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<番外編>自分の想いを知る時③ side エリック

 どれだけ仕事ややる事が立て込んで、夕ご飯の場に顔を出せなくても、朝食だけは早い時間に取るようにしている。朝に弱い母上や姉達と違って、リリアンは休みの日でもいつも朝早くの決まった時間に朝食を取る。


 その日は久々の休みで、眠っていても良かったのだけど、リリアンと一緒にいられる時間は朝食ぐらいなので、眠い目をこすりながら朝食の席についた。


 「エリック、今日よかったら、植物園に出かけない?」

 リリアンからの思いがけない誘いに胸が弾む。静かに食後のコーヒーを飲む父上をちらりと見ると、行ってこいというふうに手を振っている。余計な邪魔が入らないうちにとそそくさと出かけることにした。


 植物園とは、貴族の庭園を期間限定で有料で開放されているものだ。それほど混雑していないし、見ごろの花が咲き乱れて、整備され、見ごたえがあった。


 ちゃっかりとリリアンと手を繋いで歩くエリックは、花よりもリリアンばかりに目がいってしまう。今日は花を見に行くからなのか、リリアンは薄桃色の巻きスカートに、ふんわりしたシルエットの白いシャツに首元に紫色のブローチをつけている。足元は歩きやすいようになのか、ピンク色のブーツだ。金色の髪と青い瞳と美しい造形で、まるで人形のように可愛らしい。歩くたびに、薄桃色のスカートがふわりと揺れる。


 「本当に可愛いわね……」

 「ねー、綺麗でしょ? エリック、最近忙しそうだったから、いい気分転換になるかな?と思って」

 リリアンへの感想を花への感想と勘違いしたリリアンが得意げに言う。


 あーもう、好きって言いたい。つきあいたい。でも、まだ独立も除籍の段取りも整っていない。そう思っているエリックに、リリアンの方から直球で告白された。素敵な花を添えて。


 リリアンってどこか肝が据わっているのよね。

 自分から告白したくせに、どこか弱気で、つきあうとか結婚ということを視野に入れていないリリアンに、とにかく押して、つきあうことを了承してもらった。リリアンとエリックの気持ちの重さに違いがあろうと、リリアンがエリックを男として好きならば、もう手加減はしない。


 「ねー、エリック、本当にあの事務の子に心揺れなかった?」

 リリアンと二人、帰りの馬車に揺られながら、幸せに浸っていると、不安げに問われる。


 「揺れるもなにも、アタシはリリアン以外の人を好きになったことなんてないわよ」

 「だって、あの子、私に雰囲気似ているし、お人形さんみたいに可愛いし、仕事もテキパキしてるし……」

 「確かに、あの子から思わせぶりな態度を取られたし、本人も自分に自信満々だったけど、それだけのことよ。リリアンには一つも似てないわよ、外見も中身も。アタシにとって、リリアンとそれ以外の女の子ってかんじなのよねぇ。リリアンの代わりはいないのよ。だから、安心して」


 リリアンは今日はハーフアップにしている自分の金髪を触りながら自信なさげにしている。確かにあの事務の子も、この国には珍しい金髪だし、琥珀色の瞳で整った顔をしている。人の美醜を比較するのは、あまりしたくないけど、それでもリリアンは比べものにならないくらい可愛くて美しい。外見も、中身も。本人はなんでこんなに自信がないのかしらね?


 「そっかぁ……よかった。よかった」

 少し目尻に涙を貯めて笑うリリアンに、たまらない気持ちになってキスをする。なんで、リリアンを相手にするとこんなに我慢がきかないのかしらね? リリアンが可愛いのが悪いのよね。


 リリアンの喉元に飾られているブローチの縁をなぞる。このブローチも可愛いし、きっとエリックを思って紫の石の物を選んでくれたのだろう。可愛いし、今日の服装にもあっている。でも、これはたぶんカリスタ姉さんからのプレゼントだ。自分からもアクセサリーを贈ろうと心に決めた。


 かつて、親友のブラッドリーがつきあってもいないのにマルティナの事を思ってルビーを購入して、それをずっと持っていたのを気持ち悪いと思っていた。だけど、想い人にアクセサリーを贈り、それを身に着けているところを見たいと思う気持ちはわかる気がした。


 それから、エリックは店で事務の女の子に制裁を加え、リリアンを連れて独立した。店を軌道に乗せるために奮闘しつつ、リリアンとの結婚のためにじわじわと外堀を埋めていった。ブラッドリーの兄のレジナルドも裏で画策するタイプで、自分も同じタイプなのかもしれないと思いながら、素直にアドバイスをもらって、事を進めていった。忙しい日々を過ごしながらも、リリアンにちょっかいをかけていた商会の息子に制裁を加えるのも忘れなかった。

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