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21 契約結婚の行方③

「はい、もちろんです。さあどうぞ!」

「私たちが結婚の際に締結した契約に、次のようなものがあったはずだ」


・公の場では仲睦まじい二人を演じる

・必要以上の身体接触を行わない


 サンドラは、うなずく。


「ありましたね」

「この二点について、修正を加えることを提案したい」

「……なるほど? どのように」

「たとえば……」


・いつも仲睦まじい二人である

・それぞれの気持ちに応じて随時、適切な身体接触を行う


「……とするのはどうだろうか」


 パーシヴァルが至極真剣な眼差しで言うので、サンドラはしばしぽかんとしてしまった。


(……え? ……ええと、これはつまり?)


「……要するに、仮面夫婦をやめて本当の仲よし夫婦になり、お互いの同意があればハグやキスなどもしてよいと?」

「そ、そんなところだ」


 パーシヴァルが照れ照れとするので、なんだかサンドラまで照れ照れしてしまう。


「私たちはもう、利害が一致したから結婚した夫婦ではなくて、お互いが相手のことを精神的にも必要としており、好意を抱いている状態だ。だから、その、今後はもっと夫婦らしく距離を詰めていきたいというか……」

「……」

「……要するに君とハグやキスをしたいということだ! そういうことだ!」


 最後は自棄のようになりつつもパーシヴァルが言い切ったので、サンドラはつい小さく噴き出してしまった。


「ふふっ……ありがとうございます、パース様。ご提案、とても嬉しいです」

「で、では」

「はい。……あ、あの、でも今すぐキスとかはちょっと恥ずかしいし、ハグをしたらちょっと痛いところがあるかもしれないので……」

「ああ、もちろんだ。随時、適切な身体接触を行うのだから、君の怪我が完治するまできちんと待つ。安心してくれ」

「ありがとうございます。……私も、待っていますね」

「……ああ」


 二人は微笑み合い、そっと手を握った。


 今はサンドラの怪我のこともあるし、契約内容を更新したばかりでもあるので、これだけで十分だ。

 だが、いずれ。


「……好きだ、サンドラ」

「私も好きです、パース様」


 青色と紫色の目が互いを見つめ合い、ふわりと笑う。


 きっと近い将来、二人の目がもっと近い位置で互いを見つめ合う日が来るはずだ。










 サンドラの左肩の火傷が完治したのは事件から八日後で、その頃にはビヴァリーや女暗殺者、アガサたちの処罰も終わり、王子妃襲撃事件にもひとまずの片が付いていた。


「長い間お世話になりました」

「こちらこそ、サンドラ様のお力になれたのならば誇らしいことです」


 サンドラは、療養期間を過ごしたギャヴィストン侯爵邸の前でアーシュラとロイドに礼を言っていた。

 サンドラの完治を喜ぶアーシュラの隣に立つロイドはあまり表情の変化は見られないが、彼は事件の後始末に奔走したりパーシヴァルからの手紙のやりとりをしてくれたりした。


「もしなにかありましたらいつでも、うちにおいでくださいね。ウィレミナもすっかりあなたが気に入ったようですし、また遊びに来てくださったら嬉しいです」

「ええ、もちろんです!」


 アーシュラとロイドの娘であるウィレミナとも、侯爵邸に滞在している間にすっかり仲よくなれた。

 まだ二歳なので舌っ足らずながら「サンしゃま」と呼んでくれたのが嬉しかったし、サンドラとしても是非ともまたウィレミナに会いに来たいところだ。


 そこに、馬車の車輪が石畳の上を転がる音が近づいてきた。


「サンドラ、迎えに来た」

「おはようございます、パース様。お迎えありがとうございます」


 サンドラが振り返ると、侯爵邸の前に停めた馬車から降りてきたパーシヴァルが爽やかに微笑んだ。

 すぐさま使用人たちが馬車にサンドラの私物を積み込み、出立の準備をする。


「また、離宮に訪問させてくださいね」

「ええ、もちろんです。ロイド様も、ありがとうございました」

「……無理だけはされないように。殿下も、あまりサンドラ様に無茶をなさらないでくださいね」

「分かっているとも」


 ロイドに忠告されたからかパーシヴァルは若干不満げだったが、サンドラとアーシュラがくすくす笑うと苦笑をこぼし、サンドラに手を差し伸べてくれた。


「さあ、帰ろう、サンドラ」

「……はい」


 パーシヴァルに手を取られて馬車の方に向かおう――とした瞬間、ぐいっと抱き寄せられてがっしりとした胸板に抱き留められた。


「きゃっ!?」

「……ふふ。やっと、君とハグできる」

「……も、もう! いきなりはだめですよ!」


 そう言いつつも、サンドラはパーシヴァルの胸元にしっかり身を寄せた。それに気づいたパーシヴァルがふふっと笑い、サンドラの前髪をそっと掻き上げて唇を押し当ててきた。

 ……背後で、「なんでここでするのですか……」とロイドが呆れた声を上げていた。


「愛しているよ、我が妃」


 幸せのにじみ出るような声で囁かれ、サンドラはかっかと熱を放つ頬をパーシヴァルの胸元に押し当ててうなずいた。


「……私もです、パース様。私の……王子様」

本編はここで完結です。

最後におまけで、サンドラの従兄弟たちの活躍をご覧ください。

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