第六話 救済の味
【エデン】
「どこだ!どこいった!!」
デカヲタくんは、必死にボクを探している。
かくれんぼは楽しいが、そろそろ教えてあげよう。
「ボクは、ここだよ!」
くぐもった声に彼が反応する。
「ま、まさか」
彼が驚きの声を上げたのと同時にボクは、ひょっこりと顔を出す。
そう、公園にある山盛りにされた砂場の中から。
「ぷはぁ~。いや~、危機一髪だったよ!」
上空にいる彼の顔が驚きでいっぱいになっているのが見える。
「・・・砂に埋もれて、火を消したのか・・・」
「そう!頭からダイブさ!
君の態度を見てるとなーんか怪しくてね。
まだ、奥の手を隠してるって感じ。
だから念のため、火を消す手段を確保しておこうと、ここに戻ってきたわけさ」
ボクは思い切り手足を広げ、砂に埋もれた体を勢いよく起こす。
「はぁ、フン、だからどうした。もうその手は、使えないだろう。
黒焦げになる時間がすこし先伸ばしになっただけだ」
「それは君も同じだろう。
集結させる炎龍はもういない」
「はぁ、はぁ、なにをいってるんだ。ないなら出せばいいだけ」
「やめときなよ」
「怖気づいてももう遅い!くらえ、脚下炎りゅ・・・・・」
突然、彼の足元の炎は消えてしまう。
空中に留まれなくなった彼は、勢いをつけて地面に落下する。
「ぐはっ!!」
思い切り腹を打ち付けた。
あの高さだ、あばらが何本か折れただろう。
彼は、腹ばいの状態から動けなくなった。
「はぁ、はぁ、なんだ。どうして炎龍がでないんだ!?」
「酸欠だよ、きっと」
彼は不思議そうな顔をこっちに向ける。
「“神技”っていうのは、発動するのに条件がいるんだ。
なにかとの引き換えで能力を出せる。
ボクは、人を殺す必要がある。
君の場合、体中の酸素を炎に変えてたんじゃないかな。
ボクを追ってくるとき、君自身は動いていないのに息が上がってたし。
当然、炎を出しつければ酸欠になる。
酸素を維持することを優先した体が、炎龍をひっこめたってところかな」
体についた砂を払いながら、デカヲタくんに近づき、見下ろす。
彼は、荒い息遣いをしながら、これからおこることに恐怖し、顔面を引きつらせる。
「はぁ、はぁ、まっ、まってくれ!
おれは、“神技”を開花させてからたった30分足らずで、君を追い詰めた。
もっと時間があれば、さらにパワーアップして、君の脅威になれるはずだ、だから・・・」
「見逃して欲しいか。・・・なるほどね。確かに一理あるね。
君は人間としてはクズみたいだけど、“神技”の才能はピカイチ。
さらに強くなってくれるだろうね。
ここで殺すのは惜しい・・・」
彼は、恐怖の顔から一転、安堵の表情を浮かべる。
しかし、人の話は最後まで聞くものだ。
「でもごめんね!ボク、君の“神技”使ってみたいんだ!
だって炎の龍を飛ばしながら、空を飛べるなんて最高にかっこいいじゃん!!」
ボクの子どものような無邪気な笑顔。
それを見て彼の顔は、また歪む。
「い、嫌だ!!死にたくない。嫌だ・・・・」
彼の言葉が言い終わる前に、ボクは空高く飛び上がり、両の足で思いきり
彼の頭を踏み潰す。
ドンッ、
鈍い音が足から伝わる。
ビクッ、ビクッ。
まだ生きている。
仕方ない。
何度も同じことを繰り返す。
後頭部が思い切り凹む。
ようやく、彼は動かなくなった。
その時、ボクの中でとてつもない快感が押し寄せる。
そして、足元から間欠泉のように炎が爆ぜる。
ボクは空中に飛び上がり、さらに力を籠める。
足元から、十数匹の炎龍が飛び出し、四方八方に飛んでいく。
その炎は周りの民家に燃え移る。
一瞬にして、ボクの周りは、火の海と化した。
「す、すばらしいぃぃぃ!!これがボクの“神技”、“死の救済”なんたる美味!!」
ボクの興奮した様子を、いつの間にか近くに来ていたイブが見ていた。
手にはカメラを持っている。
「このエデン様の姿も投稿しちゃいましょう」
しばらくボクは、空中を飛び回りながら、炎龍を出すことを楽しんでいた。
ボクのゲームの始まりを祝う絶景を生み出しながら。