ポスト
トーマスは公園に行く。
「本当にやるのか?」
ノアが彼に聞いた。
「やめとくなら今だな。」
「挑発しても無駄だ。俺はやると決めたらやり通すから。」
彼は頑固だ。
「今さら辞める理由などない。」
彼はポストを公園の木々の間に設置した。
「こんな所にポストがあるのは何だか変だな。」
「このポストの中を見れるのは俺とこの鍵を受け取った女性のみだ。」
二人に鍵を見せながら話した。
「用事があるから行くわ。」
「俺も。」
二人はは彼のもとを離れた。
「次は鍵だな。」
彼はポストに南京錠を設置した。ペアの鍵も開くかどうか確認した。そして辞書と暗号表を一緒にポストに入れた。
「これで大丈夫だな。」
彼は公園内を散策した。
「何してるの?」
トーマスはボールを拾い、小さな子供達に優しくボールを投げた。
「ちょっと散歩してるんだ。」
「何か手に持ってない?」
「君達が喜ぶものじゃない。」
「何だ鍵か。」
「これって宝箱の鍵とか?」
「宝の鍵?面白そう!」
「残念ながらそんな夢のあるものじゃないよ。」
「つまらないの。ドッジボール再開ね。」
子供達は親の元に行ってドッジボールをした。
「鍵をどの辺に置くか。」
彼はポストの鍵を人通りのある所に置こうとした。
「ここだと何か違うな。」
彼は鍵を拾って移動させる。
「今度はここにするか。」
鍵を別の場所に移動させた。しばらく離れた所から様子を見た。
「もうどこにいたのよ!」
「木の前にいろって言ったからここに来たんだろ。」
「私は大木の前で集合って言ったのよ。」
「俺にとってこの木も立派な大木だ。」
「大木はあそこの木のことよ。」
「美味しい料理を食べて機嫌直そうぜ。」
「そうね。今日はたくさん食べるつもりよ。」
しばらくしても誰かが広く気配が無かった。
「何この鍵?」
「得体のしれない物は拾わないほうが良いわ。放置しよ。」
「そうね。」
鍵を見かけても通り過ぎる人達ばかりだった。
「何するんだよ!」
思わずトーマスは声を出した。ある男性が鍵にすら気がつかず蹴飛ばしてしまった。彼はまた鍵を最初の所に戻した。
「何この鍵。」
「貸して。」
一人の少年は遠くに鍵を投げ飛ばした。
「これでよし。行こうぜ。」
少年達は何も無かったかのようにその場を離れて行く。
「おい…鍵を見失った…」
彼は鍵がどこにあるか探した。
「もうどこに行ったんだよ。」
探しても鍵は見つからなかった。
「もうこんな時間。」
腕時計を見ると夕方の時間帯になっていた。
「帰るか。」
彼はあきらめて帰宅することになった。自転車に乗って鍵のことをずっと考えた。
「どうだ?早速変化はあったか?」
「特に何も変化は無い。」
「辞書で会話ってどうするんだ?」
「特殊な暗号で会話をするんだ。1日の会話はまず1回だけだ。」
「そのうち相手にばったり会うかもな。」
「もうそろそろ寝る。」
彼はベッドに横たわり気がついたら眠りに就いた。
朝になると2羽の鳥が鳴き声を出して飛んでいた。一方の鳥がもう1羽の鳥を追いかけながら飛んでいた。
「起きろ!」
「もう起きてるから大声を出すな。」
彼は朝食を食べた。
「朝から汚いもの見せるなよ!クソが!」
「悪い。」
「ご飯を食べたらポストの様子を見に行く。」
「運が良ければ返事があるかもな。」
「どんな相手でも良い。」
辞書での会話にはルールがある。
「ローガン、ノア、早速様子を見て来る。」
「1件も連絡なさそうだと思うけどな。」
見開きにメモを入れる。そのメモには相手がした質問の答えと最近の近況や相手への質問を書く。質問がはいかいいえなら答え方がある。はいの場合は1ページ目の上方を折る。
「やっとついた。」
いいえの場合は1ページ目の下方を折る。これらがはいといいえのサインだ。
「昨日のお兄さんだ。こんにちは。」
「やあ、今日も宝の鍵は持ってないよ。」
挨拶をするのにも合図がある。こんにちはの場合は3ページ目を3分の1折る。
「お兄さんはどんな宝を探してるの?」
ありがとうの場合は3ページ目にピンクの付箋をつける。そして辞書から飛び出るように貼る。ありがとう以外に何かの感謝の思いがあれば3ページ目にメモを挟み。赤ペンで感謝のメッセージも書いても良い。
「心を満たすための宝を探してる。君達も生きれてれば必要になる宝さ。」
「今まで恋人いた事ないでしょ?愛を知らないのに、宝を探すの?」
「そう言うことで馬鹿にするのは良くない。色んな事情があってパートナーいない人なんて世の中たくさんいるんだ。」
「ごめん。少しからかったんだ。」
ごめんなさいや申し訳ない気持ちを表す場合は3ページ目に青い付箋を貼る。
「今日はドッジボールか?」
「サッカーをするよ。いつものようにママがいるから。」
一人称を表す場合は星印で表す。そして2人称を表す場合は台形で表記する。さらに3人称の男性系はハート型だ。女性系の場合はハート型の中にWを書いて表す。複数系にする時は斜め下に斜線を引いて表現する。
「カギはどこにもなさそうだな。」
他にも文法上のルールがある。名詞の所有格は真ん中に線を引く。必要があれば↓矢印で対格、↑矢印で与格を表しても良い。他にも前置詞にも印がたくさんある。そして動詞はそのまま単語を使って良いが、名詞は絵で伝えないといけない。形容詞は使う単語のページに付箋を貼ってその単語に線を引く。
「鍵は俺のも合せて2本は作った。」
数字はギリシャ数字で表す。
動詞の時制は過去形は赤線、未来形には青線だ。これらの会話のルールは彼がポストに入れた表に全て書かれている。メッセージを書く間は表も辞書も持ち帰っても良い。これほどのことが思いつくなら稼げるビジネスに挑戦した方が良いが彼はあまり利益を追求しまくる人物ではない。お金で成功するより一緒に入れるパートナーと入れれば彼は幸せだ。野心があるとすれば恋人を作ろうと言う目標があるくらいだ。
「さっそく返事が来てると良いけどな。」
ついに彼はポストまで近づいた。ゆっくりと手を伸ばす。鍵を取り出して、ゆっくりと未知なるものに遭遇するかのように鍵を開ける。
「いよいよだ。」
そしてポストが開く。開くと中には辞書と表が入っていた。そして彼は辞書を手に取り見開きを開いた。開くとメモが入っていた。誰かが鍵を拾って返信した。これが彼とある女性の辞書会話のはじまりだ。
「持って帰るか。」
彼は自宅に帰って机に辞書と表をおいて、メモを解読した。そして彼はメモを読み上げる。
「「道に落ちていた不思議な鍵を拾ったらメモがついていたので、メモに誘導されながらポストの所まで着きました。こんな不思議な暗号でやり取りするなんて最初は何だか馬鹿げていると思いましたが、何だか面白そうと思い返事をさせて頂きました。私の名前はノヴァです。24歳です。もちろん私は女性です。私はトロント市内に住んでいます。趣味は文章を書くことと暗号を解読すること。そして歴史について勉強したり、歴史番組を見ることです。私もちょうど話相手になる男性を探していました。あなたはどんな顔をしていてどんな気持ちでこのポストを設置したか分かりませんがあなたと何だか話したいです。きっと鍵を拾った時からあなたに興味があるのかもしれない。いや何だか鍵を拾ってなくてもあなたに私は惹かれていたのかもれしません。だけどいきなり深い関係になるのは早すぎる。だからあなたのことをもっと知りたいです。暗号を使ってあなたのことを教えてください。あなたはどうしてパートナーを探してますか?返事を待ってます。」って書いてある。返事が早いな。」
表を理解するのに時間がかかるが、ノヴァは理解力があって、すぐに返事を書けた。
「今日は良い日だな。」
彼はノヴァの顔が分からなくても返事を貰えたことをとても嬉しく思った。
「トーマス、上機嫌だな。まさか返事でも来たのか?」
ローガンが聞く。
「何で分かるんだ?」
「見てれば分かるだろ。」
ノアもトーマスに近付いて言った。
「相手の顔写真はあるのか?」
「そんなの無い。」
「顔が誰だか分からない相手とやり取りしてるのか?やめといたら?実際に深い関係になってもお前が冷める未来が見えるけどな。」
「確信もないのに何故そんなことが言えるんだよ。ローガン、最近お前俺のやることなすこと否定的にとらえるよな。これは俺の人生だ。俺に決定権がある。お前は俺の何なんだ?」
「否定的に聞こえるだろうけど、お前のためを思って言ってる。確かに俺はお前の親では無いが、一緒に暮らすルームメイトだ。一緒に暮らしてるなら俺の意見も少しは聞くべきじゃないか?」
「ローガンの言うように俺なら顔がよく分からん相手とやり取りするのは何だかモヤモヤするな。結局会ってしまったら理想と現実が違う可能性もあるからな。実際にあったのが80歳のおばあさんだったらどうする?」
「いや待って。明らかに80代のおばあちゃんの書くような文章じゃないから。俺と同じで正真正銘の24歳だ。」
「そうだと良いけどな。」
「それで具体的にどうやってやり取りしてるんだ?」
トーマスは二人にやり取りの仕方を数十分かけて説明した。
「おい、説明だけでそんな時間かかるのか?」
「そんな面倒臭いことに付き合うもの好きな女もいるもんだな。」
「俺だったらやり取りする時点で面倒臭すぎて諦めるな。」
「そう思うかもしれないけど、奇跡が起こったんだよ。」
「あっそ、それは良かったな。」
ローガンもノアもトーマスに無関心な様子だった。彼は呆れて机に向かう。ノヴァに返すに返事を考えていた。
「まずは君からの質問の答えを書くね。」
声に出しながら彼は返事を書いた。
「僕がこのやり取りをはじめたきっかけは今年中にパートナーを作るためなんです。僕は生まれてから中々女性と縁がなくて誰とも付き合ったことないです。ルームメイトと暮らしてますが、彼らには今年中に彼女を作ると宣言しましたが、人生はそんな上手くいかなかったです。そこで思いついたのが思い切ったことをしてこれからパートナーになってくれる人とやり取りをすることです。やり取りを通して深い関係になりたいです。」
彼は辞書の会話をはじめたきっかけを書いた。そして続けて彼は自分のことを書いた。
「今このメッセージを書いてるのはトーマス・グレアムです。知ってる通り独身で24歳の男性です。趣味はゲームをすることです。他には図書館で本を読んだりすることです。暗号解読はそれほど得意じゃないですが、仕事で鍵師をしています。鍵穴を設置したり、開かない鍵を開けたり、最近やっと仕事を貰えるようになりましたが、そんなに稼ぎはよくはありません。ローガンとノアと言うルームメイトととも暮らしていて、ローガンとは衝突することもありますが大嫌いと言うわけではないです。ローガンはすぐ人の人生に口出ししたり否定的になったり、夢を壊すようなことばかりをしますが、僕が体調を崩した時に誰よりも献身的に看病してくれたりいざという時に助けてくれたりする良い所もあります。ノアはよくバーやパブとかに行って飲んだくれてる生活を送ってます。はっきり言えば自堕落な怠け者です。だけど良い意味でも悪い意味でも自他ともに寛容な所があります。そしてそんな彼にも彼女が出来ました。リアという女性でノアと付き合うようになってうちのルームメイトになりました。いきなりルームメイトが増えるもんだから少し家が狭くなりました。いつか君とも空間を共有したいです。ちなみに今住んでいる所はだいぶ築年数が経っている家です。」
彼は自分の弱さを包み隠さず全て彼女に伝えた。
「ノヴァ、君は前に恋人はいましたか?もし話せればそれはどんな人でしたか?」
彼は返事を書き終わった。
「何してるんだ?」
「おい、ノックをしてから入れよ。」
ノアが扉の向こうにいた。
「別にお前の一人のお遊びとか興味ないけどな。」
「いきなり入ると泥棒か何かだと思うだろ。それより返事を書き終わったからこれからあのポストまで行ってくる。」
リアも部屋の方に来た。
「何してるの?」
「トーマスのやつがこれからはじめてできる彼女に返事を返すんだってよ。」
ノアとリアはドアの前でキスをする。
「どいてくれないか?」
2人はトーマスの言うことを無視した。彼はしょうがなく2人を押しのけて部屋を出た。そして自転車で公園まで行く。公園についてポストの鍵を開けた。そしてポストの中に表と辞書を入れた。そして鍵を閉めて、ポストから離れて行く。誰かが来ないか見ながら離れるが誰も来る気配は無かった。




