第七話 ウル ニューゲーム①
【ウル】
キーン、コーン、カーン、コーン
授業の終わりを告げる鐘がなる。
今から、昼休みの時間だ。
おれは寝ぼけながら気怠い体を起こす。
「ふわぁ~~。」
教室の机。
大きなあくびをしていると目の前から聞きなれた声が聞こえる。
「あんた、また授業中寝てたでしょ。」
明るい声で腰に手を当てながら彼女は話す。
「ん?あぁ、ネーヤか」
「もしかして、またバイト増やしたの?いくつ掛け持ちする気よ」
「コンビニ、道路工事、下水処理、ボーイだろ、それから借金のとり・・・・」
「もういいわ。
やめときなよ。高校行きながらそんな働いていたら体こわすわよ」
「・・・だからこうやって休んでるだろう?」
おれの両親は、おれと妹が小さいころに家を出ていった。
理由は、分からず取り残されたおれたちは、両親が残したわずかな金で暮らしていた。
それが底を尽きてからは、おれが働いて、なんとか食いつないでいる。
「ねぇ、ウル、ほんとに大丈夫?」
「・・・大丈夫だよ、心配するなって」
「・・・わかった。今日もいないんでしょ。またトラメちゃんに何か作ってあげるから」
「悪いな、ここんとこ毎日来てもらって」
「わたしはいいけど、トラメちゃんは寂しがってるのよ」
彼女は、ネーヤ。
おれん家の近所に住んでいる。
小さいころからなにかと世話好きなやつだ。
あと料理がすごくうまい。
「あぁ、わかってるよ」
トラメというのは、おれの一つ下の妹。
もう高校生だし、一人で家にいても平気だろう。
と、ネーヤに話したら、すごい剣幕で怒られた。。
「高校生だろうが、大人になろうが、寂しいものは寂しいのよ」
その時から、できるだけ夕食は一緒に取るようにしていた。
それでも仕事が立て込んだときは、ネーヤに家に来てもらう。
もはやおれにとってネーヤは、家族みたいな存在だった。
おれとネーヤは、そのまま教室で昼食を共にした。
昼食を終え、腹が膨れたおれは、寝不足も相まって、また授業中に居眠りをしていた。
しかし、その時、妙な息苦しさを感じて、目を覚ます。
なんとなく、自分の心臓に手を当てる。
「ドクン、ドクン、ドクン」
妙に心臓の音がでかい。
なんだこれ。
「ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ」
心臓の鼓動はさらに激しさを増していく。
やばい、だんだんと苦しくなってきた。
連日の無理がたたったか。
おれは、耐えられずに教室を飛び出す。
そのさい、心配そうに見つめるネーヤの顔がチラリと見えた。
横になれば少しはマシになるだろう。
そう思い、保健室の前まで来た。
ドアを開けようと手をかけるが、そこで動きが止まる。
そして、おれは振り返りその場を後にする。
何してるんだおれは?
「ドクンッ!!ドクンッ!!ドクンッ!!」
まずい!!心臓が破裂しそうだ!!
おれの身に何が起こっているのか。
わけが分からず、学校の玄関を飛び出す。
すると、さっきまで起こっていたことが嘘のように
心臓の鼓動が弱まってきた。
校門の前まで来ると、心臓の鼓動は聞こえなくなった。
「なんだったんだ?」
そしておれは、自嘲気味に笑う。
「はあ~。無理はいけないってことか。体がバグっちまったかな」
おれは、学校の方へ足を向ける。
「ドーーーーーーーーーーン!!!!」
突然、バカでかい大砲のような音が鳴り響く。
それと同時に、おれの目の前にあった、高校の校舎が大爆発を起こした。
半壊し、炎が包み、煙があがる。
おれは、その光景をただ突っ立って見ていた。
背後の校門から男が姿を現した。
おそらく年齢は30代。
よれよれの薄茶色のスーツに身を包んだ、やせ型の男。
少し禿げ上がった髪はボサボサ。
メガネの奥にある瞳は、激しく見開かれていた。
「完璧だ。時間ピッタリ!1秒の狂いもない。私は天才だ」
自らに賞賛の拍手を浴びせながら、男は近づいてくる。
「おや、生徒がこんな所に。
もしかして、キミは学校をサボろうとしていたのかな。
ラッキーだったね!この爆発に巻き込まれなくて。
今頃、中の人間は・・・。
あぁ!!私の口からはとても言えない!!」
耳をふさぎたくなるような、耳障りな声を発する男。
だが、おれはこの男の言葉が全然耳に入らなかった。
ネーヤ。
あいつが、死んだ?
爆発に巻き込まれて?
気が付くとおれの肩に手が置かれていた。
「さあ、ぼうや!自分の幸運を噛みしめながら、さっさとお家に帰ることだね」
男は、手をどけて、そそくさと去っていく
すると、また、あの感覚が蘇る。
「ドクン!ドクン!ドクン!」
なんなんだこれは一体?
目の前の男がおれの肩に触れた瞬間、鳴り出した。
まさか、こいつに何かされたのか?
おれは、頭を抱え、考えを巡らせる。
「時間ピッタリ・・・・」
この男はさっき、こういった。
口ぶりからするとこいつが校舎を爆破させた?
だとすると時限爆弾か?
・・・爆弾!!まさか・・・・、おれの肩に・・・・!?
「ドクンッ!!ドクンッ!!ドクンッ!!」
おれは、慌てて、学ランを脱ぎ、投げ捨てる。
次の瞬間、空中でおれの学ランが小気味いい音で爆ぜる。
男はそれをみて、虚を突かれたような顔をする。
「なんで分かった!?私がキミの制服を爆弾に変えたことを!!
まさか・・・。キミも使えるのか。・・・“神技”を!」
爆弾に変えた?神技?
男の言うことが全く分からず、オレは立ち尽くす。
ただ、はっきりしているのは、この男が、おれの家族同然の幼馴染を殺した、憎むべき相手ということだけだ。