第九話 ウル ニューゲーム③
「ドーン!!」
「ドーン!!」
町中の至る所で、爆発が起こっている。
突然の爆発に町の人はパニックになっている。
おれは、その人達をかき分け、タレスのあとを追う。
“危険察知”のおかげで、爆発はなんとか避けることが出来ていた。
だが、周りはタレスの仕掛けた爆弾だらけ。
危険が常につきまとっている状態だ。
そのせいで心臓の鼓動は、止むことを知らず、鳴り響いている。
こんなに心臓をバクバクさせてたら、さすがに苦しい。
しかも大きさの変化に気を配らなければいけない。
すごく疲れるな、これ。
すると、商店街の通り。
出口のところ、アーケードの下であいつを見つけた。
しかし、おれは足を止めざるおえない。
慌てて商店街を抜けようとする人々の中、
通りの真ん中で、年寄りの女性が鎮座していた。
おれは駆け寄って声をかける。
「大丈夫か、ばあさん」
「えぇ、すみません。人の群れに押されて。なかなか立ち上がれなくて」
「手を貸してやるから。ほらつかまれ・・・・」
女性の手を握りながら、体を起こすように試みる。
しかし、その時、
「ドクンンッッ!!!」
心臓が跳ねる。
おれは、条件反射でつかんでいた手を放してしまい、後方へ飛ぶ。
その瞬間、彼女の体は、光に包まれ、爆発する。
「うそだろ・・・。あいつ、人間に直接・・・」
目の前で人の命を奪われた。
体中から血の気が引いていく。
だけど、ここで止まるわけにはいかないんだ。
おれは、こぶしを強く握りしめ、強く足を踏み出す。
「ぐわあ!!」
「ぼぉはぁ!!」
周りの人間がどんどん、爆発していく。
悲鳴や怒号が商店街を埋め尽くす。
なんだよ、この悪夢のような光景は。
絶望的な思いを抱えながらも、おれは走り続ける。
この悪夢を止める方法は、ただ一つ。
やつを倒すしかない。
ようやく商店街を抜けることができた。
ここら辺は通りも広いし店も少ない。
あいつに接近する、またとないチャンスだ。
十数メートル先、タレスがこっちを向いているのが分かる。
そのまま後ろへゆっくりと後ずさりしている。
「まて!!タレス!!」
「しつこいな。キミも」
その時、ちょっとしたアクシデントが起こる。
おれの方を見て、後ろを見ずに歩いていた、タレスは
水撒きをしていた女性に気づかなかった。
そして彼女が撒いた水が顔にかかりそうになる。
とっさに顔を手で覆い水を受けるタレス。
顔にかかることは防いだが、彼の腕や胸周りは、びょしょびしょになった。
余裕の笑みから一転、顔を真っ赤にし口をゆがめる、タレス。
「オマエ、なにやってんだ!!」
「す、すみません」
「いいから、ふくものをよこせ!!」
タレスは女性に向かって言う。
女性は、首に巻いていたタオルを渡し、何度も頭をさげている。
それで手をふきながら、タレスは不愛想に対応する。
「まったく、気を付けてほしいね」
その言葉を残して女性にタオルを渡し、場を去る。
まずい!!
やつのやり口は、分かっている。
おれは、その女性に近づき、タオルをひったくる。
女性は、口を開けたまま、何も言えなくなっている。
そしてそのタオルを丸めて、おもいきりふりかぶり、空中へ投げる。
ボーン!!
小気味いい音が響く。
やはりな、タオルを爆弾に変えてやがった。
本当にいかれたやろうだ。
だが、今の光景を見て、あれは2つのことに気づく。
もしかして、あいつ・・・・。
唖然とする女性をおいて、おれは、商店街の方へ引き返す。
そして、目的の店に到着する。
『オヤカタ工具店』
例の店で“ある物”を調達したおれは、それを服の下に隠し、ふたたび奴の後を追う。
この先は行き止まりだ。
先日起こった、地震によって地面が割れ、修復している最中だ。
かなり強固に金網が張ってある、通れそうにない。
ここまでは、両側が塀に囲まれた、狭い一本道だった。
おれは、道を引き返すことにする。
しかし、そこには道いっぱいを占領した大型トラックが止まっていた。
運転席を見る。
あいつだ!
そこには、口が裂けそうなほど口角が上がった、タレスがいた。
「はーはっはっはっ!!袋の鼠だな、ウルくん!」
タレスは笑う。
「工事中とは災難だ。
私は、今からこのトラックに乗って、キミに突っ込む。
この狭い道だ、逃げることはできない。
運よく、トラックと金網のわずかな隙間に入ることが出来ても
そこから動くことはできないだろう。
そうこうしているうちに・・・。
キミならもう分かっているよね」
「トラックを爆弾に変えているんだな・・・」
「・・・幸運は続かないってことさ」
タレスは、エンジンを吹かす。
その音はまるで、血に飢えた獣のようだ。
「それでは、この辺で、ゲーム終了といこうか!!」
思い切りアクセルが踏まれ、トラックが近づいてくる。
「ドクンンッッ!!!ドクンンッッ!!!ドクンンッッ!!!」
おれの心臓は、最大級の危険を知らせている。
運転席の扉が開き、タレスが飛び降りる。
塀の壁にぶら下がる形で着地する。
おれとトラックとの距離は、もう十メートルもない。
「ドクンンッッ!!!ドクンンッッ!!!ドクンンッッ!!!」
死へのカウントダウンが鳴り響く。
おれは深く息を吸い込み叫ぶ。
「タレスゥゥゥ!!!!!」
それはまさしく、死を目前にした人間の断末魔だった。
「ドンッッッッッッ!!!!!!」
トラックが激しく壁にぶつかる。
数秒後、大爆発が起こり、トラックは粉々に吹っ飛ぶ。
煙が上がる。
それを見ながら、メガネを拭くタレス。
「またもや計算通り♪」
その言葉を言い残し、やつはおれのもとから去っていった。