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13 公爵令嬢との対面

 お披露目パーティーの日の朝に体調を崩して欠席したビヴァリーは、パーティーから五日後に離宮を訪問することになった。


 離宮の主の従妹の来訪ということで他の使用人も総出で出迎える中、玄関ドアが開かれた。夏の陽気を背に浴びて立つ、麗しい令嬢の姿がサンドラの視界に入る。


 背中に垂らした豊かな巻き毛はとろりと甘いハニーブロンドで、長いまつげの奥で瞬かれた目は夏の空のような濃い青色。レモンイエローのサマードレスに包まれた四肢はまろやかで、玄関に入ってくる足さばきや長い髪を掻き上げる手つきなどの一挙一動全てから、品のよさがにじみ出ている。


 美丈夫のパーシヴァルとよく似た雰囲気の美しさを持つ公爵令嬢、ビヴァリー・グレイディ。

 ビヴァリーの濃い青色の目に見つめられて、サンドラは緊張しつつお辞儀をした。


「ようこそいらっしゃいました、ビヴァリー様。パーシヴァル殿下の妻の、サンドラでございます」

「……あなたがサンドラ様ですね。ご挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます。グレイディ公爵家のビヴァリーでございます」


 その声は、繊細な楽器のように愛らしい。


(パース様は、「嫌々付き添ってくれていた」みたいにおっしゃっていたから、もっと気の強い方かと思ったけれど……違ったわね)


 お付きのメイドにバッグを預けるビヴァリーは夏の陽光の中に溶けて消えてしまいそうなほど繊細な美少女で、もし彼女がエドモンズ伯爵家に来ようものならばマッチョ集団を見るなり気絶してしまうのではないだろうか。


 ビヴァリーを応接間に通すと、彼女は丁寧な所作で腰を折った。


「まずは、サンドラ様。このたびはパーシヴァル殿下とのご結婚、誠におめでとうございます。突然のことで驚きましたが、殿下にも春が訪れたようで何よりでございます」


 ビヴァリーの言葉を受け、サンドラは彼女に顔を上げるよう言った。


「幸運が重なり、こうして殿下のおそばでお仕えすることができるようになりました」

「まあ、幸運ですの?」

「ええ。実は……」


 さすがにアガサにいびられていたことを言うのははばかられたのでそのあたりはぼかしつつパーシヴァルとの出会いについて語ると、ビヴァリーは「まあ!」と興奮気味の声を上げた。


「噂には聞いておりましたが、そのような運命的な出会いがあったのですね! そしてまさか、貴族の血を引くご令嬢の中に、殿下の体質への耐性を持った方がいらっしゃっただなんて……」

「私としても驚きです。……ビヴァリー様は王家の縁者ということで、昔から耐性がおありだったとのことですね」


 サンドラが問うと、上品な所作でティーカップをつまんだビヴァリーはうなずいた。


「わたくしは、殿下が半袖の衣類をお召しでも平常心を保てます。わたくしとしてはむしろ、妖精の血とやらの効果の方が半信半疑な状態でして……そういうこともあり、昔から殿下のパートナーを務めておりました」


 ビヴァリーは、なんてことない様子で教えてくれた。


(パース様はビヴァリー様について、「嫌々付き添ってくれていた」とおっしゃっていたけれど……あまりそういう風には見えないわね)


 だがさすがに本人を前にして、「嫌々付き添っていたというのは、本当ですか?」と問うことはできず、サンドラは曖昧に微笑んだ。


「そのように伺っております。……私は未熟者なので、まだビヴァリー様のように殿下をお支えすることはできそうにありません」

「まあ、そんなことなくてよ」


 そこでビヴァリーは微笑み、可愛らしく小首をかしげた。


「だってわたくしと一緒にいるときの殿下、ちっとも楽しそうではなかったのですもの。ですが先日のパーティーでのご様子をお父様から伺ったのですが、殿下はあなたととても仲よさそうになさっていたとか」

「ま、まあ。公爵閣下が、そのように?」

「ええ。……本当に、お似合いのお二人ですこと。どうかお幸せに、サンドラ様」


 ビヴァリーは、女神のごとき慈愛に満ちた微笑みを浮かべてそう言ったのだった。

登場人物メモ⑥

ビヴァリー・グレイディ(17)

グレイディ公爵家令嬢。ハニーブロンドに濃い青色の目。

パーシヴァルの従妹で、彼の魅了への耐性を持つ。これまでは渋々彼のパートナーを務めていたらしい。

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