第四話 エデン ニューゲーム③
【エデン】
続々と繰り出される、炎龍。
ボクは、それらをたやすく避けていく。
途中で軌道を変えられる以上、ギリギリまでひきつけてから、素早く避ける。
うん、慣れてきた。
炎龍を避けながら、デカヲタくんに近づいていく。
あの巨体だ。素早い動きはできない。
本体に接近できれば、炎龍を出す隙を与えずに攻撃をすることができる。
1、2メートルまで近づいた。
しかし、ボクの目論見は崩れ去る。
なんと、彼は、足元の炎を真下に噴射した。
そしてそのまま、ロケットのように飛び上がり、
地上から十数メートルの地点で炎を出し続け留まったのだ。
「おいおい、そりゃないよ」
ボクは、悲嘆の声をあげる。
これじゃあ攻撃のしようがない。
なんていったって、今のボクには飛び道具なんかないんだから。
「おめでとう。これで君の勝ちはなくなった。
お祝いに、いいものをやるよ」
そういうのと同時に、彼の足元が激しく爆ぜる。
そして、2体の炎龍がくねくねとした動きで近づいてきた。
炎龍は、1体だけじゃないのか!!
不規則な動きをした龍は、ボクの体を挟むようにして通り過ぎていく。
とっさのことで避けるのが間に合わない。
「くっ!」
右肩と左脇に、熱を帯びた痛みを感じる。
「さあどうする、神さまよ!じわじわと火傷の痕を増やし続けるき?」
圧倒的有利な状況に、彼の調子は上がっていく。
「そうだね、ここはズバリ・・・」
ボクは、彼に背を向ける。
「全力で逃げる!!」
そして、目一杯の速度でその場をあとにする。
当然、炎を出し続けたまま彼は追ってくる。
「ハハッ!神ともあろうものが、情けないな!!」
その間、炎龍による攻撃もやむことがない。
それらを避けて、時には受けながらも、とにかく走り続ける。
「おいおいどこまで行く気だ・・・」
彼は、周りを見渡しあることに気づく。
「ここは、あの場所か」
そう、ボクの初投稿動画を撮影した、あの公園だ。
ある保険のためにここへやって来た。
「はぁ、どういうつもりかしらないがそろそろ終わりにしようぜ」
彼の息が少し上がっている。
「そこから降りてくれれば、すぐに終わるんだけどな~」
ボクの冗談交じりの言葉。
にもかかわらず、その思いが通じたのか。
彼は、炎の噴射をやめ、地上に降り立った。
そして、ゆっくりボクの方へ近づいてくる。
距離はわずか数十センチの所まで来た。
ボクの視界が彼の巨体でいっぱいになる。
「いや、驚いたよ!君はずいぶん素直なんだね」
「なーに、おまえのためじゃないさ!!おれさまも終わりにしたいのさ」
彼は含みのある話し方をする。
「もうちょっとさ、こんなところまで逃げるから時間がかかってる」
何も起こっていないのに、このとき確かに感じた。
死の恐怖ってやつを。
「さよならだ。神よ!!」
その言葉を残し、彼は再び上空へ飛び上がる。
しかし、それを見る余裕はなかった。
ボクの目は、数十匹に及ぶ炎龍の顔にくぎ付けになった。
どこから現れたんだ!?
・・・そうか、デカヲタくんの体のせいで見えなかったんだ。
そんな考えを巡らせる中、ボクは炎龍たちに飲み込まれる。
「やったぞ!今度は確実に燃えている!!
おれさまの炎龍は、切り離すと同時に操作できなくなる。
ただし、それを一度だけ動かす方法がある。
それがこの“脚下集炎龍”!
燃え続けている炎すべてをおれさまの足元に集結させる、まさに奥義だ!!」
高らかに笑い続ける男。
地球相手にケンカを売ってきた、バカな神とやらをあざ笑っている。
「ついにこの時がきたんだ!これがほんとうのおれさまなんだ!
今までのおれは、にせものだったんだ!」
男は炎の勢いをさらに激しくし、高く飛ぶ。
体をゆっくりと回転させ、街を眺める
「まっていろよ。おろかな人間たちよ。おれさまが、順番に燃やしていってやるからな!!
そう今日から、おれさまこそが神・・・・」
彼の静かな宣言は、ふいにさえぎられてしまう。
自らの足元で燃えているはずの神の姿が見当たらなかったのだ。