変化
トーマスは隠し扉を開けて地下に変化がないことを確認した。そしていつも通り何もなかったかのように生活を送る。
「ローガン、お前は最初から存在してなかったんだ。だから俺は何も悪くないんだ。」
彼は本棚に向かってそう言った。
「ノア、おはよう。」
「トーマス、おはよう。こんな朝早くに何をしてたんだ?」
「ちょっと地下に行ってた。」
「そうか。」
「気になって一度行ったけど、もう二度とあの部屋には行きたくない。あの時の記憶がまたやって来ると思うから。」
「そうだな。俺の場合リアも巻き込みたくないからな。」
「またローガンのお母さんが来た時は知らないふりをつらぬいてくれ。」
「当たり前だろ。俺まで警察に捕まるのは嫌だからな。」
彼は部屋にある机に向かってノヴァへのメッセージを書いた。
「ノヴァ、またメッセージありがとう。あと少しで僕達会えるね。とても楽しみだよ。ノヴァとやり取りしてるおかげで最近は何やっても上手くいくような気がするんだ。すごい前向きになるような気持ちというか。君がすすめてくれた本も僕は読んでるよ。恋愛小説はよく中学生の時にたくさん読んでたよ。親に決められた相手から逃げて自分の好きな人と出会う話。こう言う話、僕も好きなんだ。また今度おすすめの小説や本があったら教えてくれたら嬉しいよ。君と出会うようになってから歴史とか文化について興味を持つようになった。僕は君に影響されたんだ。もちろんその影響はいい影響だと思う。」
そして彼は質問を書く。
「ノヴァには何か秘密にしてることはある?もし書きたくなかったら書かなくても大丈夫だよ。」
彼はメッセージを書き終わる。
「辞書の彼女とは結構続いてるんだな。」
「当たり前だろ。俺は彼女のことを信じてたんだよ。」
「まさか映画のような奇跡が起きるとはな。」
「リアとはどうなんだ?」
「順調にやってるよ。今度少し遠くに旅行に行くつもりだから。」
「羨ましいな。」
「たまにはそう言う変化のあるデートも必要なんだ。」
「俺もノヴァとどこか旅行に行きたいもんだな。」
トーマスは公園まで行きポストを開けて、辞書と暗号の表を入れた。
「うわ、何だよこれ。」
鳥の糞がトーマスの頭に落ちた。
「クソ、最悪だ。」
彼は家に帰って頭を洗った。
「トーマス、何ずっと頭洗ってんだよ。」
「鳥のうんこが降ってきたんだよ。ついてないぜ。」
「お前不運だろ。」
ノアとリアはトーマスの様子を見て笑った。
「ノア、リア、笑うな。好きでこんな目にあったわけじゃないんだぞ。」
「分かってるって。中々生きてて遭遇しない状況だからさ。」
「奴らは絶対わざと俺のことを狙った。」
「俺が鳥ならもっとお前に落としてるだろうな。」
「あー、もう最悪だ。」
彼はやっと頭がきれいになった。
数日後彼はいつもの公園に行った。
「今日は鳥が多いな。」
ポストの方に近づくと鳥の糞が少しついていた。
「汚いことする鳥だな。」
ポストをきれいにした。
「二人だけの空間を汚すわけにはいかないからな。」
彼はポストの中を確認すると辞書が入っていた。家に帰宅してノヴァからのメッセージを読む。
「返事ありがとう。昨日はフランス革命の歴史書を読んでたよ。フランス文化の根底の一つを作った出来事だと私は思ってる。マリー・アントワネットのような女性はきっと気がつかない所で民衆の怒りを買うタイプの女性だと思う。王族や貴族階級の当たり前は労働者階級の当たり前じゃないから。他の国や私達の国や今の時代でもきっとそれは同じだと思うんだ。私は彼女のような女性にはなれないし、貴族階級の暮らしが羨ましいとは思わない。私は全ての人が階級とかに縛られないで自分らしく生きていけたら良いと思ってる。そんな世の中を望んでる。」
さらに質問の答えをトーマスは読んだ。
「私が秘密にしてることは特にないよ。だってもうトーマスに全て話したから。特に私が言えないことはアリシアを自殺で亡くしたことだよ。今でも後悔してる。それにそんな話家族やトーマスくらいにしか話してない。トーマスは本当に何か秘密にしてることはない。」
彼はノヴァの文章を見て少し考えた。
「秘密にしてること…あれは秘密でも何でもないんだ。最初から存在しなかった人なんだ。」
ローガンのことがふと彼の頭に残ったがなかったことにしようとした。
「コナーは今どうしてるんだろうな。」
彼はぶつぶつと独り言をずっと言った。どんどん当たりは暗くなり、部屋の中まで暗くなった。
部屋の中は暗かった。
「あれ、寝てしまったんだな。」
彼は暗い部屋の中をゆっくりと歩いた。電気をつけようとしても部屋の明かりはつかない。少しばかり月の光が指す。
「何で電気がつかないんだよ。今日は鳥の糞が頭につくし、何でこんなことばかり起きるんだよ。」
机のメッセージはなくなっていた。
「嘘だ。さっきまでノヴァからのメッセージがあったのに何でどこに行ってしまったんだ。」
彼は必死になってメッセージを探し続けた。
「どこにも無い。ノアが何かいたずらしたのか。」
ノアを問い詰めるために部屋を出ようとしたが部屋は開かない。
「え?どういうことだ。」
いくらドアノブを回しても何も反応がなかった。鍵穴を何とかしても何も解決しなかった。
「閉じ込められた。」
物で必死になって叩いたが何も反応がなかった。
「クソ、どうすれば良いんだ。ノア、聞こえるか。」
彼は隣の壁を叩く。
「ノア、聞こえるか?」
何も反応がない。
「リアも聞こえるか。」
さらに叩いても何も反応がない。
「ノア、リア、俺は今何故か分からないけど閉じ込められたんだ。どうか開けてくれないか。お願いだ。頼む。」
さらに壁を強く叩いた。
「本当に何も聞こえないのか?」
何も反応はなかった。
「クソ、どうなってるんだよ。」
壁の向こう側に大きな音が鳴った。
「ノアか?」
ノアの名前を呼んでも何も反応がなかった。
「久しぶりだね。誰か覚えてる?」
小学生や中学生くらいの男の子声がした。
「誰かこの部屋にいるのか?」
「俺がいるよ。見えないのかな?久しぶりだね。」
「もしかしてコナーか?」
「コナーじゃない。」
「コナーでしょ。他に誰がいるんだよ。」
「本当に覚えてないのか?それとも忘れたつもりになってるのか?」
「コナー、姿を見せろ。」
「しょうがない。言われたからには姿を見せるか。」
姿を現したのは背中にナイフが突き刺さったローガンだった。
「ローガン。何でここにいるんだ。殺したはずなのに。」
「どうしてだろうね。」
「幽霊となって出てきたのか?」
「何頭おかしいこと言ってるんだ?俺はまだ生きてるんだよ。お前のことが憎いからこうやって地下のプランターから出てきたんだ。」
彼は背中に突き刺さっていたナイフを引き抜いた。そしてナイフが落ちる音が部屋中に響く。
「許せない。」
「俺は悪くないんだ。お前が俺のことを脅迫して殺そうとしたから。それに階段に落ちたのも事故だったんだよ。」
「さっき殺したって認めたのに事故だって?面白いこと言うんだな。トーマス。」
ローガンとコナーの声が混ざりながらローガンは笑う。
「許せないな。俺のことを最初から存在しないものだって言うなんて。こんなにトーマスのことを愛していたのに酷いな。」
「悪いけど俺が好きなのはノヴァだけなんだ。お前とはそう言う関係をきずけないし、お前のために俺の人生をめちゃくちゃにしたくない。生きるためにはしょうがなかったんだ。お前のものになる惨めな人生なんて送りたくなかったんだ。」
「俺の存在がそんなに惨めか?そんなに最悪なのか?良いか。お前のやったことは殺人なんだよ。俺のことをサイコパス野郎かなんかだと思っているけどお前も今俺と同じ仲間なんだよ。」
ローガンはナイフを持った。
「ほら、もう一回刺してみるか?」
「一緒にするなよ。俺はお前と違ってまともなんだよ。お前と違って頭おかしくないし、好きな人のことをものだと思ったりなんかしないんだよ。」
「そう言えば俺の養母が家に来た時、お前は何してたか分かるか?」
トーマスは冷や汗をかく。
「俺を心配する良い人のように振る舞っていたよな。最高な演技を見せてもらったよ。俺の養母がいなくなればノアと作戦会議したり、俺は最初からいない存在とか言ってたな。」
「だから何だ?俺は悪くないぞ。全部お前が仕掛けたことだろ。俺は悪くないし、殺すつもりなんてなかったんだよ。それにお前が今握ってるナイフをたまたま背中に刺さったんだよ。」
「本当はわざと刺したんだじゃないのか?」
「そんなサイコパスではない。早くここから消えてくれ。」
「嫌だ。」
「部屋を閉じ込めたのもお前だろ。」
「何のこと?」
「ローガン、とぼけるな。」
「本当に知らないけど。ドアの開け方も忘れたのか?ついに頭おかしくなったのか?」
「うるさい。消えてくれ。俺が悪かった。」
「それなら最初から俺のものになれば良いのに。お似合いでしょ。お互い人殺しのサイコパスだからさ。」
「お前、人殺したことあるのか?」
「あれはしょうがなく殺したんだ。むしろ楽にしてあげた感じだよ。」
「来ないでくれ。俺が悪かった。」
彼は窓を開けようとした。すると何も暗闇が広がっていた。
「ローガン、何をしたんだ?」
「何もしてないよ。だけどこれがお前がこれから歩む道だよ。人殺しとして暗闇の中を歩き続けるお前に残された道だよ。一件月光や太陽光を照らすきれいな窓だけど、開けてしまえば暗闇そのものだ。」
ローガンの言う通り窓は暗闇になっていた。トーマスはそこに飛び込んだ。そして走る。逃げる彼をローガンは追いかけて行く。
「どうやっても俺から逃れることは出来ないよ。お前は俺をなかったものにしようとした人殺しだから。」
「もうやめてくれ。」
トーマスの息がどんどん荒くなっていく。
「ローガンやめてくれ!」
彼は転ぶとローガンが迫って来た。
「トーマス、トーマス、トーマス!!」
「うわー、来るな。」
彼は悲鳴をあげた。すると目の前にはノアがいた。
「お前どうしたんだよ。」
トーマスは廊下に寝っ転がっていた。
「あれ、何で俺はこんな所に。」
「こっちも聞きたいけどな。酒とか飲んで、酔っ払ったんじゃないか?」
「俺はお酒とかを飲むようなタイプじゃない。」
彼は暗い部屋に戻って無言で壁を見つめた。しばらくしてノヴァからのメッセージを見て安心した。




