第二話 エデン ニューゲーム①
【エデン】
「なんでこんなに少ないの?」
晴れ渡る空の下。
駄菓子屋の前。
アイスを食べながら不平をもらしている男。
そう!ボクこそが、人間が畏れ、敬い、崇めたてまつる神だ。
しかし、そんな神が投稿した動画。
再生回数は、わずか16回。
人間ってこんなに少なかった?
「まだ投稿して30分も経っていませんから。
それにエデン様はネット界隈では、まだ無名、当然の結果です」
「お前は、さらっと辛辣なことを言うね」
横に座って無表情でアイスを食べている女のほうを見る。
イブ、彼女は、ボクと一緒に神の国からやってきた。
ボクの身の回りの世話や地球大戦の動画を投稿するために。
ボク、ネット苦手だから。神の国にないし。
そして、ボクと同じ地球大戦のなかで数少ない、神の参加者だ。
「ただ、この状況もすぐに変わりますよ。
“神技”を得た人間が街で暴れれば、誰かがこの動画と結び付けて、話題になる。
力が本物だと分かれば、皆がエデン様のことを注目しますよ。
そうなれば一躍有名人」
イブは淡々と説明する。
確かに彼女の言うことに異論はないが、ボクは頬杖をついて眉根を寄せる。
「そう順調に事が運ぶといいけどね~。
“神技”を扱うって一朝一夕でできるもんじゃないんだよね。
第一、能力に気づくまでが大変だと思うよ。
そこからどんな能力なのか見極めていかないとだし」
「けれど、わたしはすんなり使えましたよ」
そういうとイブは片目を閉じた。
おそらく先ほどの公園で見た子どもの姿が見えているのだろう。
「それは君が神だからだよ。体質が合うみたいな感じかな、“神技”とね。
それより、“神技”の研鑽は忘れないでよ。
できるだけ早く、君が見ているものをボクも見られるようにしてほしいんだから。」
「分かっていますよ。ところでエデン様の方はどうなんですか?」
さっきとは違うアイスを咥えながら、イブが聞いてくる。
何本喰うんだ、このひと・・・。
「いや~、もちろん知覚はしているんだけど、実際どうなるかは分かんないんだよね。
いかんせんボクの能力には、相手の協力がいるからね」
「協力とは、ずいぶん美化した言い方ですね。」
イブの言葉にエデンは皮肉な笑みを浮かべる。
地球大戦を始めるにあたりボクとイブの“神技”はあらかじめ決めておいた。
ボクが持っていた前の”神技”によってね。
このゲームを最大限、ボクが楽しめるように。
ただし、細かく設定することはできなかった。
だから、ボクの能力も、ボクの望んだとおりになっているのかは不明だ。
「それにしてもどんどん暑くなるな、これじゃあ体が燃えそうだ・・・」
ボクも二本目のアイスの封を開けた。
しかし、それを味わうのは、まだ先になりそうだ。
突然、炎が視界いっぱいに広がる。
そしてボクの居たところが、あふれんばかりに焼き尽くされた。
すると男の野太い声が耳に入る。
「おいおい!こんなもんか神は!!ちょろすぎるぜ~」
男は、燃え盛る駄菓子屋の前に立っていた。
その太りすぎた体には似つかわしくない、ビシッとした黒いロングコート、その下は赤白のチェックに肌色のズボン。
髪はボサボサで、そばかすだらけの顔にはメガネをかけている。
地球大戦が始まって、数十分。
こんなにも早く奇襲を受けるとはね。
予想を超えるスピードにボクは、ワクワクしたよ。
これからこのゲームが楽しくなっていくのを実感したね。
え?燃やされちゃったのにどうしてそんなに余裕なのかって?
それはもちろん・・・。ボクが神だからさ!!