部屋
隣の部屋でメッセージを書いていると、ノアとリアが騒いでいた。ベットの揺れると音や壁に伝わる振動。そしてお互いの重なる声。かすかに聞こえる息の音。トーマスは見えなくても彼らが何をしてるのか分かった。いつものようにうるさいと思うこともなかった。
「ノヴァ、どうしてしまったのか…」
彼は窓の外を見た。
「ノア、リアともとに戻ったのか。」
「付き合ってるからには多少リアの言うことも聞いたほうが良いと思ったからな。」
「リアと付き合って変わったな。」
「ノア、何してるの?」
「リア!」
彼は彼女を抱きしめた。そして2人はキスをしあった。
「出かけるぞ。」
「うん。ノア、今日の運転はあんたよ。」
ノアとリアはとても良い関係に戻った。二人の後ろ姿をトーマスはじっと見る。彼は部屋に戻りメッセージを書いた。
「ノヴァ、何日もメッセージが来てないけど大丈夫?君からメッセージが来てなくてとても心配だよ。根拠はないけど君がメッセージを突然辞めるとは僕は思えないんだ。君の身に何かあったんじゃないか心配なんだ。もしかして元恋人と何かあってつきまとわれてる?それとも何か大きな事故に巻き込まれた。返信出来る状況なのか分からないけど、君からの返事を今日も待ってる。お願いだ。」
彼はまた公園のポストに行った。前日に入れたメッセージはなくなっていた。その日に作ったメッセージをポストの中に入れた。
「ノヴァ、お願いだ。返事をくれ。」
彼はとても必死な表情だった。
「ローガン。お前何でここにいるんだ?俺を冷やかしに来たのか?」
「何でそんなふうに卑屈に考えるんだ?」
「ここに来そうだと思ってなかったから。」
「知らないのか?よく公園には行くほうだ。」
「何しにここに来たんだ?」
「ランニングして、たまたまここで休憩してるんだ。ランニングは毎日欠かせない。」
「そうか。俺はもう帰る。」
「やっぱり彼女とは何も進展がないのか?」
「そうだ。やっぱり冷やかそうとするのか?」
「そんなつもりは一切ない。そんなふうに物事を考えるな。」
「ああー、俺はネガティブ野郎だよ。ノアとは違うんだよ。」
「もっと賢い選択をするんだ。人生は一度きりだ。診断する可能性の低い彼女だけに時間を費やすのはもったいなすぎる。もっとよく人生設計をするべきだな。」
「もう良いよ。」
彼はローガンをおいて帰宅した。去って行くトーマスをローガンは見つめた。
トーマスは家に着くと疲れてベッドに横たわった。彼は部屋にある辞書くらいの分厚さの本を見つけた。
「ノヴァ、ノヴァ!」
彼は彼女の名前を叫びながら本を抱きしめる。
「ノヴァ、君は何をしてるんだ?突然消えないで。ノヴァ、僕は必ず君を大切にする。だから僕のもとに消えないで。」
さらに本を強く抱きしめる。
「ノヴァ、おいて行かないで。」
彼は本を離さずにずっと叫び続けた。
「やっぱり駄目なのか…いや諦めきれない。」
彼はベッドから転げ落ちた。
「痛い。」
しかし本を話して落とすことはなかった。彼はまた机に向かった。
「君がメッセージを受け取ってるからメッセージを読んでるんだよね。だけどどうして返してくれないの?何か辛いことがあって返せないの?辛いことがあれば何でも言って欲しい。今日もいつもと変わらない日常。何だかものすごい1日がゆっくり進んでいる気がする。だけどポストを開けると時間の速さを感じる。もう知り合って1ヶ月以上が経つね。もし返信を急かしているようだったらごめん。いつでも君の返事を待ってる。」
すると家のドアが開く音がした。
「誰かいるのか?多分ノアか?」
確認したが誰もいなかった。
「何だ。ノアとリアがかくれんぼでもしてるのか?」
何事も無かったかのように部屋に戻った。しばらくするとノアとリアの声が聞こえた。
彼は次の日またポストの所まで行ってメッセージを入れた。毎回メッセージはなくなっている。
「どうしていつもメッセージはなくなっているのに、返事だけが返ってこないんだろうか。」
その日もローガンと遭遇した。
「何でお前がまたここにいるんだ?」
「俺のことが嫌いなのか?この公園でランニングくらいしても良いだろ。」
「お前のことだから俺のことを冷やかして来てるのかと思ったんだよ。」
「お前は考えすぎなんだ。」
「そうみたいだな。迷惑だったようだな。俺はどうせ邪魔者か。」
「トーマス、彼女と上手くいって無いからってそんなに当たらり散らす男で良いのか?そんな姿をお前は目指していたのか?」
「だって可笑しいだろ。メッセージは毎回受け取ってくれてるのに、返事がいっこうに返ってこないわけだから。返事が来なくて気がかりになって当然だろ!」
トーマスはローガンを押し倒した。ローガンはしばらく転んだ体勢でトーマスのことを見た。そして彼は立ち上がった。
「何度も言ってるだろ。どんな恋でも上手くいかないって。俺はそういう恋はよく分かる。叶うはずがない恋がどれほど辛いか。それなら潔くその恋を諦めろ。人生は恋だけではない。」
「目標は必ず果たすつもりだ。何がなんでも。」
「もっと柔軟に物を考えられないのか?」
ローガンはトーマスを押し倒した。そしてローガンは転げて倒れるトーマスを見た。
「トーマス。」
彼の名前だけを言って10秒間見つめた。
「お前何するんだよ!」
「やられたことをそのままやり返しただけだ。先に俺のことを押し倒しただろ。」
「分かったよ。やりすぎた。」
ローガンは何も言わずにランニングを再開した。そして彼の姿は見えなくなった。トーマスは帰宅をした。
「トーマス、何してたんだ?」
ノアとリアが家に戻っていた。
「公園のポストにメッセージを入れたんだよ。今日もいつものように返信がない。どうせまた明日も返信が無い。でも彼女はメッセージだけを読んでる。頭可笑しくなりそうだ。何でお前達ばっかりうまく行ってんだよ。」
「トーマス、感情的になるなよ。」
「そうよ。私達に当たらないでくれる。」
「当たってなんかない。」
「今は辛いと思うけど、俺とリアのようにめんと向かって喧嘩したり言い合い出来ないなら何も進まないだろ。それならもう見切りをつけて違うところで出会いを探せば良いだろ。」
「お前が言うようにそう簡単に諦められればこんなに悩んでなんかいないよ。それより今日は何をしてたんだ?」
「今日は映画館で映画を見てたんだ。」
「すごい感動したわ。」
「そうだよな。」
「映画で人生楽しめるやつらは良いよな。」
トーマスは何もかもネガティブに物事を捉えてしまった。
「逃げる本って言うタイトルの映画で老夫婦が思い出の本に振り回される姿がまさにコメディーでところどころ感動するシーンもあるんだよ。」
「老夫婦のやり取りも見ていて面白いわ。その息子のキャラも面白いわ。」
「そうそう。あの癖の強い息子が面白い。それにあの俳優あの映画にも出てるみたい。」
彼にとっては映画を見ていないので分からない話題。一人になった疎外感と孤独感でとてもつまらなかった。彼の悩みを親身に聞いてくれる人はいない。
「そうか。それは楽しかったな。」
「トーマス、良かったら今度俺達とローガンも入れて映画見に行こうよ。」
「それ良いわね。」
「断る。そう言う気分じゃないんだ。映画も見たくないし、皆で何かしたい気持ちでもない。ただ俺はノヴァからの返事を待っているだけなんだ。」
「そんな実りそうもない恋をして苦しくないのか?そろそろ変な見栄をはらずに今年彼女作る発言は撤回したらどうだ?そうすればもっと楽になるだろ。」
「それはしない。そうやって一人になろうとするな。俺達がいるだろ。偏屈なローガンもいるけど俺達がいるだろ。お前が失恋して嘲笑うようなクズだと思うか?」
「ローガンは何だかそれを喜びそうな気がするんだ。」
トーマスは言った。
「そうだ。あいつが一番俺の恋に肯定的じゃなかったからな。」
「流石のあいつでもそんなことしないと思うぞ。そんな風に考えるなよ。」
「そうだといいけどな。」
ノアは笑顔で笑いかけた。
トーマスはまた自分の部屋でメッセージを書いた。
「ノヴァ、もしメッセージがしつこかったら言って欲しい。僕はただ君を心配していただけなんだ。どんな返事でも僕のことが嫌いになった返事でも大丈夫。」
彼はメッセージを書いてポストの所まで行った。するとまたローガンを見かけた。
「ここ最近お前としつこいほど会うな。」
「ここでランニングしちゃ悪いか?お前も一緒にランニングしたらどうだ?結構気持ちが切り替わるぞ。」
「俺はそう言う運動とか嫌いだから。それより辞書の彼女にまたメッセージを送った。」
「それじゃあ完全にストーカーみたいなもんだな。」
「ストーカー?俺はそんなんじゃない!相手はメッセージを受け取ってるんだ。」
「嫌嫌受け取ってるんじゃないのか?」
「だから今日はもう嫌だったら嫌って言って欲しいとメッセージに書いたんだ。」
「なるほど。やっと見切りをつけてくれるんだな。」
「まだ返事が来てない。どんな返事でも受け入れるつもりなんだ。」
「その時はちゃんと報告しろよ。」
ローガンはトーマスの手を軽く触ってその場を去った。
トーマスはある日ノヴァの返事を待ち遠しく思いながら家中をウロウロしていた。するとローガンの部屋がかすかに開いていた。
「あいつが部屋のドアを閉めないなんて珍しいな。」
ドアを閉めようとした。
「ん?待て。ルームメイトなのに一度もローガンの部屋を見たことない。」
彼は興味本位でローガンの部屋に入った。後を振り返っても誰もいないので安心して先に進む。
「ん?何だこれは…」
大量の紙が彼の部屋のテーブルにのっていた。一つ一つ読むとトーマスがノヴァに当てた手紙の一つ一つだ。
「待って、ノヴァは俺にメッセージを送っていたんだ…そんな、何でこんなことを。」
ノヴァのメッセージを一つ一つ読む。彼女の手紙は彼を心配するような内容の手紙だった。
「これも、これもノヴァの手紙だ。何でこれがローガンの部屋にあるんだよ。」
部屋の空気はどこか冷たくて暗い雰囲気だった。冷や汗が止まらない。
「トーマス、ここで何をしているんだ?」
彼は急いでテーブルにメッセージを置いて部屋の外に立つローガンを見た。




