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6 姉の無茶振り

 「改めまして、今年度の生徒会長に就任したアイリーン・スコールズです。一年間よろしくお願いします」

 やはり、姉は人前に立つのが似合うと改めて思う。姉に生徒会長の仕事がわからないと声をかけられてから四日目。


 ようやく生徒会室に生徒会役員の面々が集められた。副会長をはじめとした生徒会役員達は、男女問わずうっとりと姉に見惚れている。


 挨拶から始まり、各自、簡単に自己紹介をして、姉が仕事内容をテキパキ説明していく。その仕事内容の洗い出しと各自への仕事の割り振りを考えたのが、妹であるマルティナと生徒会役員であるブラッドリーとエリックであるとは思えないくらい自分のものにして堂々と話している。


 「スコールズ伯爵令嬢とまた、一緒に活動できて光栄です。始動が遅かったので、少し心配だったのですが……杞憂だったようですね」

 「ご心配お掛けして申し訳ないです。公爵家への嫁入りの準備で色々と重なってしまって…」

 副会長の伯爵家子息に声をかけられて、少し俯いて表情を陰らせる。伏せられた長いまつ毛が憂いに揺れていて、人目を惹く。


 「卒業後、すぐに結婚ですからね。結婚式も盛大でしょうし、やらなければならない事も立て込んでいるのでしょう。むしろこちらから声をお掛けすればよかったですね」

 「いえ、婚約者の期待に答えたくて、一人で抱え込んでしまったわたくしが悪いのです。これからは、他の方の力も借りて、がんばりますね! 心強いお言葉ありがとうございます」

 憂いの表情から、花の咲くようなふんわりした笑顔を浮かべると、副会長の手を両手で包み込む。


 「ええ、ええ、ええ。ななななんでも頼ってくださいね!」 

 姉の笑顔と手を握られるという常套手段に、副会長は落ちたようだ。顔を真っ赤にして、姉を凝視している。また、一人信者が増えたな、マルティナは冷めた目でその情景を見ていた。


 「ええと、通常業務についてはご説明した通りなのですけど、特別イベントを今年も開催したいと思います。長期休暇前に、学園全体でガーデンティーパーティーを開催します。楽しいイベントになるよう、皆さまご協力よろしくお願いしますね」

 姉は、ぱんっと一つ手を打つと、今日は散会かと、帰り支度をしていた皆の前で爆弾発言を落とす。


 「えっ?」

 下座で、おとなしく座っていたマルティナから、思わず言葉が漏れる。姉との打ち合わせの時には、今年は通常業務のみで、最低限のことをして、つつがなく回していくということで、話はまとまったはずだ。


 「会長、しかし、長期休暇前といいますと時間もないですし、前例のないガーデンパーティーとなると準備にも手間がかかりますし……暑い季節ですし……野外となると……」

 驚いたのはマルティナだけではなかったようで、副会長からも物言いが入る。


 「わたくしも、生徒会が形骸化していて形だけのものになっていることは存じております。でも、皆さまはそれでよろしいのですか? わたくし達の生徒会がこんな華やかで楽しいことを成し遂げたんだという形で記憶に残りたくはありませんか? 人生も学園時代も一度きりです。思い切りやりましょう」

 そう言い切ると妖艶な微笑みを浮かべる。姉が言うと本当にできそうな気にさせる力があるから恐ろしい。はじめはざわざわと不安そうにしていた周りの表情も少しずつ変わってくる。


 生徒会役員達が座る席に座っているブラッドリーとエリックの顔も険しいが、さすがにここで姉に盾突くほど無謀ではないのか無言を貫いている。


 「わかりました。一番お忙しい会長が、そうおっしゃるのであれば……次期公爵夫人の采配についていきます!」

 副会長の諾の返事により、姉の思い付きは決定事項となってしまった。マルティナはまた、新たなる重荷の予感に青ざめる。


 「とはいえ、わたくしも結婚式の準備や公爵夫人教育で、生徒会活動に参加できないこともあります。そんな時は、妹のマルティナになんでも申し付けてくださいな。マルティナは残念ながら成績が振るわず正式な生徒会役員ではありませんが、顧問の先生に申請して、生徒会のお手伝い係としての申請は通りましたので。


 わたくしへの伝言はもちろん、皆様もお忙しいと存じますので、雑用などはどんどん、マルティナに振っていただいてかまいません。ええ、恥ずかしながら婚約者もおりませんし、勉強も好きではないので、時間が余っておりますのよ。遠慮なく、どうぞ」


 マルティナへの棘をふんだんに含んだ発言を、誰もいぶかしがることなく、むしろほっとしたような空気が漂う。


 ブラッドリーは今にも噛みつきそうな表情をしているが、エリックが上手くなだめて、押さえてくれているようだ。マルティナは二人と目を合わせると静かに首を横に振った。こうなったら、姉は誰にも止められない。ブラッドリーが姉に突撃したら、ただでは済まないだろう。姉はおっとりとしているように見えるが、その実、我が強く、苛烈な性格をしているのだ。


 これは、姉だけではなくて、他の生徒会役員の仕事も押し付けられるのでは?

 姉に関するマルティナの悪い予感は外れたことがない。


◇◇


 「なぁに、その顔」

 今日もマルティナは、姉に何も言えない。何も言えないけど、不満の気持ちがどこからか漏れていたのかもしれない。帰りの馬車に揺られながら、姉に問いただされる。


 「やることができたのだから、もっと喜びなさいよ。ほら、お友達だってできるかもしれないじゃない。ふふ、子爵家や男爵家、平民のね。マルティナにはお似合いなんじゃない?」


 「生徒会長の仕事の洗い出しが終わったら、後は雑用だけだと約束していたはずではないですか?」

 仕事の洗い出しを手伝ってくれたブラッドリーやエリックを馬鹿にされた気がして、むっとして思わず言い返す。


 「仕方ないじゃない。婚約者のクリストファー様から、期待しているよって言われてしまったんですもの。去年のクリストファー様も慣例にない、改革やイベントをして、成功しているわ。彼に恥じないわたくしであるためには必要なのよ。さすがに、改革は無理でも、イベントくらいできるでしょ? うんと派手なものにしてよね」


 「年間の予算も決まっていますし、準備期間も短いので、無理のない範囲でしかできません」


 「ほんっと、マルティナってつまらないわよね。常識的で、四角四角してて。そんなだから、婚約者も友達もいないのよ。せいぜい、わたくしのためにガーデンパーティーを成功させてちょうだい。まめに報告をあげるのよ。あと、会場の装飾やお茶菓子はわたくしがコーディネートするから。お茶会に出たこともないマルティナには無理でしょう?」


 「わかりました。お姉さま」


 姉と何か会話をしようとしても、不快な言葉ばかり返ってくるので、疲れてしまう。早々に会話を切り上げると、目を閉じて、これからやるべき事や懸念事項を頭に思い浮かべることに集中した。

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