸せに。」
高齢女性はトーマスのことを祝福した。
「そうだ。パーティーにはぜひ彼女も呼んできなよ。」
「分かりました。」
彼は鍵の仕事はたくさん依頼が来るようになった。そしてたまにメディアでも彼のことを取り上げられるようになった。
「依頼されたので来ました。トーマスです。」
さらに彼は鍵などの販売などもし始めた。仕事は順調にいった。
トーマスとノヴァは別の所に引越して行った。引っ越した先はノアと近いところだった。徒歩で20分でノアの所まで行ける。
「さようなら。」
彼は引っ越す前に本棚を10分間見つめた。
「トーマス、話したいことがあるの。」
ある日ノヴァがトーマスに声をかけた。
「ノヴァ、どうしたんだ?何か良い知らせなのか?」
「そうよ。」
「教えてくれ。」
「私妊娠したの。」
「本当か?」
「うん。」
「嬉しいよ。」
彼は喜んだ。感動で涙も流した。
「私もあなたとの子をみごもって嬉しい。」
二人は抱きしめ合った。
「産まれるのは男の子かな?女の子なのかな?」
「私は女の子のほうが良いわ。」
「そうか。僕はどちらでも嬉しいよ。」
「きっとこの子が産まれたらあなたのような鍵職人になるんじゃないかしら?」
「どうだろう。君のような歴史や世界の文化が好きな子になるんじゃないかな?」
「そう考えるととても楽しみだわ。」
「君が出てくるのを待ってるよ。」
ノヴァはトーマスと一緒に膨らんだお腹を触った。
「この子は神様がくれた大事な贈り物よ。」
数カ月後ノアとリアの間に男の子が産まれた。
「出産おめでとう。」
「ノア、おめでとう。」
「リア、おめでとう!」
二人をお祝いする言葉でいっぱいだった。
「ノア、リア、おめでとう。」
トーマスとノヴァは二人に近づいた。
「トーマス、ありがとう。」
「名前は何ていうんだ?」
「この子の名前はトムだ。」
「良い名前だな。」
トーマスは自分の子供を抱っこした。
「可愛いね。」
皆で二人の子供を見て微笑んだ。
「お前もパパになってしまったな。」
「そう言うお前もパパになるんだぞ。」
「そうだな。ノヴァとの子が産まれるのが楽しみだな。」
「ある程度大きくなったら一緒に遊ばせたいな。」
「そうだな。お前の子供だからわんぱくだろうな。」
お互いの生活が変わってもトーマスとノアの仲が途絶えることはなかった。むしろ新しい絆のようなものが生まれた。父親としての結束だろう。
「トーマス、この子の性別が分かったの。」
「どっちなんだ?」
「女の子よ。」
「僕達の間に娘が出来るのか。それはすごい楽しみだな。」
「名前のことなんだけど。」
「ジョセリンはどうだ?」
「そうじゃなくて、名前は私が決めて良い?」
「僕が決める名前は嫌なのかな?」
「そうじゃなくて私が名前つけたいの。この子にふさわしい名前を。」
「何か候補はあるのか?」
「何個か思いついてるけど、まだ決まらないわ。」
ノヴァは名前を考えた。
「他になんか良い名前ないかな。」
彼は名前を探したが他に思いつかなかった。
「トーマス、この子にふさわしい名前が思いついたわ。」
「どんな名前なんだ。」
「ヴィオレッタよ。この子にぴったりな名前だと思うの。スミレや紫という意味よ。この名前が良いの。」
「君がそんなに言うならヴィオレッタにしよう。」
「この子にふさわしい名前はやっぱりヴィオレッタしかないわ。他の名前が思いつかなかったの。ヴィオレッタ、お腹から出る日を楽しみにしてる。」
二人はまたお腹を優しく触る。
「産まれそう。」
出産に彼は立ち合った。
「お母さん、あと少しですよ。頑張ってください。」
ノヴァは必死だった。
「あと少しですよ。」
そして彼女からは女の子が産まれた。
「元気な女の子ですよ。」
「ヴィオレッタ、ずっと待っていたわ。」
彼女は感動のあまり涙を流した。彼もヴィオレッタが産まれる様子を見て涙を流して感動した。
「生まれてきてくれてありがとう。ヴィオレッタ。」
1週間後、ノヴァは病院を退院した。
「おめでとう。」
「トーマス、おめでとう。」
「おめでとう。」
ノアとジョンはトーマスのことを祝福した。リアは少し大きくなった男の子を抱えていた。
「いつか一緒に遊ばせるから。」
ノアとリアまでヴィオレッタの成長を見守った。
「パパ、ママ、一緒に遊んで。」
ヴィオレッタが成長するたびに皆喜んだ。
「トム、ボールで遊ぼう。」
成長するとトムと遊ぶことも多くなった。
「トムも大きくなったね。」
トムとヴィオレッタは1歳差だった。
「取れない。もっと優しく投げてよ。」
「これも取れないの?」
「何でそんなこと言うの。こんなの取れないよ。トムのことなんか嫌いよ。」
トムとヴィオレッタは度々喧嘩することはあった。
「トムのこと嫌いなのか?」
「うん。だってボールを優しく投げてくれないから。」
「トムもそう言うつもりなかったんだよ。」
「パパは私の味方じゃないの。」
「パパはトムとヴィオレッタの味方なんだ。トムもきっと分かってくれるよ。ちょっとからかっただけだよ。」
「トムと遊びたくない。」
「そんなこと言ったらトムが悲しむぞ。」
「良いもん。トムの前では悪い子でいても良いもん。」
しばらく喧嘩するとまたヴィオレッタとトムは仲直りすることが多かった。
「ヴィオレッタ、見ろ。」
「何か面白いもの見つけたの?」
「こんな所にポストがあるぞ。」
「何でこんな所にあるの?」
「面白いよな。」
たまたまかつてトーマスとノヴァがやり取りしていたポストを二人は見つけた。
「何か書いてあるよ。」
「どういう意味なんだろう。」
「分からない。何だか不思議だね。」
「私達も何か書いてみる?」
「やめておこう。何だかパパとママに怒られそうだから。」
トーマスとノヴァがやって来た。
「パパ、ママ、こんな所にポストを見つけたよ。何でこんな所にあるんだろう?トムと一緒に見つけたの。」
ヴィオレッタが二人に言った。
「ここにあるの。」
「本当だ。何でなんだろう。」
トーマスはヴィオレッタの前でわざと知らないふりをした。
「何でここにあるかパパも分からない。」
「何のためにあるのかな?ママ。」
「ヴィオレッタ、多分あのポストは愛のポストよ。かつてあそこで男の子と女の子がラブレターを交換してたんだと思うよ。」
トーマスとノヴァはポストを見て微笑んだ。彼らがかつて書いたイニシャルは消えていなかった。
「ラブレター?」
「恋の手紙のことよ。」
「恋って何?」
「恋って言うのはね、その人がいなくなるとドキドキした気持ちになることよ。ヴィオレッタも生きていれば恋をするのよ。」
「そうなの?私も恋ってするの?」
「今はなくても、もう少し大きくなったら恋すると思うよ。」
ノヴァがヴィオレッタに微笑んだ。ヴィオレッタは小学校に入学して、しばらく時が経つと卒業した。そして中学校に入学した。長い月日がたって、ヴィオレッタは13歳になった。ノヴァが言うように恋する年齢になった。そして好奇心旺盛になった。




