目的
部屋の外にはローガンがいた。
「何してるんだって聞いてるんだよ。」
トーマスはローガンが来るとは思っていなかったので冷や汗をかいた。
「たまたま部屋が開いていたから気になって見てただけなんだ。勝手に入って悪かった。今から部屋を出るからさ。」
トーマスはローガンの部屋を出ようとした。
「ちょっと待て。」
彼はトーマスの手をつかんだ。
「やめろ!何するんだよ!離せよ!」
トーマスはローガンの手を振り払う。
「話を聞いてくれ。」
鋭い目でローガンはトーマスを見つめる。
「お前、どうしてこんなことするんだよ。どうしていつもノヴァとの恋を邪魔するんだよ。俺が出してた手紙全部お前が盗んでたなんて。どういうつもりなんだよ!そんなことしてまで俺の恋を邪魔するのかよ!このクソが!」
トーマスは怒りだす。
「トーマス、落ち着け!話を聞いてくれ。これには理由があるんだ。」
「こんな状況で落ち着けるわけなんてないだろ。こんな事をするなんて気持ちが悪い。ますますお前が分からなくなる。何が目的なんだよ。俺に恋人出来るのにそんなに嫉妬することか。それならお前も彼女とか作れば良いだろ。」
「落ち着けよ。」
「ノヴァとのやり取りを妨害したのはすまなかった。」
「黙れよ!何なんだよ。」
「お前とノヴァのやり取りを妨害したのはお前のことが好きだから。」
「は?今なんて?」
「だからお前のことが好きなんだ。」
「お前がゲイなのは分かったけど、お前のやったことはどうやっても許せない。」
「これしか方法がなかったんだよ。」
「今までノヴァとの恋に否定的なのって俺を好きだったからなのか。」
「気がつくのが遅いんだよ。お前がノヴァのことを話してるとこっちが本当に惨めな気持ちになるんだよ。」
「それはお前の問題だろ。」
「俺だけの問題じゃないんだよ。お前がそのように感じさせるから悪いんだ。好きになって何が悪い。男が男を好きになるだけの話だ。」
「ゲイがどうとかは問題じゃない。俺はどうやってもノヴァしか愛せないんだ。だからこそやり取りを邪魔されたのは許せなかった。」
「やり取りが続いてしまったら本当に会うことになるから。」
ローガンはメッセージを手に取った。
「トーマス、お前がノヴァをあきらめられない気持ちは何度も聞いてよく分かった。お前は俺と同じ人間なんだな。」
「一緒にするな。お前と俺は違うんだよ。」
「いや、気がついてないだけで一緒だよ。」
彼はメッセージを床に落とした。
「俺がメッセージを妨害した数週間お前は何をしてたか分かるか?ずっと彼女の名前を連呼したり、過剰に心配したり、メッセージも読んだけどストーカーなくらいしつこい内容。だけど似た者同士の俺にはすごい気持ちは分かる。俺もトーマスのことになるとものすごい追いたくなるから。追いたくなると言うか自分のものにしたい感じと言ったら良いな。」
「だから違う。お前とは違うんだよ。」
トーマスは否定した。
「例えば「ノヴァ心配で仕方ないお願いだから返事をくれ。君がメッセージを読んでるのは分かってる。でもどうして返してくれないんだ。君との会話が途切れると僕はおかしくなりそうだ。」とか言ってたな。」
ローガンからメッセージを取り返した。
「勝手にメッセージを読むな!誰だって心配になるだろ。何日間もメッセージが続かなかったら。」
「それならあきらめれば?って言ったけど、お前にはその言葉が全く響かなかったか。俺も同じだよ。お前と一緒だよ。どんなにお前に拒まれてもどんなに敵わぬ相手でも自分のものにするんだって気持ち。」
「言っておくけど俺は相手が拒否してるならちゃんとそれは守るつもりだ。お前とは何度も言うが違う。」
「口ではそう言ってるけど実際はどうなんだろう。例えば絶対浮気しないとか言う男女が本当に浮気しないなんて言えるのかな。絶対に一度も間違いをしないという人が間違いをしないのか。それはない。」
ローガンは彼を挑発した。
「絶対にそんなことはしない。お前が邪魔しても彼女とのやり取りを続けたいし、どんな結果も受け入れたい。」
「バレてしまったらもうこうするしかないな。」
彼はポケットから包丁を出して、トーマスを突き刺そうとする。
「何でお前はそう言う発想になるんだよ。今まで優しい一面を見せたのは心から思っての行動じゃなかったのか?俺が幸せになってほしいならそんなことしなくて良いだろ。」
「お互い幸せじゃないと意味ないだろ。お前が俺のものになるのが俺にとっての幸せ。こんなに色々したのにお前は振り向きやしない。お前とあの女のやり取りを邪魔してもバレてしまった。それなら殺してでも自分のものにしたい。」
包丁を持ちながら言った。
「頭おかしいんじゃないのか?こんな馬鹿なことをして人生を棒にするな。お前は狂ってるよ。目を覚ましてくれ!俺以外にも絶対良い人がいるはずだ。地球にはたくさんの人類がいるんだぞ。男が男を好きになるやつだってたくさんいるだろ。」
「俺は捕まるような馬鹿ではない。それとお前が自分のものじゃなきゃ生きている意味を感じられない。」
彼が包丁を手から離すことはない。
ローガンがここまで歪んでしまったのには元々の狂気性と差別的な家庭環境によってこんな風になった。
「お父さん。」
「何だ?ローガン。」
「落ち着いて聞いてくれ。」
彼は幼い頃に母親を殺された。
「話せないことなのか。」
「俺、ゲイなんだ。男が好きなんだ。」
「クソ、テメー何言ってんだ!お前は病気だ。」
父親はベルトでローガンを叩きさらに殴る蹴るなどの暴行を受けた。
「ゲイの息子などあってはならない。男は女が好きなもんだよ。クソ、ちょっとおかしい息子だと思ってたが性癖も歪んでるとはな。」
暴力は言葉も暴力になる。
「クソ、何でお前のような病気の息子を持ったのか。」
「俺は病気じゃない。」
さらに父親からの暴力を受ける日々は続く。
「くたばれ!くたばれ!ホモ野郎が!」
暴行と心ない言葉。彼は父親には愛情がないことに気がつく。元々そんなに愛情を受けていたわけではなかったが、彼の父親はかなり差別的だった。しょうがなく一緒に住んでいるだけだった。
「父さん。もうあんたとは過ごしてられない。」
彼は父親の飲み物に睡眠薬を大量にもった。そして寝ている間に火の元をつけっぱなしにした。
「父さん、これでホモの息子と別れて楽になれるよ。」
父親の顔を見てにやついた。夜中火が広がり家は全焼した。
「助けてください!」
彼はパニックになって慌てふためくふりをした。
「寝ている間に火事が起きたんです。」
演技で彼は泣きわめいた。
「父さん!」
彼の父親は助からなかった。いや助けるつもりなんてない。ローガンの中で最初から決まっていたことだったから。
父親の葬式を開くことになった。父親の亡骸が土に詰められる。
「父さん。」
「ローガン、お父さんがいなくなって大変ね。」
「そう思うかもしれないけど、俺は俺の人生を歩むよ。」
彼は亡き父親に話をかける。
「お父さん、これで今世の苦痛から解放されたな。お父さんを楽にしてやったらから。」
彼は親戚に引き取られることになったが、そこでもまともに愛情を受けてもらえるわけではなかった。彼は来る日も来る日も愛情というものに飢えていくことになった。
「自分のものになる人か。」
男女のカップルを見ながら手に入りにくい恋愛関係について考えた。
高校生の時、一瞬だけトーマスのことを見つけた。向こうは気がつかなかったが、彼は一方的に彼に狙いを定めた。高校を卒業してルームメイトを探している張り紙を見て彼はトーマスに近づいた。彼に近づくためのチャンスだと思った。しかし彼が女性の話をするたびに時々疎外感を感じることもあった。思い通りにいかないと話を否定したり、彼の恋を何度も邪魔することがあった。
「ローガン、早まるなよ。こんなことしてもお前は幸せにはなれない。」
「こんなことをしてまでもお前を俺のものにしたいんだ。」
ローガンがトーマスを刺そうとした。
「危ない。」
彼は必死でよける。
「お前の死体でも自分のものにしたいんだ。」
「こっちに来るな。」
ゆっくり迫っていく。
「来るな。」
「どこを刺そうかな。」
迫って行くと、トーマスは必死になって逃げる。階段の方に向かって走る。しかし彼に手をつかまれた。
「もう俺からは逃げられないよ。」
「俺を殺す気なのか。」
「そんなことはしないよ。だけどお前が答える答え次第で運命は変わるかもな。」
かなり力が強く抵抗してもローガンをどうにかすることは出来なかった。
「まずは1つ目の選択肢は生きて俺のものになること。俺とともに人生を歩むことになればこのナイフで刺されることはないし、お前が嫌いな邪魔者も消すことが出来る。もう一つの選択は死んで俺のものになること。死体でも灰でも良いけど、ちゃんと形が残っている方がずっと良いな。さあこの2つからから一つ選ぶんだ。もちろん制限時間を一分設けるよ。それで良いだろ。」
「分かった。考えさせてくれ。」
彼は抵抗することなくローガンの言う事を聞いた。そしてどの選択肢が一番いいのかよく考えた。
「命は一つしかないから後悔のない選択肢をしないとな。」
ローガンはトーマスを煽る。
「あと回答まで30秒。」
どうするかまだ答えが出ない。トーマスの冷や汗は全く止まらなかった。
「あと20秒。まだ答えないのかな?」
どんどん彼は焦っていく。息が荒くなっていく。
「あと10秒だよ。」
上に乗ってるローガンをどけることもできなかった。
「ローガン答えが出たよ。」
「おお、早速答えてもらいたいな。」
「ノヴァのことはあきらめてローガンの彼氏になるつもりだよ。」
「そうか。やっと俺のものになる。」
「今だ!」
トーマスは上に乗るローガンに抵抗した。そして彼を階段からつき押した。
「ヤバい。」
彼は気絶した。そしてナイフが勢いよくローガンの背中に突き刺さった。
「嘘だ。俺は…俺は何もやっていない!」
叫ぶとノアとリアが帰って来た。
「俺は何も悪くない。」
2人は取り乱したトーマスを見た。




