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勇者魔王を倒す

「うっ…」


体中が痛い、喉は焼けるように熱く目もぼやけている。何かが焼けたような嫌な匂いと、パチパチと夜を照らす炎が見える。燃えているのは、私の家だ。父さんと母さんと3人で過ごした家だ。


「ライア、貴方はここに隠れて。何があっても出てきてはダメ」


「でもお母さん!」


「ライア、貴方は私とお父さんの大切な宝物なの、お願い生きて!」


お母さんは、いつもと変わらない笑顔で微笑むと床下に私を隠した。しばらくして悲鳴が聞こえた。私はどうすることもできなかった。ただただ声を殺して蹲っているしかできなかった。それから物音が消えて、床下から這い出た時そこにあったのは冷たくなった母の亡骸だった。


私が大声で泣き出す瞬間、突然の爆風が私を襲った。私はその勢いで家裏の林まで吹き飛ばされた。薄れゆく意識の中、確かに見た。人間とは違う、異形の化け物たちを。


それから、十数年私は剣の修行に明け暮れた。あの異形達を倒すそのためだけに生きてきた。


18になった時、私は聖剣の儀に参加した。なんでも魔王を倒すものにしか抜けないという聖剣を抜くという儀式らしい。聖剣は世界の何処かに出現し勇者がそれを抜く。そして勇者が死ねばまた何処かに聖剣が現れるのだ。しかし、200年前に現れた勇者が聖剣を抜いて以降だれもその剣を抜いたという話はないという。なので毎年恒例の行事になりかけているという話だった。


私も半ば遊び程度の気持ちだったのかも知れない、だけどその時、私の人生は変わってしまったのだ。


ガキッ


「えっ…」


先程まで出店や周りの観客の声で騒がしかった街が急に静まり返る。


「ぬ、抜きやがった」


私は選ばれたのだ、世界を救う勇者に。しかし、それは喜ばしいものでは無かったらしい。


「まさか、本当に抜くやつがいるなんて」


「た、大変だ!直ぐに村長に!」


私はわけの分からぬまま村長のもとへと連れられた。


「おぉ、何と言うことだ!まさか本当に勇者が現れるとは」


「どういう意味ですか?」


私はそう答える。


「その剣は魔王との戦いを決定づけるもの、魔王と勇者は必ず争う宿命。その剣が抜けたということは、つまり魔王もそのことに気が付いたということです」


私は感づいた、そうかこの街から勇者が現れたということは、勿論奴らはそれを狙ってくる。


「貴方には大変申し訳ないのですが今すぐこの街から出ていってくれ」


私にとって、勇者に選ばれたのは嬉しかった。私の故郷を奪った異形種、父と母の仇。この手で魔王を倒すことができる。その喜びで満ちていた。やっと報われる、そのために、そのためだけに私は今まで生きてきた。


本当は聖剣を抜いてからすぐに魔王を倒しに行きたかったが、魔王の手先、魔族が度々襲ってくる。奴らは強い、人間とは比べ物にならないくらいに。特に奴らが使う魔法は厄介だ。炎、水、氷、雷、此方の体の自由を奪う魔法。そんな奴らと戦うたびに私は苦戦を強いられた。


修練を怠ったわけじゃない、だけどそれ以上に奴らは強いのだ。一度は仲間に頼ったこともあった。しかし、誰も私に協力してくれるものはいなかった。勇者のパーティに入るということは、それだけ魔族に狙われるということだからだ。だから誰も私と組もうとはしない。


私は剣を振り続けた。10年、20年、30年いったいどれだけたっただろう。そんなある時初めて異変に気がついた。それは、私が久しぶりに聖剣を抜いた街によったときだ。かつて聖剣が刺さっていた場所には家が建っていてその面影は全く無かった。


「ん?なんだあんた、聖剣?あぁそういえば40年くらい前にここに聖剣があったなんて話もあったな。まぁ今はご覧の通り何の変哲も無い街さ、しかしあんた見ない顔だね、あんたみたいなべっぴんさんは見たら忘れないと思うんだが、街の外から来たのかい?」


そうか、もうそんなに月日が経っていたのだと実感する。しかし、それと同時に違和感を覚えた。40年、そう聖剣を抜いたあの日から40年もの月日が流れているのだ。だけどどうだ。私は宿屋で自分の顔を確認する。今まで剣の修行だけに集中して気が付かなかったが、私は()()()()()()()剣を抜いたあの時の。


おかしい、もうあれから40年経っているのに体付きや、顔になんの変化もないのは明らかに変だ。私は聖剣を見つめる。恐らくこの剣の影響だ、どうしてか私の年齢はあの日から止まってしまったらしい、しかしそれは都合の良いことがなのかもしれない。人間の一生は短い、だけどこれならずっと鍛錬できる。魔王を倒すレベルまで。


それから200年後


「遂に来たか勇者よ、たった一人で我が城に乗り込んでくるとはな」


「お前さえ居なくなれば、もう悲しむ人もいなくなる。今日、ここでお前を殺す!」


「フハハハ!!我を倒せば争いは終わる?誰かにそう言われたのか?愚か者めが、貴様ら人間は自ら争いを望んでいるのだ。現にお前達は人間同士でも殺し合っているではないか、全く愚かな奴らよ」


「黙れ!貴様の戯言など聞かない!」


「愚か者めが!」


魔王の強大な魔法が襲い掛かる。次から次へと襲い掛かる魔法はとどまることを知らず、徐々に私を追い詰めた。これだけ修練をしてもまだ駄目なのか、しかし、200年という剣の修行は嘘をつかなかった。荒ぶる魔法の間に見えた一瞬の隙、私は懐に潜り込むと魔王の喉元を引き裂いた。


「まさか、これ程とは…な…」


魔王はその場に倒れると、塵となって消えていく。あれから200と40年私は遂に仇を取ったのだたった一人で。誰も助けてはくれなかった、だけど一人でやると決めてからなんの迷いもなかった、私には無限の時間があるのだから。誰も魔王を倒すことは望んではいなかったけど。私は私のやるべきことをやったんだ。今はそれでいい。


魔王を倒してから、街の風景はあまり変わらなかった。魔族の攻撃が減った、なんて話は聞くが普段とあまり変わらない様子だった。


私は私の村だった場所を訪れた。あれから長い年月が経っていて倒れた家屋には苔や草木が生い茂っていた。私はかつて自分の家だった場所に行くと母と父に魔王を倒したことを告げた。そうだ、私の戦いは終わったのだ。もう何も思い残すことはない、何も。私は聖剣に手をかけると自らの首元にその刃を向けた。


「お父さん、お母さん私も今から貴方達の元に行きます」


私は力を込める。しかし


カタカタカタッ


「何故だ?何故手が動かない?」


今更もう未練などない、仇も討ったというのに。この世に私の家族も仲間と呼べる存在もいない、魔王も倒したのに何故だ!?


聖剣の防衛反応なのだろうか、主を死なせまいと私の時を止め、あまつさえ死のうとしている私を許さないつもりらしい。


「このっ!」


私は聖剣を投げ捨てると近くにあった木材を手に取り再び自分の首元へとやるが、結果は同じだった。


「なんで」


もう私の生きる意味はなくなっているというのに、何故聖剣は私を生かすの?私はヨロヨロと歩き出した。何日も何日も宛もなく歩いた。聖剣がなくてもどうやら聖剣と繋がっているらしく、何日も食べなくてもお腹は減らないし、寝なくても平気らしい。


「おい、聞いたか?勇者の話」


ふらふらとよった酒場でそんな話を耳にする。


「あぁ、なんでも魔王を倒したんだとよ。全く迷惑な話だぜ」


それは、私が思っても見なかった言葉だった。


「上を失った魔王軍は離散、結果各々やりたい放題に暴れてやがる。前よりひどくなってねぇか?」


「全くだ、誰が倒したなんて望んだよ」


「最近は魔族が放棄した領土を巡って、北と西の国が戦争だとよ」


私は、間違っていたのか?私はだた仇を討ちたかった。その根源である魔王を倒せば世界は平和堂になると思っていたのに。


それから20年、私はゆく宛もなくただ彷徨った。死なない、いや、死なせてはくれないこの聖剣の呪いから目をそらすように、こんなことならあの時魔王に殺されていれば良かった。


それからさらに100年が経った。国家どうしの領土の取合は激化し、度々襲い掛かる魔族の残党たちの恐怖に怯えながら人々は暮らしていた。


ある時、夜の森を彷徨っていた時だ。真っ暗な森の中にひときは明るく光る場所があった。私はその光を知っている。瞬間、あの時の光景がフラッシュバックのように脳裏に鮮明に映し出された。


次の瞬間目的を失ったはずの私の体は、その明かりの元へと走り出していた。


パチパチと音を立てて燃える家屋、何かが焼けるような嫌な匂い。あの時と同じだ。


燃え盛る炎の中に2つの人影が見えた。


一人は人間の女の子、そしてもう一人は人間でない異形、魔族だ。その魔族が手を振り上げた瞬間、私は無意識に走り出していた。落ちていた剣を拾い上げると、10メートル以上はあろう距離を3歩で詰めた。少女と魔族の間に割って入ると、魔族は驚いた表情を見せ、振りかぶった手を私に向けようとするが、そのときにはもう既に私の剣は魔族の首を跳ねていた。


いつぶりだろうか、魔族を殺すのは。今更こいつらにはなんの感情も残ってはいない、ただ少女と私の姿が重なって見えて反射的に体が動いてしまった。振り返ると少女の姿がない。辺りを見回すと、ある家の前でたちつくすのが見えた。


「お前の家か?」


少女はなにもいわず頷いた。スカートの裾を握りしめ、その手は小刻みに震えている。


あの時の私と同じだ、この子はきっと魔族を憎むだろう、たった一人で残されたところで結局この場で死ぬか、魔族に復讐するかしか道は残されていない。私は本当はあの時と家族と一緒に死にたかった。あのあと気が付いたら違う街のベットで寝かされていた。助けてくれたことには感謝している。だけど、そんな私に残されたものは復讐心だけだった。この子もきっとそうなる。


「父も母もあの魔族に殺されたか、生き残ったのはお前だけだ、このままお前一人で生きるか、それとも家族と一緒に死にたいか?」


私は少女にそう訪ねた。少女は、涙を流しながらこちらを見上げた。


「生きだ…い」


その時私はハッとした。


「お願い、生きて」


母の最後の言葉が過った。そうだ、母は私に生きてほしいといった。この子の母親もきっと同じ事を言うだろう。なのに何故私は…!私は何のために魔王を倒したんだ!復讐?違う!私みたいな子供が、もう二度と現れないようにするためだろ!


「一緒に、来るか?」


私はそう言って少女に手を差し伸べた。少女はそれに答えるようにその手を握った。

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