対面
トーマスは思わぬ形でノヴァと会うことになった。ノヴァは手足を拘束されていて何も出来ない状況だった。
「待ち遠しかったわ。愛しのトーマス。」
「トーマス、助けて。この人にいきなり誘拐されて監禁されてるの。」
「黙れ!このお邪魔虫。」
ヘーゼルはノヴァに怒鳴った。
「そう言えば、私ダーリンの秘密たくさん知ってるんだよね。」
「ノヴァを今すぐ解放しろ。そうじゃないとお前にナイフを刺すぞ。」
「私、死に方よく分からないんだよね。」
ヘーゼルはケタケタと笑う。
「このノヴァと言う女を殺したら、少しは死に方分かるかもしれないわ。」
「あなた、どうしてそんなことするの。どうして人の痛みが分からない。こんなこと一生後悔する。罪を犯したらどんなに逃げても警察に捕まる。だからこんなことはやめて。人を殺すよりもっと楽しい人生があるでしょう。」
「うるさい。」
ヘーゼルはノヴァをビンタした。
「監禁された分際でよくそんなこと言えるわね。あんた馬鹿なわけ。うけるんだけど。言っておくけどあんたは最初から存在しないようなものなのよ。殺したところで誰も気にかけない。あなたはトーマスが見ている幻覚なのよ。」
ヘーゼルはまたノヴァを叩いた。
「やめろ。彼女は幻なんかじゃない。ちゃんと生きてる人間なんだよ。身体も心も痛みを感じる人間なんだよ。お前が都合良く幻の存在として僕の彼女のことをみなしてるだけ。」
トーマスは言った。彼はナイフを握った。
「まだ幻の存在に浮気してるつもり?良い加減現実を見なよ。トーマス、あなたが見てるのは幻なのよ。実体なんかじゃない。お願いだから目を覚まして。あなたの目の前から幻を消してあげるように協力してあげるの。」
ノヴァは縛られつつも暴れまわった。
「最後のあがきかしら?幻だからあなたは存在してはいけないのよ。」
「人間じゃないのはあんたのほうだろ!」
彼はナイフを持って大声で叫ぶ。
「人の痛みが分からないやつは人間なんかじゃない。あんたこそ幻のような存在なんじゃないか?いや幻より価値のない存在だな。」
「トーマス、酷い。どうして現実が分からないの。どうしてこんなに愛してるのに。この女よりずっと愛してるのにそんなに幻を追い続けるの?許せない。まずはあんたからよ。」
ナイフを持って彼女は彼に襲いかかろうとした。ノヴァを守りつつ彼は力づくで女に抵抗した。
「許せない。私のほうがあの女よりずっとふさわしい女なのに。許せない。こうしてやる。」
「こんなことはやめろ。」
「そうだ。駆け引きでもしない?私に愛してるって言ってキスして抱きしめて、女の前でエッチもして最後は一緒にナイフで殺してあげたらあなたを生かしてあげる。そして幸せな家庭を築くのよ。ここまで来たら私を愛するのと彼女を愛するのどっちにメリットがあるか分かるよね?そこまで馬鹿ではないでしょうね?トーマス。あなたがこんなに欲しいのに。さあ選んでよ。」
彼は必死になって抵抗して女にナイフを刺そうとする。ノヴァはロープを解こうと暴れまわった。椅子の音とトーマスとヘーゼルの声が響き渡る。
「もうやめて!殺すなら私を先に殺して。」
「ノヴァ、そんなこと言うな。俺がこのヘーゼルと言う狂った女から守る。」
「殺してやる。」
「相手は私よ。」
ノヴァは手足のロープを解いて、ナイフを向けた。
「お願いだからこんなことはやめて。殺すことなんてしないで普通に生きようよ。こんなことしても何かを失うだけで何も得られない。」
「どいつもこいつもうるさい。」
ヘーゼルは狂った勢いで暴れて、叫ぶ。
「うっ!」
ノヴァはナイフでヘーゼルのことを刺した。
「嘘よ。そんな馬鹿な。」
ノヴァはナイフから手を離して動揺した。刺しても女は苦しみながら暴れていた。ノヴァの悲鳴が響き渡った。
「これがあんたが言ってた痛みなのね。」
ヘーゼルは苦しみながらも笑いながら喋った。
「これで私も人間ね。幻なんかじゃない。」
「そうよ。あなたも私も生きてる人間なのよ。」
ノヴァはヘーゼルに向かって泣きながら言った。彼女は泣きわめく。彼女をトーマスは抱きしめた。
「もうこれで終わったんだ。」
ノアも地下に来た。
「トーマス、これは何の騒ぎだ。人が死んでる。」
「俺がこのストーカーを殺したんだ。」
トーマスはノヴァをかばった。
「トーマス、私が…」
「良いんだ。君は悪くない。すまなかった。僕がもっと彼女の存在に気がついたらこんなことにならなかったんだ。」
「トーマス…」
抱きしめ合うトーマスとノヴァを彼は見た。
「泣いてる場合ではないぞ。どんなサイコパス女でもお前が殺したことになる。捕まる。どうするつもりなんだ?」
「一緒に埋めるのを手伝ってくれ。」
「こう言う汚い仕事はいつも俺が一緒だな。」
トーマスとノアとノヴァはヘーゼルの死体を地下から運んだ。
「どこに埋めるんだ?」
「分からない。どこかに埋めるしかない。そのままにするよりずっと良い。」
彼らは茂みの中で土を掘った。どんどん深く掘って行く。そして彼女の死体を土の中に入れた。どんどん土をかぶせていく。
「これで良いんだ。しょうがなかったんだ。」
ノヴァは黙って見ていた。
「今日は僕の所に泊まって良い。ゆっくり休んで欲しい。」
トーマスはノヴァに言った。
「帰ろう。ノア、巻き込んでしまったな。」
「お前とはそう言う運命みたいだな。」
彼らは数十分歩いて3人は車に乗った。そして走行していく。
「一回俺の家でシャワーを浴びろ。この格好だと怪しまれる。」
彼らは順番にシャワーを浴びて、新しい服を着た。
「これで完璧だな。今日来た服は俺の家で洗っておく。」
トーマスとノヴァはノアとリアの家にその日に着ていた服を洗ってもらった。
「トーマス、思いもよらぬかたちだったけど、彼女と会えて良かったな。」
「ノヴァがこうやって生きてるのが僕はとても嬉しいんだ。」
「私もトーマスが生きてて良かった。生き残れて良かったってはじめて思った。」
二人は抱きしめあった。
「帰ろう。」
彼らは車で家まで行った。
「ジョン、ヘザー、カロリーナ、戻って来た。」
声とともに3人が玄関の方までやって来た。
「トーマス、この女性はまさか。」
「そう。紹介する。これが僕の彼女のノヴァだ。3ヶ月間紙でやり取りしていたんだ。今日ようやく会えたんだ。こんな素敵な女性と会えて僕はとてもこの上なく幸せ。」
「私はノヴァよ。トーマスの彼女よ。今日会って私も幸せよ。皆よろしく。」
「よろしくな。」
「よろしくね。」
「よろしく。」
カロリーナは不機嫌そうにノヴァと握手をした。
「トーマス、おめでとう。今日は会えた記念にパーティーか何かでもするか?」
「そうだな。」
彼らはトーマスとノヴァが出会えたお祝いをした。
「どっちから最初は手紙を送ったんだ?」
「最初は俺からだよ。」
「そうなんだ。」
「不思議なメッセージに私は惹かれていったの。文章を見てると何となく彼の優しさが伝わった。とても優しい人なんだと思った。」
「君は優しいだけじゃなくて、博識で何でも知ってて、色んなことに興味を持ってて、趣味もあって、まさに僕が望んでた理想の女性だと思う。」
「トーマス、褒めすぎよ。」
彼女は彼を見て微笑んだ。
「良かったね。」
カロリーナはとても不機嫌そうでつまらなそうな表情を浮かべた。
ヘザーはカロリーナの部屋に入った。
「カロリーナ、あんた不満そうな顔ね。どうせトーマスのことでしょ?」
「ヘザー、勝手に部屋に入らないで。放っておいてよ。」
「分かりやすいんだから。トーマスのことが好きでモヤモヤしてるんでしょ?」
「正直に言うとそうだわ。素直に祝福できないの。あんたもジョンが他の女性と上手くいって私のような状態になったら不機嫌にならない?」
「そんな例え話とか私達は考えないわ。そんな不幸な想像なんてしていたらますます不幸になっていくでしょ。」
「あんたは私を慰めに来たの?それとも馬鹿にしに来たの?」
「少なくともあんたの様子が気になっただけよ。これからどうするつもり。」
「ヘザーには関係ないことでしょ。」
「そうどがらないでよ。あんたの性格だから2人の中を邪魔することも出来そうになさそうね。」
「そんなことするつもりない。だけどまだ自分の中で納得いってないだけなの。」
「その気持ちが何とかなったら今度あんたに良い人を紹介してあげる。」
「今はトーマスのことで頭いっぱいなの。」
「そこまで重症じゃないようね。その気になったらいつでも私に言って。」
「分かった。」
ヘザーはカロリーナの部屋から離れた。
次の日の昼、電話が鳴り響いた。
「トーマス、電話に出てくれ。」
「俺は電話係かよ。」
彼は受話器を上げる。
「もしもし、トーマス?」
ノアからの電話だった。
「ノア、何のようだ?」
「お前とノヴァの服洗っておいた。」
「ありがとう。リアの調子は大丈夫か?」
「動き回れるくらい元気だ。元気な子が産まれそうな感じがするな。」
「それは楽しみだな。お前もパパになるだな。」
「ノヴァは大丈夫なのか?」
「昨日のことをまだ引きずっている。」
「あんなこと目の前で起きたら無理もないだろ。これから彼女を守ってあげろよ。」
「当たり前だろ。パートナー同士なんだから。ノア、元気でな。」
彼は電話をきった。
ノヴァはトーマスの部屋にいた。
「トーマス。」
「ノヴァ。」
二人は抱きしめ合う。
「聞きたいことがあるの。」
「何?どんなこと?教えてよ。」
「どうしてあの時、トーマスがヘーゼルのことを刺したって嘘をついたの?」
「君のためなんだ。君のためなら何でも出来る。君が人殺しとしての眼差しで見られるのが嫌だった。それなら僕がやったことにした方がずっとマシだよ。」
「トーマス、ありがとう。」
「あの時のこと、まだ後悔してる?」
「うん。まさか殺してしまうと思ってなかったから。彼女も私と同じ、痛みを感じる人間だから。どうしてあんなふうになったのか想像してしまうの。」
「どんな生い立ちであれ、ノヴァにあんなことをするなんて許せない。あの女のことは深く考えなくて良い。一緒に忘れよう。僕達にはまだ未来があるんだよ。だから一緒に楽しい人生を歩もうよ。」
窓から太陽の光が照らした。太陽は部屋の中にある2体の人形をよく照らした。
ノヴァとトーマスは未来に進んでいく。




