第三話 エデン ニューゲーム②
【エデン】
地球大戦において、ボクが期待している人達がいる。
1つは、凶悪な犯罪者。
理性で抑制できない、衝動性。
無慈悲な残酷性。
手段を選ばない狡猾さ。
彼らの、非人道っぷりは、この戦いの場にぴったりだ。
“神技”により、さらにたかが外れた獣は、ボクを多いに楽しませてくれることだろう。
そしてもう1つ、期待している人種。
それが今、ボクの目の前にいる。
「ズバリ、ヲタク!!彼らの1つのことに情熱をささげる姿勢!
それは、“神技”の研鑽にとって、大変、重要なこと!とても素晴らしい才能だ!!」
ボクは、両の手を目一杯広げ、高々と声をあげる。
駄菓子屋の隣、民家の屋根。
間一髪、炎の奇襲から逃れ、飛び乗ることができた。
そんなボクを下からねめ上げる人物。
奇襲の張本人。
「ふ~ん、やるね!あの炎を避けて、そんな所まで移動するなんて。
だけど、どうして、おれさまがヲタクだと思うんだ?」
「イブに教えてもらったことがあるからさ。
そうそう、イブっていうのは向こうの屋根にいる子ね。ボクの付き人だよ。」
イブもなんとか逃れたらしい。
だが、一向にこっちに来る気配はない。
わたしは、戦闘に参加しませんから、という意思表示を感じる。
もちろん、ボクの望み通りである。
「眼鏡にボサボサ頭、その2色を組み合わせた服、太った体。
見せてもらった資料にそっくりだ。
だけどその黒いロングコートは不釣り合いだな、君が着るにはかっこよすぎるよ」
ボクの挑発じみた発言に対して、彼は軽く、うるせえよ、と答える。
「いや~、君たちの熱意と創造力には期待していたけど。
まさか、ここまでとはね。
こんなに早く“神技”を使えるようになるとは」
ボクは興奮冷めやらぬ口調で話す。
「それよりボクの居場所はどうやって知ったの?」
「ふん!君の凝り固まったヲタク像にはむかつくけど、教えてやるよ。
あの撮影してた公園、あれは家の近所だ。
家で動画を見てたおれは、5分足らずで“神技”を開花させて、扱えるようになったよ。
そして、例の公園に行き、そこにいたガキにあんたらがどの方向に行ったか、聞いたわけさ。
今日は暑いし、まだ近くにいてどこかで涼んでいると踏んで探したわけさ。
で、数十メートル離れたここに、たどり着いた」
「そうかそうか。それじゃあ、デカヲタくん♪もう一つ質問。
どうしてこんなにはやく、ボクの所にきたんだい?
もっとその能力を使って、暴れたいとは思わなかったの?」
「もちろん、これからそうするさ。
この腐った人間しかいない世界なんて燃やしてやるつもりだよ。
だが、その前にあんたを殺しに来た。
命惜しさに気が変わって、能力を没収なんかされたら困るかな」
ボクは鼻で笑う。
「大丈夫、安心してよ。ボクができるのは君たちに能力を与えることだけ。
君の“神技”をどうこうすることは、できないから」
「そうか、確かにそれを聞いて安心したよ
お前を殺しても“神技”はそのままってことだな」
突如、二人の間に緊張が走る。
「灰になっちまえ!神!」
彼が叫ぶのと同時に、足元から炎が湧き出る。
炎の先端をみると、それは龍の顔をしていた。
「脚下炎龍!!」
足元にあった龍の顔をした炎は、真っすぐボクの方へと飛んできた。
ただし、スピードは大したことない。
ボクは、軽く横に飛び避ける。
その瞬間、炎は直角に曲がり、ボクの方へとやってきた。
ボクは慌てて、腰をそらす。
ブリッジの体勢だ。
炎は、体の上を通過し、後方で燃えあがる。
ボクは体勢を戻しながら話す。
「ひゃあ~、あぶね~。
なるほど!君の“神技”は足元から龍をかたどった炎を出し、それを操るというものか」
彼は、ニヤリとしてから答える。
「そのとおり。名を“脚下炎龍”
おれさまの足元から繋がった状態ならば炎龍の向きを変えることができる。
だが、切り離すと自由に動かすことはできないがな」
「詳しく教えてくれて、どうも。
ずいぶんと余裕があるってわけだ。
それじゃあボクも、ボクの能力について話すよ」
ボクは力を誇示するように、顔の前に手をかざす。
「ボクの“神技”は“死の救済”
自らの手で殺した者の“神技”を奪うことができる。
そして、ボクはまだ地球大戦で人を殺していない・・・。
これが何を意味するか分かるな?」
「・・・つまり、お前には今、使える“神技”がないってことか」
「ご名答!つまり、この戦いが地球大戦においてボクを倒す最後にして最大のチャンスってことさ!!」
ボクとデカオタくん、本格的な戦いが始まる。