第三十話 死体泥棒①
【ウル】
目が覚めると見慣れた天井が見えた。
窓からはオレンジ色の光が差し込む。
見慣れているけどなんかおかしいと思い、そうか、ここは自宅の部屋じゃなくてコアコ・ルミクが泊めてくれていた部屋だと気づく。
全身が気怠くて、起き上がる気になれない。
寝たまま横を見ると、妹のトラメがおれの体を枕にして寝ていた。
起き上がれないのは、こいつのせいでもあったのか・・・・・。
なんでこんな状態になっているのか・・・・・。
そうだ、病院の屋上にいた白い男。
あいつにたどり着くまでに雷を死ぬほど避けて、あいつと戦って・・・・・。
あいつと一緒に屋上から落ちて・・・・、あいつの雷に打たれて・・・・・・・・。
雷・・・・・・・トラメ!?
おれはトラメも雷に打たれて重傷だったことを思い出す。
さっき見たのは幻か!?と思い、また横にいるトラメを見て、今度は彼女の体に触れる。
良かった幽霊じゃない・・・・・。
正真正銘のトラメだ。
「ん、んんっ」
おれが、動いたことでトラメの目が覚めた。
「お、お兄ちゃん!よかった~。心配したよ~」
トラメは、おれの体に抱きついてくる。
「三日間も眠りっぱなしだったんだよ!」
「・・・・そんなに寝てたのか」
どうりで体が気怠いわけだ。
「それより、お前は大丈夫なのか?雷に打たれたろ?」
「トラメは平気だよ!一日寝てたらバッチリ回復した!」
まじか・・・・・・。
そういえば、コアコ・ルミクがトラメには耐性があるとか言ってたな・・・・。
にしても元気だな、こいつ・・・・。
しばらくして、コアコ・ルミクが部屋に入ってくる。
後ろにもうひとりいる・・・・・・。
「ネーヤ!!」
「ウル!!!」
おれの幼馴染、ネーヤが声を出しながら走ってくる。
「よかった!ほんとに心配したんだから!!」
「それはこっちのセリフだって・・・」
今まで一度もしたことはなかったのだが、おれたち力強く抱き合い、お互いの無事を再確認した。
ムサネは、道場で鍛錬をしているそうだ。
三日間眠りっぱなしだったやつが目覚めたんだ。
少しくらい顔を見に来いよな、冷たいやつめ・・・・・。
ようやく体が活動モードになったのか、気怠さは和らいできた。
おれは、布団から上体を起こす。
「それよりネーヤ、あの学校の爆発をどうやって知ったんだ。外に出てたって聞いたけど・・・・」
おれは、疑問に思っていたことを訊く。
「爆発が起こるなんてこと知らなかったわよ。ただ、ウルが授業中に居眠りしてたと思ったら、いきなり血相を変えて教室を飛び出すんだもん。気になって、後をついていったのよ・・・・」
そうだったのか・・・・・。
とにかく無事で何よりだ。
そのあと、おれが重傷を負った日のことを聞いた。
屋上から落ちたところをコアコ・ルミクに助けられたようだ。
「あんたも病院に向かっていたのか・・・・。全然気づかなかった」
「あぁ、お前にすべての雷が集中していたからな。楽な道のりだった」
「あんた・・・・。最初から、おれをおとりにするつもりだったのか・・・・・!?」
「まぁな、十中八九、病院にたどり着く前に死ぬと踏んでいたからな・・」
こいつ、弟子をおとりに使うとは・・・。
「それで・・・・、あの白い男はどうなったんだ?」
おれは訊く。
「警察に引き渡した」
「大丈夫かよ・・・」
「ある意味大丈夫ではないな・・・・」
意味深なことをいうコアコ・ルミクだった。
「これからどうするの?」
ネーヤが言う。
彼女は、おれが寝ている間に“地球大戦”のことを聞いたらしい。
「・・・・分かんねえけど、とりあえず強くなるしかないよな。あとは仲間集めとか?」
おれは、腕を組みながら頭をひねる。
現状は、まだ周りの出方を伺うしかない気がする。
できることといったら、その二つじゃないか?
「コアコ・ルミク。しばらくここを拠点にしてもいいか・・・・・・?」
おれたちの中で、この人が段違いに強い。
できるだけ近くにいた方がいいだろう。
「・・・・・・・・・・・・・三食、飯を作るならな」
彼女は、しぶしぶといった感じで承諾した。
そして、こんなことも言った。
「・・・・仲間が欲しいなら二人心当たりがある」
「なんだよそれ!もっと早く言ってくれよ」
おれは、思わず大きい声をだす。
「身内を預けるんだ・・・・。弱い奴の仲間にするわけにはいかないだろう」
・・・ということは、今はある程度実力を認めてくれているのか?
「最低限だがな」
おれの心を読んだように彼女は言う。
「身内って誰なの、ししょー?」
トラメが言う。
「オレの妹だ」
「あんたに妹がいたのか?」
おれは、なんとも言えない気持ちになる。
コアコ・ルミクのように強いのだろうか・・・・・。
だとすれば仲間になってくれるのは嬉しいが、このきつい性格が増えると思うと気が進まない。
「つよいのー?」
「ひとりはな。今、キョウトに住んでいる。近々、ここに着く予定だ・・・・」
なんだもう、話が進んでいるのか・・・。
「もうひとりは、戦闘力は皆無だが、なかなか使える・・・・・」
「なんだよ、使えるって?」
「会えば分かる。明日にでも迎えに行け・・・」
「明日!?どこに住んでんだよ」
「A地区だ」
A地区か。ここからなら近いな。
「名前は、カルア・ルミク。無傷で連れて来いよ」
あんたは、行かないんだな・・・・・・。
翌日。
だいぶ体が軽くなっていた。
「お兄ちゃん、もう動いても平気なの?」
「あぁ、寝てばっかりいてもしょうがないからな。体を動かさないと・・・」
おれは、手足をストレッチしながら言う。
コアコ・ルミクの妹、カルア・ルミク。
彼女は、なにやら店をやっているとかで、そこまで迎えに行くことになった。
場所は、自分で調べろと言われたので、ネーヤから借りたスマホのナビに、頼ることにした。
行くのは、おれとトラメだ。
ムサネは、また修業をしたいとか言っていた。
コアコ・ルミクも、行く気がないようなので、ネーヤは彼女と一緒の方が安全だと考え、
ここにいてもらうことにした。
「二人でお出かけは久しぶりだね!」
「そうだな、じゃあ行くか!」
ネーヤに見送られながら、おれたちは丘を降りて行った。
A地区は、周りが森に囲まれた自然豊かなところだ。
とりあえず、行けるところまでバスで行って、そこから歩くことにした。
ニホンの至る所で“神技”使いによる被害が出ていたが、公共交通機関などは、まだ機能しているみたいだな・・・・・。
それもいつまで続くのかは分からないが・・・・・・・。
バスに一時間ほど揺られて、おれたちは降りる。
そこからさらに、三十分ほど歩くと、徐々に周囲に緑色が増えていく。
「気持ちいね~」
「あぁ、自然ってなんかいいな」
なにがいいって具体的には言い表すのは難しいけど、とにかく心がきれいさっぱり丸洗いされていく気がする。
「そういえばトラメたち、ピクニックとかしたことなかったね~」
「・・・・・・・そうだな」
両親がいなくなって、おれは働きづめだったからな。
そんなことする余裕はなかった。
どちらかというと、今陥っている状況の方がのんびりできることは少ないはずなのに。
なんだか不思議なものだな・・・・。
さらに歩みを進める。
そこは周りが木で埋め尽くされた草原だった。
風で葉がカサカサとこすれる音、チッチッチッと規則的な音をだす小鳥の鳴き声、チョロチョロと小川が流れる音。
自然が奏でる音色でそこは満たされていた。
心が和むその場所で、一軒、家が建てられていた。
周りの緑とは一転して、赤茶色の木で建てられた家。
家を囲うようにピンクや黄色の花が一面に咲いていた。
しかし、家の前に自然に馴染むことが絶対にできない黒い物体があった。
よくみると、車だ。
安い給料で働く肉体労働者が詰め込まれるような、大きいバンだった。
なんでこんなものがここに・・・・。
「ここがカルア・ルミクの家か・・・・・」
「どんなひとだろうね、ししょーの妹さん」
「すぐ蹴ってくるやつじゃないといいな・・・」
おれたちは、家の前につく。
カルア・ルミクと書かれた木の表札が扉にかかっている。
扉の横にはいくつか水瓶があり、メダカが活発に動いている。
コンコンッ。
おれは、玄関をたたく。
「はーい」
穏やかな声が遠くから聞こえる。
カチャッ、と扉が開く。
「こんにちは~。コアちゃんのお弟子さんたちね。初めまして、カルアです♪」
満開の桜が咲き誇っているのかと勘違いしてしまうほどに、その笑顔は美しかった。
「はじめまして、トラメです!!」
「・・・・・・どうもウルです」
トラメがいつも通り明るく挨拶する中、おれは彼女の姿を見るのに必死だった。
カルア・ルミク。
背は、おれよりと同じくらい。
細身だが女性らしくふっくらとした体に似合う、白色のワンピースで中央や袖にピンクのレースをつけている。
髪は長く薄白紫の色はとても色っぽかった。
まるで聖母のような、温かみのある笑顔。
エロいだけのコアコ・ルミクとは大違いだ・・・・・。
「わざわざ迎えに来てくれてありがとね」
彼女は相変わらず笑顔でそう言う。
「いえ、自然に囲まれててすごく良いところですね!」
トラメが言う。
カルア・ルミクは、ありがとう、ため口でいいのよ、と言っていた。
性格もすげー良さそう。
「わたし、昔っから自然が大好きなの!だからお店もここに開くことにしたの」
「お店ってなんのお店なんすか?」
「簡単にいうと占いね」
占い?彼女のイメージとは少しずれるな。
「詳しいことは中で話すわね。今、お客さんもひとりいるの」
彼女はそう言うとおれたちを中に招いた。
外と同じく赤茶色の木で作られた内装は、なんとも落ち着く空間だった。
玄関をまっすぐ進んで、右の部屋に出る。
そこには、窓側の半分が椅子やテーブルが置いてあり、反対側の半分はカウンターになっていた。
おしゃれなカフェみたいだ。
しかし、そこにまたもや黒い存在が。
男は、カウンターの真ん中の席に座っていた。
体格ががっしりしていて、黒いフード付きのロングコートを着ていた。
腕には、黒い布がぴっしりと張り付いている。
今日は、天気がいい。
かなり暑いはずなのに、男には肌が露出した部分がなかった。
男がこちらを振り向く。
おれは、ドキッとする。
その顔は、不気味なマスクで覆われていた。
全体は白く、目は〇と×がそれぞれ赤くついていて、
口のある所は、黒くギザギザに描かれている。
なぜが笑っているのように見えるのだが・・・・。
その男(定かではないが)の、雰囲気を一言で言い表すなら、死神だった。
まさか、こいつ“神技”使いか・・・・・・・・・・。
おれたちの魂を狩りに来たのか、得体のしれない黒い存在から目が離せなかった・・・・・。
黒い不気味な男・・・・。
彼は、一体・・・・・!?
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