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地球大戦  作者: ET
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第十二話 木刀の女

【ウル】

乱れる息、おぼつく足、全身を襲う鈍い痛み。

おれは、疲弊(ひへい)した体を必死に動かし、新たな刺客(しかく)から逃れる。

だがおれとは対照的に、彼女の方は元気いっぱい。

おのずと距離を縮められる。


ヒュッ、

例の音が聞こえる。

おれの背中がスパッと切れる。

「くっ!」

痛みの衝撃で、おれは、勢いよく前に倒れこむ。

だが、膝をついたまま、素早く彼女の方を向き、身構える。


その様子をみて彼女は、速度を緩めて歩いてくる。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「ずいぶんと疲れているようね。今楽にしてあげる」

彼女は言う。

おれは、構えをとき、その場で胡坐(あぐら)をかく。


彼女の顔はこわばり、問いかけてくる。

「どういうつもり?まさか、諦めたの・・・?」

「ちげーよ。こちとら疲れ切ってるんだ。

あんたの芝居に付き合うのは、もうやめた」

「・・・・なにを言っているの?」

「とぼけんなよ。あんたは、おれを殺す気がない」

おれは、平坦(へいたん)なこえで話す。


「おれは自分の危険を心臓の鼓動によって感知することができる

命にかかわるような危険なら激しく心臓が鳴り響く。

だけどあんたの攻撃を受けたときも、あんたに追われているときも

心臓の鼓動は、ほんの少ししか鳴っていなかった」

彼女は眉間にしわを寄せながら、黙っておれの話を聞く。

「ってことは、あんたはおれにとって危険な存在じゃないってことさ」

おれは、完全に戦闘態勢を解いた。

彼女はまだ、黙っている。

「いい加減、白状しな。

じゃないと・・・・おれが・・・・」

おれはその場で倒れこみ、眠る。

その寝息はとても安らかだったはずだ。



目が覚めると、古びた木目の天井が見えた。

体が重い。

体を起こせずにいると、誰かが背中を支えてくれた。

そのままおれは上体をおこし、周りを見渡す。

日が落ちたのか薄暗い。

明かりは、近くに置いてある、ろうそくの火だけだ。

壁や床が木で(おお)われている。

どこかの道場のようだ。

そして、体を起こしてくれた人の方を向く。

さっきまで敵対していた女がそこにいた。



彼女は、やかんにはいったお湯を湯飲みにいれ、湯気が立つそれをおれに渡した。

軽く礼を言い、おれは尋ねる。

「それで、どうしておれを襲うフリなんかしたんだ?」

「あなたを試したのよ」

彼女が答える。

「試す?何を?」

「あなたが信頼できる人間かどうかよ」

「信頼ね~」

おれは、湯飲みを口につける。

湯気で顔が熱される。

あつい。


「あなた、例の動画は見た?」

「動画・・・?そういや、あいつもそんなこと言ってたような。

おれ、携帯とかもってないから、知らねえや」

「あなたと私の能力。これは、その動画を投稿した神が与えたものよ。

“地球大戦”と称して私たちを戦いに巻き込んだ」

彼女は伏し目がちにおれを見た。

「何人いるか分からない敵から身を守るには、仲間がいるのよ」

なるほど。おれが自分の仲間にふさわしいかどうか試していたわけね。

「仲間か・・・・。

けどあいつの話だと、神は自分と戦って欲しいんだろう?

誰かがそいつを倒せばこの戦いも終わるんじゃ・・・」

おれは、息を吹きかけて、一口お湯をすする。

彼女は、(あき)れたようにため息を吐く。

「あんな目に会っておいて、よくそんな楽観的な考えでいられるわね」

おれはムッとする。

「例え神が死んでも、わたしのたちの能力が消える保証はないわ。

そうなれば、神が死んだ後も力を持ったものが、この世界を支配しようとするでしょうね。

あの爆弾男みたいに」

おれは、タレスの顔を思い出す。そしてある疑問が浮かぶ。


「そういえばあんた、なんであいつが爆弾で人を殺したことを知ってるんだ?

・・・まさか、ずっと見てたのか?」

「・・・そうよ。あなたが校門の前で、彼と対峙している時からね」

平然と答える彼女に対して、おれの顔は蒸気する。

右手で彼女の胸ぐらをつかむ。

彼女の道着が強く引っ張られる。

「じゃあ、なんであの時に、あいつを仕留めなかった!!

そうすれば商店街の、あの爆撃は防げただろう!!」

彼女は無表情のまま、おれが左手で持っていた湯飲みをひったくり

おれの顔面に浴びせる。

「あちっ!!なにすんだお前!!」

胸ぐらから手を放し、わめくおれを無視して、彼女は話を続ける。

「できるならそうしてたわよ」

気のせいか、彼女の瞳は少し潤いが増した。


「・・・・あんたの“神技”を使えばいけただろう」

おれは、申し訳なさそうに言う。

「私の“神技”はあの男のような殺傷能力はないわ。

風のいたずら(チープ・ガスト)”・・・・。

私が木刀を振りかざすと、ちいさなかまいたちのようなものがおこる。

だけど威力は弱い。

できる傷は小指大くらい。

急所にピンポイントで当てない限り仕留めることはできないわ。

そう、あのときあの男が、動かずにじっとしていたからできたことよ」

おれは、舌打ちをし、顔そらす。


「私の力は強力じゃない。それはあなたも同じでしょう?」

「だから、おれと組むってことか?

けどおれの“神技は攻撃能力が皆無だぜ?

そんな弱いやつと組んだってしょうがねぇだろう?」

「・・・・そうね。藁にも縋る思いってところね」

おれは、頬を膨らませる。

「だけどあなたの能力・・・一見地味だけどなかなか使えると思うわよ」

「・・・そうか?」

「私にしたように、自分に敵意があるかどうか見極められる。

仲間探しが容易になると思うわ」

「・・・ふ~ん」

おれは、まんざらでもなさそうな顔をする。

「その分戦力にはならないけど、私がカバーするわ」

こいつ、人を上げたり、下げたり、忙しいやつだな。


「どうでもいいけど、あんたはどうやって“神技”に気づいたんだ」

「ひとりで、ここで稽古をしていたのよ。

素振りをしていたら、突然、風の音が聞こえて、壁に切れ目が入ったわ」

彼女は道場の壁を指で示す。

そこには、細長い切れ目があった。

あれ?

おれは、とある違和感を口に出そうとするがそれよりも早く、

彼女が言葉をかける。


「とりあえず、今日はもう日が暮れているし夕食を済ましたらさっさと休みましょう。

今後のことは明日考えれば・・・・・」

彼女が言い終わるより早く、おれは立ち上がる。

急に立ったせいでめまいがして、ふらつき、膝をつく。

「急にどうしたのよ?」

彼女が心配そうに声をかける。

「・・・・トラメ。あいつが待ってる」

「・・・トラメって?」

「おれの妹だ。おれたちは両親がいないからあいつは今、家でひとりだ。

はやく帰ってやらないと」

「無理よ、その体じゃあ」

「うるせえ!あいつ、生意気なところもあるけど、すげー寂しがり屋なんだ。

ネーヤもいない、今、すごく不安になってるはずだ」

「・・・・ったく、分かったわ。私も一緒に行くわ」

彼女の言葉におれは不思議がり、じっと目を見つめる。

「そんな状態で“神技”をもつ人と会ったら、間違いなく殺されるわよ」

彼女は足元の木刀を手に取る。

「私が守ってあげるわ」

その姿に妙な色っぽさを感じた。



おれはうなずぎ、二人して道場を飛び出す。

小走りなおれのあとを彼女がついて来る。

「・・・おれはウル。あんたは?」

「・・・・・。ムサネよ」

とりあえず彼女のことは信頼してよさそうだ。

おれとムサネは、街頭に照らされた夜の街を静かにかけていく。





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